柔らかいものに包まれて
みんな俺のことが嫌いなんだ。
体はいつも冷たくて、手も足もなくて細長い体をしているから。
俺の姿をみると、逃げるか殺そうと襲いかかってくる。
だからみんな嫌いだ。
それに比べて、あいつはみんな好かれている。暖かくて柔らかくて、手も足もあって。
尻尾なんて真ん丸だ。
耳は長くて。
あいつをみると、誰もが可愛い、可愛いって近づいていく。
俺とは大違いだ。
あいつのことが俺は一番嫌い。
だけど、あいつは、あいつだけは俺に優しい。
俺にはあいつしかいない。
「うわ!出た!殺せ!」
昼寝したら大きな声がして人間が襲いかかってきた。
いたい。
いたい。
人間が俺を殺そうとしている。
俺はそこで寝ていただけなのに。
頭を殴られた。
もう死ぬしかない。
だったら、死ぬ前に一矢報いてやる。
うさぎ、うさぎがきやがった。
そのとたん、人間どもの殺気がおさまる。
うさぎはその間に俺に逃げろとばかり合図をする。
だけど、俺は瀕死だ。
もう死ぬ。
逃げる体力は残っていない。
だったら、その前にあいつらに。
だけど、うさぎはそれを俺にさせない。
悔しい。
動かなくなっていく俺をみて、人間どもは気が済んだのか、いなくなる。
残ったのは俺と、うさぎ。
うさぎは近づいてくると、俺を頭を抱え込んだ。
口元によるな。
俺の牙には毒がある。
だけど、あいつは構わず、近づいて、俺の牙があいつを傷つけた。
「蛇。一緒だよ。一緒に逝ってあげる」
俺は蛇だ。
涙なんて出るわけがない。
だけど、俺の瞳から水がこぼれた。
うさぎは微笑む。
こいつはどうしようもない。
俺なんかに構うなんて。
うさぎの柔らかい体に包まれて、俺は暖かさを感じながら死んだ。
生まれ変われるなら、こいつを傷つけない、うさぎになりたいと思いながら。