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戦国物語 ~胡蝶の夢~  作者: 牛一(ドン)
7/11

第6話 小豆坂の戦い、織田信秀。

父上、お話がございます。

殿、少しだけわたくしとのお時間を取って下さいませ。

斎藤(さいとう)-正義(まさよし)義兄上の死から父上は忙しく、一緒に食事を取る時間もない。

否、私と母上を避けているように思えた。

一緒に食事を取らないならば、私と母上はもう二度と口を利かないと最後通告(さいしゅうつうこく)を受け取った父上は、査問会となる夕餉に足を運んできた。

そして、座ると同時に口を開いた。


「最初に言っておくが、儂は久々利(くくり)-頼興(よしおき)に毒殺を命じておらんし。帰蝶の名で手紙を送ってもおらんぞ。暗殺や毒殺を躊躇うつもりもないが、儂は得にならん事はせぬ」

「父上。それならば、次の日でも説明してくれればよかったではありませんか」

「そうだな」


父上の眉がピクリと動き、目線が少しだけ外れた気がした。

母上がニッコリと笑うと、父上の額から冷や汗が流れているのが判った。

なんというのだろうか、蛇に睨まれた蛙。

蛇はどちらかというと“蝮”の異名を持つ父上なのだが、今は母上が蛇に見えた。


「殿。帰蝶にはよからぬ噂があります。嫁にやりたくないのは判りますが、行き遅れになる方が恥でございます。正直に言ってくださいませ」

「嘘ではない」

「殿。私に嘘は通じません」

「母上。父上は嘘を言っているのですか?」

「そうです。利政(としまさ)様は都合が悪いときに嘘をいうと、僅かに目線を外す癖があります。直そうとされていますが、直らないのです」

「そうなのですか」

「嘘ではない。帰蝶の手の者が、帰蝶が正義に嫁ぎたくないという嘘を言っておったので、それを広めて警告に使ったのは認める」


あっ、ホントだ。

父上が話しながら僅かに目線が動いた。

母上の目線がキツくなり、ガマガエルのように油汗がダラダラと流れ始めた。

首をカクリと落とすと、すべてを吐いた。


「すまん。久々利城の家老に偶然にあったので、『変な噂が流れておるが、帰蝶が悲しむような事になれば、どうなるか判っておろうな。儂の手を煩わせる』と調子に乗って言ってしまった」

「それで久々利-頼興が毒殺ですか?」

「違う。久々利の家老や与力が集まって、正義をどうする協議した。酒席を設けて、その席で正義が頼芸に近付く事がどれほど危険かを説明する役を頼興が引き受けたのだ」

「正義義兄上を説得ですか。死ぬ気にならないとできませんね」

「そうだ。誰もやりたがらん事を引き受けた。だが、それで説得できるとも思っておらん。最悪の場合は、光安に頼んで強引に隠居してもらう事も視野に入れての説得だ」

「命賭けですか」

「そうだ。誰もが酒席で頼興の説得を見守った。だが、結果は、帰蝶も判るであろう」

「正義義兄上が怒り狂った」

「その通りだ。そして、頼興の父や兄弟を罵ったのだ」

「確か・・・・・・・・・・・・正義義兄上を守る為に戦死したのと、無理な突撃で怪我をして、それが元で病死されたとか」

「久々利家の忠義は誰もが認める。後は言わんでも判るだろう」

「怒った頼興が酒に毒を盛った」


父上が嗾けた結果、正義義兄上の自業自得だ。

久々利家の者は離散して姿を隠し、おそらく誰も捜査に協力しないだろう。

父上は殺させるつもりはなかったが、最後の背中を押した犯人だった。

私の密書を頼興が持っているかも知れないので協力できないというのは、協力しない言い訳に使われているが、父上も強く責めない。

父上が正義義兄上の家臣らを強く責めないので、密書の差し出し人は私ではなく、父上ではないかと噂が流れている。


「儂の悪名が一ツ増えた所で問題はない。近衛家には詫びの品を持たせて使者を送り、六角には手紙を送った」

「三好範長に鷹を送ったと聞きましたが?」

(※ :範長は、今年 (天文17年)の夏頃に長慶(ながよし)と改名する)

