死の直前と再会
「こいつ…ただの王じゃないぞ…」
氷狼の言葉など何処吹く風
竜と魔王にとってそれは、あまりに些細な情報であった。
互いにとって、過去最強の敵。
それ意外は、道端の蟻を踏み潰すほどに些細な出来事だった。
魔王は、おもむろにヨーヨーを取り出す。
それに合わせ、竜も剣を構える。
そんな二人の顔には、うっすらと笑みが浮かんでいる。
ただの高揚感ではない。
強者と強者のぶつかり合い。
片や過去数千年に渡り、人類と敵対し、強大な力を手にした生命。
片や生まれて数百年で魔王となった、人類の歴史と魔の歴史をその身に宿す生命。
お互い、対等に戦える好敵手というものと縁がなかった。
そんな中、目の前には自身よりも強い可能性のある生命。
興奮を隠すことも出来なかった。
「楽しもうか」
魔王がヨーヨーを竜に向けて飛ばす。
竜は剣を一振するだけで、そのヨーヨーを弾いた。
ヨーヨーが弾かれるのは想定内。
魔王はトランプを取り出し、ハートの12を一呼吸の間に連投する。
そして、手元にあったハートの13に剣を突き立てた。
「…ッ!」
ヨーヨーを払った腕の内側から、トランプが向かってくる。
ただのトランプであれば対処は可能であろう。
もしぶつかったとしても影響は無い。
だが、向かってくるトランプからは、鋭い刃が伸び、顔面に切っ先が迫っていく。
竜は、切っ先に向かって顔を、額をぶつけに行く。
額を刃が突き破る瞬間、氷狼の魔法が刃にぶつかった。
刃は一瞬にして凍りつき、ただの頭突きで粉々に砕けた。
「危なっ!」
「…氷か」
魔王は、壺型の小さなビンを手に持つと、蓋についた棒を取り出す。それは先端が円形である不思議な形の棒であった。
その円の中に空気を送り込むと、空気が球体になって固定される。
その球体は少しづつ、空間が広がるように大きくなり、色もつき始めた。
最初は白に。そしてゆっくりと、魔王の体を覆う色と同色になり、形すらも魔王と同じになっていた。
危機に気づいた竜と氷狼は、すぐにその分身を破壊するために動いたが、分身はそれを軽々と回避する。
その隙に魔王は無数の分身を造り出す。
──分身が100を越えた頃、竜も氷狼も目に見えて疲れが出ていた。
「やはり人の体は疲れるな…」
「弱音か?」
「ご冗談を」
表面上は軽々取り繕っていても、息もあがり、いつ限界がきてもおかしくない。
こんな時でも、竜と氷狼は本体からの攻撃を避けながら分身を倒し続けている。
そんな瞬間、二人の足下にハートのトランプが投げ込まれた。
「っ!」
ハートの11は、地面と接触した瞬間に強く、光輝く。
氷狼の魔法も間に合わない。竜に出来る術はない。
もう終わりかと感じた
ハヤトに、皆に謝意の気持ちを抱えた──その時だった。
「【花雷】」
花弁のような形をした、鋼色の物質が玉座の裏から出現した。
花弁はトランプの周りを包み込み、爆発は花弁の中に閉じ込められ、空気の揺れも一切起こさずにトランプの影響は消え去った。
「…遅くなったね、ハヤト君」
玉座の裏には、魔界に来る前に最後に見た顔。
竜と氷狼、魔王ユカイに気がついていないながらも、即座に危機を見抜いた男。
ナポレティスが立っていた。




