お土産話を沢山持って
[涙を流して君に微笑む]
夏の空はすっかり秋の色に変わっている。
木についている葉も少しづつ枯れてきていた。
まだまだ日の下は暑いが、木陰は涼しいそんな季節だ。
夏休みの最後の週。
僕は君に会う前に地元を散歩することに決めた。君にサプライズだ。お土産話はいくらあっても邪魔にはならないだろう?
昔よく君と遊んでいた場所へ。
君との思い出の場所へ。
まずはやはり公園だろう。
入口から全体が見えるほどの大きさ。さほど大きくはないがあの頃の僕達にとっては、大きかったもの。
昔の遊び場として、何も考えずブランコを漕いだり、砂場で遊んだりしたのがいい思い出だ。
確か、ここにはある噂がたっていた。
“赤い滑り台を一人で降りればお化けに連れ去られる”
なんていう噂だ。
君がやろうとして全力で止めたのを覚えてる。
今思えば急な坂になっていたので、危ないという事だろう。
その公園を反対方向に抜けると、次に出てくるのは小学校。
幼少期の六年間を過ごした小学校には沢山の思い出が詰まっている。
入学式から卒業式。沢山の思い出を作った場所だ。
校庭の遊具は全て変わり、綺麗な色を放っていた。あの頃は大きく見えた校門も今となっては低く感じる。
大分錆び付いた校門に手を置くと少し手が茶色くなった。
手には、少し癖のある匂いがついた。
近くにある花屋により、小ぶりな花束を一つ買った。
黄色と青のカーネーションだの花束だ。
次はどこに行こうか?
下校の道を歩きながら空を見上げた。
最近まではブルーダイヤモンドのように綺麗な青色だった空も、少しずつ鱗雲が増えてきている。
足にあたった小さい石で足を止めるとそこには昔ながらの駅が建っていた。
木で作られた駅にはベンチが置かれ、小さな〈チリン〉となる風鈴の音が静かになっている。
僕がここを出て、高校に行くときも君は送りに来てくれた。
平然としていた僕の前に現れた君は涙をながしそうな顔で笑顔を作っていた。
だけど、次第にどんどん君の瞳から涙が溢れてくる。
昨日もないていたのだろう。目の下が少し赤くなっていたのを思い出す。
「手紙絶対送ってこいよ」
といった声は少し震えているものだ。
その時、僕はなんと返しただろう?
でも、結局あれから手紙が来ることは一通もなかった。
そして、これからもないだろう。
君がかつて立っていた場所に立つ。
もうそこには居ない君に思いを馳せた。
何年も前から変わらなく鳴り続ける風鈴が、止まった気がした。
「またねっ、かぁ……,」
最後に行く場所は、溜まり場になっていた駄菓子屋だ。
古びた看板は昔と変わらず、出入り口には肩までの暖簾が付いていた。
もうすぐ夏が終わるというのに、アイスとラムネは相変わらず並んでいる。
アイスを手に取り二つ繋がっているアイスを手に取った。クーラーボックスからアイスを取り出し、暖簾をくぐる。
懐かしい匂いと木の匂いがする店内は、沢山のお菓子が並んでいた。
昔、少ないお小遣いで買い物したのを思い出す。
レジに向かって歩いていたその時、君が好きなお饅頭が目に入った。
よく好きだ好きだと言って食べていた饅頭。あの頃よりは値段も上がっているが、買えない金額ではない。いや、むしろ全然買える金額である。
饅頭一つ買い、レジ袋の中に入れる。
プラスチック独特の潰れる音がなった。
アイスを手に持ち店前の変わらない焦茶の椅子に座る。やはり前より小さくなっている。
袋を開けアイスを二つに割った。
そして、僕は何もない空中にアイスを差し出した。 僕は強烈に後悔をした。
いつもは君が隣にいたからこのアイスを買っていた。だが、今は君が隣にいないのだ。完全に忘れていた。
今までずっと一人で歩いていたのに、君がいると思い込んでしまう僕に自分で頭を抱える。あぁ、何やってんだ。
しょうがなくもう片手に持ちかじった味は、あの頃と変わらないシンプルなソーダ味だった。
今は少し素朴な味だが、あの時は高級な味だった。
少し溶けかけ、キラキラと光るアイスを太陽に照らしながらそう思う。
「冷たっ」
僕の小さく漏れた心の声は風に連れ去れて行った。
花束を袋に入れて、僕は歩き出した。
目的地はもう決まっている。
君のいるところだ。
彼がたどり着いた先は、小さな墓地だった。
お墓が並ぶ道をあるき、とあるお墓の前で足を止めた。
「久しぶりだね」
僕は墓の前で手を合わせながらそう言った。
花束を添え今日あったことや今までのこと、沢山増えたお土産話し出した。
公園にサッカーボールが落ちていたことや、校門が思ったより低かったこと。駅に行ったこと、駄菓子屋で失敗いしたこと、学校のこと。
世界は広いということ……。
「……君が言うように、楽しいことは沢山あったよ。
案外一人でも平気なもんだね。」
沢山話した後、僕の目には涙が溜まった。
ボロボロと落ちる涙を見て見ないふりをする。だが、視界が完璧にぼやけていた。
「でも平気と楽しいは違うんだ。なぁ、早く戻ってきてくれよ」
最後の君のように震えている声。
僕の涙が花束に一滴落ちる。
涙が落ちないように見上げた空はブルーダイヤモンドのように綺麗だった。さっきの空が嘘かのように雲一つない。
「君がいないと楽しくないよ……。」
あぁ、僕はあの時こう言ったんだ。
“最後は笑顔が一番似合うと”
彼は袋の中から、饅頭を取り出して供えた。
少し潰れたプラスチックの箱に無機質な輪ゴム。
「また会う日まで、沢山の思い出話を作ってくるよ」
僕はそう言い少し涙の溢れた瞳を閉じ、口角を上げた。
最後に彼はそっと音を立てないように何かを置いて、彼はその場をさった。
その墓には、一通の手紙が置いてあった。
きっと涙でできたであろうシミが残っている手紙が。
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