砉
この話はフィクションです。
なになに、読み方がわからない漢字がある?
あー、この漢字の読み方か。知ってるよ。
どんな意味があると思う?
答えを教える前に、少し昔話をしよう。
漢字ってことは、古代中国にゆかりのある国の話だ。
字の成り立ちには諸説ある。噂かもしれないから、気楽に聞いてくれ。
その国を治めていた帝は優秀ではあったが、とても残忍だったそうだ。
戦争で捕えた捕虜を集めては、様々な方法で処刑していたそうだ。
中でも一番気に入っていた処刑は串刺しだった。
中世ヨーロッパでドラキュラ候ヴラド3世が串刺し候と
呼ばれていたのは聞いたことがあるだろう。
昔から有名で残酷な処刑方法なんだ。
何故、残酷なのかというと、串刺しというのは即死しないんだ。
捕虜の肛門から先端を丸くした杭を刺すと、
処刑される側の自重で徐々に貫かれていく。
だから、心臓や肺に損傷がない限り、死ぬまでに時間がかかる。
え? なんで『串』刺しなのに、先が丸い杭を使うのかって?
わざわざ鋭くない杭を使うことで、苦しむ時間を長引かせたんだ。
こんなの、誰が思いついたんだろうな。
さて、帝の話に戻ろう。
帝は、盆栽でも見るように、拷問によって日に日に弱っていく、
捕虜たちの姿を見るのが毎日の楽しみだった。
体のあちこちから杭が飛び出て、
『もずのはやにえ』になっている様も鑑賞した。
最終的には、杭から死体を剥がす。
杭に皮だけを残し、内臓など中身をすべてとりのぞく。
この死体を剥がす作業の時に音が出る。
捕虜が撲殺される最中に出てくる最期のイビキや、
焼殺されるときに漏れるうめき声なんかも、
帝は気に入っていたが、中でも一番好んだ音が、
杭から剥がすときの、ほねとかわとがはなれるおとだった。
処刑人によって作業の腕前に差があり、音色にも差が出た。
帝は最も作業が上手な男を厚遇し、石で作られた家に住む許可を出した。
木と布で作られた家、粗末な地べたに住むような家が多かった当時、
石でできた家に住むことは、一種のステータスだった。
その立派な家に、男は妻と二人の子どもたちと住むことができた。
処刑を重ねるごとに技術は冴え渡った。
帝の恩寵も受けた。誰よりも綺麗でおぞましい、
ほねとかわとがはなれるおとを出せる自信もあった。
何不自由なく暮らしていた男であったが、
ある時ついに良心の呵責に耐えられなくなった。
いとまごいを申し出る相手は残忍な帝である。
帝の意に背いて辞めるといえばどんな扱いを受けるかわからない。
それでも男は仕事を辞めたいと申し出た。
仕事を辞めたあとにやりたいことなどなかった。
ただただ、恐怖や痛みに歪む捕虜の顔を見たくなかった。
死体を剥がすときの音を聞きたくなかった。
意外にも、男の申し出を、帝はあっさりと了承した。
脇にいた大臣にいくつかことづけ、男のために送別の宴を開いた。
男は、粗相のないうちに帰ろうとしたが何度も引き止められ、
その別れを惜しまれた。宴は三日三晩続いた。
宴が終わり、帰路に着いた男は違和感に気付いた。
家のうえに何かがある。いや、何かが刺さっている。
近寄るにつれ、正体がわかった。
妻と子供二人だった。
家族だったものは、串刺しにされて自宅の屋根に置かれていた。
たしかに男は仕事から解放されたが、帝から許されてはいなかった。
死体を剥がすときの音を聞きたくなくなって仕事を辞めた男だったが、
3人を串から降ろすために、家族の体から出てくる、
ほねとかわとがはなれるおとを聞くことになったとさ。
漢字の読み方と今の話が、どうつながるのか?
字の成り立ちには諸説あるから、噂話かもしれないんだが・・
もう一度、漢字を良く見てくれ。
石でできた家のうえに、串刺しになった3人が並んでいるだろう。
やっぱり読み方がわからない? 話の中に何度か出てきただろう。
”ほねとかわとがはなれるおと”
って読むんだ。