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第3話 魔法合戦を阻止せよ

 激戦地ジェラーンバムダ丘陵(きゅうりょう)地帯は、古くからマキシアス大陸の人々が決戦場として利用して来た土地である。元は花咲き乱れる美しい大平原であった。しかし大規模な戦闘に向いている要衝(ようしょう)として(もく)され、以来、度重(たびかさ)なる争いがここで行われて、草木は枯れ地平はねじ曲がり、多数の死傷者を出した恐ろしい古戦場(こせんじょう)と成り果てた。


「魔法使いたちを護るように、彼らを中心にして兵を布陣(ふじん)せよ!」


 今また、お互いの考えに行き詰った者同士が、最悪の行進を始める。オオトリ派の大軍5万に対抗してワシ派も5万の軍で争う構えだ。しかも、やってはならぬと誰しもが承知しているはずの<魔法合戦>で決着しようというのである。


 両陣営(りょうじんえい)の兵士や魔法使い、総勢10万が、もうすぐ狂気の(ふち)から落ちようとしている。オオトリ派でもワシ派でも、今の彼らは理想を胸に動いていない。自分たちとは異なる者を力づくで封殺(ふうさつ)する――あるのはそれだけだ。精神的な指導をする立場にある者たちでさえ、人々の暴走を止めることは出来なかった。


 元々<古代>において大陸では、男系血族(だんけいけつぞく)社会が長らく続いて来た。その行き詰まりの中で、人の生まれながらの平等と男女の平等、また各都市間での自由な往来(おうらい)および文化交流を求める人々が増え、彼らは結束(けっそく)して「オオトリ派」を自称(じしょう)した。これへ(あらが)う形で、元の血族社会を守らんとする者たちは「ワシ派」を名乗る。血族という主語から個人という主語へ――彼らはそれをもっと話し合うべきであったが、「理想」は政治的な「対立」へと発展してしまう。


 <戦争>は、政治の極端(きょくたん)の現れ、その表現方法の一つである。今日これから、また悲しい歴史の一幕(ひとまく)がくり返されようとしていた。オオトリ派はワシ派への憎しみに駆られている。ワシ派とて、そうだ。


「敵陣へは火球(かきゅう)を中心に魔法を放て。そのあと、後方で(ひか)える者たちへの攻撃に切り替える」


 <魔法合戦>が最悪である理由は、立場や力の弱い者――――病人・ケガ人・お年寄り・女性・子供たち――――を優先して攻撃するところにある。弱者への暴力と、その結果の悲惨(ひさん)さは、激烈(げきれつ)な怒りと憎悪(ぞうお)応酬(おうしゅう)という底なしのドロ沼へ人々を突き落とす。その炎は地上の全人類を焼き尽くすまで止まらないだろう。


 両軍の準備が整ったようだ。戦死者をなぐさめるセレモニーのために建てられた石造りの高台(たかだい)が、この地にたくさん()えられている。皮肉なことに、現状では争いの開始を告げる角笛(つのぶえ)を吹き鳴らすための高所(こうしょ)として使われてしまう。


()てーーーっ!!!」


 ひとつの角笛の音が「死の時」を告げて不気味(ぶきみ)に響き渡る。これに共鳴して戦場の至るところで同じ音が不吉な知らせを大陸にもたらす。お年寄りが、女性が、赤子(あかご)が危ない!!


            *     *     *


 大気を焼く音とコゲた匂いが充満(じゅうまん)する中で、曇り空を、真っ赤に燃える火球が行き()う……!まさにその下を――200m(へだ)たれた両陣営の間を、七、八騎の一隊(いったい)が駆けてゆく。称号の剣を右手にしたナザーリィを中心に、彼の仲間たちが戦場へ突然、現れたのだ。


 『破魔縛呪滅業』を従えたナザーリィたちは憎しみの(うず)の中心に陣取る。『剣』の所有者は右手のものを両手持ちし、頭上で灰色に輝く太陽を見つつ剣を高く掲げた。圧倒的な数の魔法が左右の陣から放たれ、押し寄せて来るのを、<唯一(ゆいいつ)の対抗手段>が感じ取っている。うす明るい日光がブレードに反射して鈍く(きら)めく。


