もう一つの出会い
静かに寝ている二人を尻目に、ユリナは物思いにふけっていた。
…私達はいつの間にか、この世界に飛ばされていた。
昔見た世界地図でもこんな土地は見た覚えがない。
ということは、ここは異世界ということだろうか。
…小さな頃の思い出だ。
私が昔、同期達と共に師匠から聞いた話。そのうちの一つに、"魔界"と呼ばれる世界の話があった。
我らの住む世界と隣り合わせの世界。魔物や魔人と呼ばれる、鏡写しの存在。
それは何よりも黒く、淀んでいる。
そんな、子供に教える恐怖のお伽噺のような世界。
だが、当てはまる物は多く、ここが魔界と呼ばれても違和感はない。
「…まさか、ね」
過去の思い出と今の状況を重ね、冗談交じりにそんなことを考えていると、
突然ドアがコンコンと鳴った。
「はー………っ!」
つい、いつものようにドアを開けようとしてしまった。
考え事をしている内に、ここが異世界であるということを忘れてしまっていたようだ。
目の前のドア。その向こう側に立つ者は誰だろうか。
もしかしたら、ハヤトかもしれない。ハヤトでなくても、ユカイである可能性もある。ただ、その二人以外である可能性も十分にある
…確認する方法は無い。
ユリナは、杖を構えながらドアノブに手をかける。
その瞬間、ドアノブが力強く回転した。
抵抗しようとしても、それを一切許さないほど、強く、強く回転する。
ユリナはその一瞬で判断した。
ドアの向こうにいる相手、それは二人のどちらでもない。
敵だ、と
ユリナはすぐにドアから離れ、すぐに魔法の発動を開始する。
ドアノブが回転を終わらせる。
そしてドアが少しずつ開く。
いや、少しずつではない。注視しているためそう見えただけだ。
ユリナにとって無限にも近しい一秒をかけ、ドアが開いた。
そこには、誰もが見惚れるような、眼鏡をかけた綺麗な女性が家の外に立ち尽くしている。
ユリナは、その女性には見覚えがあった。そのせいで魔法の集中を切らしてしまい、いつの間にか杖を下ろしていた。
二人の間に少しの沈黙が続いた後、先に動いたのはユリナだ。
ユリナは目の前にいる女性の正体、もとい見覚えがあった理由を思い出した。
自分の愛読書の著者、アートの顔と同じだったのだ。
ユリナは、驚愕と安堵が混じりあい、気がついた時には自分がアートに頭を下げていた。
何故そうしたかはわからない。
出会えた感動か、はたまた助けが来たことによる感謝か、もしくはその両方であったのかもしれない。
アートは、珍しく地上に出ているマルチの家を見て、なにかが起きたのは確信した。
心配している訳ではないが、もし、そのなにかが自分に害を為す物であれば排除しなければならない。
それが、アートの生存戦略であり、唯一の楽しみでもある。
ゆっくりと家に入ったのは良いが、そこにいたのはマルチではなく、三人の人間。
マルチは自分程ではないが、警戒心が強い生命と思っていた。
それがこんなミスをするとは思いもよらず、マルチのことを高く見積り過ぎていたと、自分の見る目の無さを反省した。
すると、目の前にいた女が急に頭を下げてきた。
命乞いだろうか?いや、ならば頭を地面に擦り付けるだろう。
ならば、なんだ?
アートにとって、それは考える必要が無い。
それは、自分の作品のファン以外にありえないからだ。
自分の作品のどこかには必ず顔をいれている。
本ならば帯の一部に。服ならばタグに。
いつも、自分の顔を見た者は感謝と感動で頭を下げる。
それはいついかなる時も。たとえ魔界で過ごしていようと変わらない事実だ。
目の前にいるのは自分のファンである。ならば、私の力の対象内。
危険は無い。
「顔をあげて?」
静かに、目の前の下等生物に声をかける。
私は魔人だ。
人を魅惑させる、芸術家。
まずはこいつから話を聞き出す。
その後は、自分の作品にしてあげる。
三人共、全員…ね




