新生魔王ユカイ
ハヤトが目を覚ますと、そこは薄暗い牢屋のような場所だった。
目の前には金属の檻、地面は謎の石畳。
藁?と、深い穴が開いているだけの質素な牢屋だ。
落ち着いて自身の持ち物を確認するが、剣はおろか、隠し持っていた糖菓子まで奪われている。
であれば、ハヤトに出きることは一つ
何もせず、ただひたすらに誰かが来るのを待つだけだ。
穴を覗いてみるが、奥から腐敗臭が漂ってきたり、奥が一切見えないため、飛び込むのはやめておいた。
再び藁に横になるが、体を休める程には量が無く、仕方なくその上に座って待つことにした。
数十分もすれば誰かが来るかと期待したが、一向に来る気配がない。
飢え死にするよりはマシ。と穴に飛び込むか覚悟を決めていた所、突然声をかけられた。
「そこはトイレですよ。勇者サン」
聞こえた瞬間、ハヤトは動揺を隠せなかった。
声は、そう。ユカイだった。だが、いつもとは違う、禍々しくも美麗な、人とは違う動物の鳴き声を聞いているような気分になる、恐ろしい声色だった。
振り返ると、立っているのは確かにユカイだった。
だが、どこか違う。
見ているだけで不安感が煽られ、体の底から拒絶しているような気分になった。
「っ…おまえは、誰なんだ?」
別人。
そう、確信してしまう。だが、見ているのは確実にユカイだ。
何故なのだろうか。
その真実は、ユカイ本人の口から語られることになった。
「オレ?」
「オレはユカイだ」
「勇者である、おまえの仲の良い人物を演じていただけの」
「元四天王幹部にして」
「現、新生魔王に至ったただの魔人だ。」
そうだ。魔王だ。
おれは、あの迷惑な魔王に反逆した、新生魔王だ。
ハヤト。おまえは勇者なんだろう?
ってことは、おまえを捕らえた瞬間、オレを邪魔するヤツはいなくなった。
全てはユカイの作戦の内だ。
最初に、新たな勇者を監視する役目になったのも。
あそこまで協力的だったのも。
全て、魔王の座を奪うため。
ユカイは新たな魔王となり、魔界を取り込む。
魔界の次は現界だ。
全てを自分のモノとする。
それだけのため。それだけのためにオレはこの力を得たのだ。
【惑わす】
相手を言葉で惑わしコントロールするこの力。
「それじゃあね。勇者サン」
「飢え死にか、落下死か、どちらで死ぬか考えておきな」
そうして、ユカイは帰っていく。
自身の目標を叶えるため。
そして、ハヤトという不純物を取り除くため。
ユカイは、魔王の玉座へ帰っていく。