 その頭上で今、交差(こうさ)しようとする、千の、万の呪術と魔術!剣士ナザーリィは目を閉じて、行き交おうとする魔法に意識を集中する。周囲を仲間たちに護られて。


 名剣の所有者はまるで、巨大な海獣(かいじゅう)クラーケンをも飲み込む大渦潮(おおうずしお)を起こすごとく剣を振り回し、大軍の勝利を確信した将軍の(はた)のように高々と剣を突きあげた。


 その度に、称号の剣は、ほとんど地獄の業火(ごうか)さながらに飛び交う魔法、呪術や魔術のことごとくを、そのブレードに吸収して行く!巨大な火球でさえ、あたかも竜巻(たつまき)に吸い取られる枯れ葉も同然で、備えている魔力の全てを、ひとたまりもなく巻き取られてしまうのだった。

 ナザーリィは一人の剣士として<批判>する。


「人を傷つけるための争いに、何の意味があろうか!」


 憎しみやエゴイズム――自分に向けられた悪いカルマを滅ぼして、剣の所有者は良いカルマを積み上げてゆく。それこそが「名剣」の真価だった。ナザーリィは、戦いの地で発生する全ての魔法を余すことなく呼び込もうとして、強烈な自我(じが)(あら)わにする。


「ナザーリィはここだ!我こそは一切の魔法の威力を奪い尽くす<偉大なる剣 グレートソード>の所有者なり!!」


            *     *     *


 その頃、アテルイたちは後方の作戦本部で会議中だった。

「魔法合戦には反対でございます、アテルイさま!」

「ついに人類は、越えてはならない一線を踏み越えてしまうのです!」

「これでマキシアス大陸の人類も、お(しま)いか……!」

 こうした(なげ)きを受けて自責(じせき)(ねん)を強めるアテルイ。

「私にも、ものごとの流れを止めることは出来なかった」

 ここへ、息を切らして使者が数名、到着する。

伝令(でんれい)!ワシ派のナザーリィが戦場へ現れて、魔法合戦を食い止めているらしいとの報告でございます!」

「そうか……よし、私も現地へ行こう」


 腰を上げて素早く身支度(みじたく)を整える幹部(かんぶ)たち。彼らはナザーリィを憎むと同時に彼へ感謝し、その行動力を高く評価していた。あの男を悪く言う者も居る。けれども、そんな男ではないとアテルイは見抜いていた。彼には、自分とは異なる強い信念を感じるのだ。


 戦場を見守っていた、ナザーリィの仲間である黒い肌の賢者、「時間の」マーグレスは満足気(まんぞくげ)に述べる。

「これで我らの世界、アーマフィールドも救われたな」

 まだ新しい仲間が問う。

「アーマフィールドとは何です?」

「<全世界>には1億もの異なる世界が存在すると言われている。その中でも2000万の世界に、文明文化の発達した人類が生存していると考えられるのだ。我らの暮らすマキシアス大陸も、<アーマフィールド>と呼ばれる独立した世界の一部なのだよ」


 ワシ派とオオトリ派の間で巻き起こった<魔法合戦>は、ケガ人も最小限に抑えられて終わった。アテルイたちが到着する。

「ナザーリィ、きさまか!!(れい)は言わぬ!」

 しかし彼は、この地で起きたことの重大さを承知していた。頭では剣士ナザーリィのことを認めていても、心がそれを許さない。


 こうして、価値観の違いについては戦争をしても決着せず、犠牲者(ぎせいしゃ)が出るだけだと、ようやく気付いた両陣営。オオトリ派のアテルイと、ワシ派の指導的立場にある「長老王(ちょうろうおう)」ミドダドらによって、一時的な休戦の和議が結ばれて戦いは終結する。


 人類が滅亡を(まぬが)れたと、人は言った。しかしまだ一部の狂信的なオオトリ派の者たちは、危険なほどにナザーリィへの憎しみをつのらせていたのであった。




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