結婚式前夜 香織の場合
恋の話をしよう「結婚式前夜 香織の場合」
結婚が決まった。
結納も済ませた。
ドレスも決めて、引き出物も決めた。
あとは式をするだけ…
同期の中では遅い方だった。
色々、話はあったが、ずっと断っていた。
今の彼は申し分ない。
一流大学卒、一流企業勤務、家柄良し、性格良し。
私には、勿体ないぐらいの好青年だ。
父も母も大喜びだ。
会社のみんなも祝福三昧。
叔父には感謝しなければならない。
私には、幸福な人生が待っている。
待っている…
明日は式の日だ、
今日は早く寝よう。
彼にLINEする。
「明日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
真面目なLINEだ。
いつもそうだ…
何か、落ち着かない。
スマホを見る。
ー ー ー
元彼の電話番号があった。
まだ電話番号、消して無かったのか、
LINEは当に消していたのに。
消そう、
どうしよう、
やっぱり消そう、
うっかり押してしまった!
プルルルルー、プルルルルー、
「はい、橘です」
「……」
「香織?」
「……」
「香織だろ」
「…そう」
「どうしたんだよ」
「うん…」
「元気?」
「元気だよ」
「…ま、まだ、バンドやってるの?」
「ああ、やってるよ、明日、ライブなんだ」
「明日!?」
「いや〜久しぶりのライブだから気合い入れてさー、またタトゥー増やしてちゃったよ〜」
「ええ〜?またー」
「カッコイイぞ、見せてやろうか」
「うーん」
「ウチの父が嫌いなやつだ」
「そうそう、初めて香織の家に行った時、凄い嫌な顔されたよな〜」
「ハハハ、そうそう」
「あれから、出禁くらったな〜」
「そうそう」
「……」
「……」
「……今度、結婚するんだ」
「…そうか、それは良かったな」
「幸せになれよ〜ベイビー、草葉の陰から応援してるぜ〜♫」
「ハハハ、なに、それ」
「結婚応援ソング!」
「ハハハ、」
……
……
「じゃあな、」
「うん、ライブ頑張って」
「ああ、」
カチャ、
ーーーー
ーーーー
スッ、
私は住所録から元彼の電話番号を消した。
カチ、
スマホを閉じる。
ドレッサーを眺める。
古びたネックレスが一つ掛かっていた。
「安いネックレス!」
窓の外を見つめる。
「さぁ、早く寝よう」
パチ、
電気を消す。
暗くなる。
涙が一つ……