渾身そして道化
「【苦しめ】」
ただの言葉ではない、頭の奥底に入り込んでくる能力による言葉。
ただその言葉を聞いたのみでは深い異常は起きない。
だが、ナポレティスは、その言葉を受け止めすぎてしまう。
ナポレティスは、聖教会の騎士団筆頭である。
そのため、部下や人からの意見を真摯に受け止め、行動に移す。まさに善人といわれる人物であった。
それを理解していた魔王は能力で言葉を発した。それを、受け止める。理解する。実行する。
その流れは完全に魔王の思惑通りとなる。
─突然、ナポレティスの力が弱まる。突きの威力も減衰し、魔王は片手で抑えられる程となってしまった。
竜と氷狼から見た時、それは一手一手が致命傷な、お互いの攻撃が弱点の、速度の勝負であった。
ナポレティスが優勢であったにも関わらず、一瞬にして立場を入れ変える。魔王が一手上回るっていた。
加勢しようにも、今の魔王には攻撃は一切効かないだろう。
そうして傍観を続ける時、戦いは進んだ。
ナポレティスの背中の羽根がだんだんと黒く染まり、形状も痛々しく、刺々しい形に変化した。
やがて、ナポレティスは力を取り戻していき、剣に魔力を込めた。
「俺の勝ちだ。【神刃】」
そう唱えた瞬間、剣が神々しく輝き、魔王の心臓を再び捕らえた。
「っ!何故…何故効かない!」
「さあね!」
ナポレティスは、剣を更に奥に突き刺す。
魔王は抵抗する。
だが、無駄の足掻きに過ぎない。
ナポレティスは更に力を込め、魔王の心臓を貫いた。
「……っ」
静かに、ゆっくりと、魔王の力が抜けていく。
目から光が消え、肌の色も薄く、くすんでいく。
「──った?」
氷狼は、氷狼だけは勝ちを信じた。
王の、我らが王の、渾身の一芸。
その神々しさは本当の神と対面しているような、人では感じる事が出来ない感情であった。
だが、その光に惑わされぬ者。
竜は、自身の主が倒したという確信は、一切持っていなかった。
直接刃を交わした者だからこそ分かる。
魔王は、まだ生きている。
それはナポレティスにも分かっていた。
最後の心臓を貫いた刹那。
心臓の手応えが消失した。
転移でもしたかのように、心臓が無くなった。
もう魔王は満身創痍であったはずだ。
顔も、肌も、どこを見てもそう言える。
ただし、それはナポレティスの攻撃によるものだったのか?
答えはNoだ。
魔王は、自分で自分の命を止めた。
貫かれると確信した刹那の間に、小細工を仕込んでいる。
─それは、復活の鼓動。
全てを覆す最強の一手。
敵も、味方も、自身さえも欺くJOKER。
二枚目の道化師が、再び魔王を呼び起こす