「公方様を京に迎えて、天下を早く鎮めて欲しいと嘆願しただけだ。公方様や六角家を裏切った訳ではないぞ」

「六角が怒った場合は、三好家と同盟を結ぶぞという警告ですね。嫡男は何歳ですか?」

「嫡男の千熊丸(せんくままる)(後の三好(みよし)-義興(よしおき) )は7歳だ。婚儀には、少し早いが、範長が5歳で家督を継いだ事を考えると出来なくはない」

「7歳ですか。覚悟しておきます」

「すまん。そうならぬように頑張るので許してくれ」


母上が重たい息をハ~ッっと吐いた。

三好家の正室なら悪くないが、劣勢の美濃斉藤家の立場を考えると側室扱いもあり得る。

戦上手と噂されるけど、三好が勝つとも限らない。

どこまで言っても私は人質として嫁ぐ身の上なのだ。


 ◇◇◇


稲葉山城のドタバタは続く。

頼芸様も大人しくすれば良いのだが、手紙を書いて援軍を求めた。

双方が戦仕度で大忙しだ。

幸いに頼芸様兵の集まりは悪い。

そして、我々も戦仕度をしながら、戦を回避する外交を続ける。

今日も屋敷内では、どたどたと『伝令』の足音とガチャガチャと鎧が擦れる音が鳴り響いた。

後は六角家と織田家の動向次第だ。


「佐吉丸。六角は動くと思いますか?」

「まず、動かないでしょう。京を制した管領の細川(ほそかわ)-晴元(はるもと)様は方々に圧力を掛け、細川(ほしかわ)-氏綱(うじつな)に味方した者を次々と処断しております」

「管領の細川家もドロドロとした争いをまだ続けるつもりなのかしら?」

「おそらくは、そうなるでしょう。しかし、問題は、そこではありません。三好家の確執です。管領様の腹心の宗三(そうざん)三好(みよし)政長(まさなが) )を重用し、三好家の当主範長(のりなが)(長慶)を軽視しておるそうです」

「そうなのよ。それが大変な事なのよ」

「織田殿も鷹を送ったとか。そのような人物を排除して、宗三(そうざん)を三好家の当主に据えようなどと目論めば、どうなる事やら」


何となく判った。

戦上手の範長が強くなり過ぎるのが嫌なのだ。

管領細川家のお家騒動で敵対者がいる間は、家臣の範長を利用した。

しかし、お家騒動も一段落し、管領様は名が売れている範長が邪魔になった。範長を廃して、腹心を当主に置きたい。

困った時は助けて貰い、用が無くなると排除する。

大人の汚い世界だ。

でも、そう巧くゆくのかしら?


幕府はずっと同じような事をやってきた。

美濃の支配者だった守護代斎藤(さいとう)-妙椿(みょうちん)殿の話を覚えているだろうか。

妙椿殿は尾張、伊勢、近江、飛騨を支配した守護代であったが、妙椿(みょうちん)殿の死後、幕府は互いに反発する者を守護や守護代に任命した。

力を持たぬ幕府に取って代わる守護や守護代が育たないように争いの種を放り込む。

父上は「幕府は汚い上に頼りない」と愚痴っていた。

今、それを実感した。

主人に尽くした結果が廃嫡では範長が不憫(ふびん)でならない。

もちろん、黙ってやられるような人物に父上が手紙を送る訳もない。

京は荒れるな。


京で騒動が起ると考えれば、管領代の六角家も動けない。

仮に六角が援軍を送ったとしても2、000~3,000の少数だ。

となると、問題は織田家だ。

先だって美濃の大戦で大敗北を喫したが、もう一度、美濃に援軍を送るのだろうか。


「佐吉丸。織田家は援軍を送って来られるの?」

「可能でしょう。ですが、大軍は無理です。東三河に今川勢が入っております。いつ、西三河に攻めて来ても可笑しくありません」

「それも父上の情報ね」

「はい。秘密理に運ばれている以外の情報は共有しております」

「朝倉はどう?」

「殿は“()も明けぬ内に兵を上げるとは、余程、生霊が恐ろしいと見える”と噂を流せと命じました」


あははは、父上は私をトコトン利用するつもりだ。

名声を重んじる朝倉家は動けない。

名将の宗滴(そうてき)殿は名声など気にも掛けないだろうが、朝倉家が美濃を取ろうとすれば、織田家と六角家が黙っていない。兵を動かすのに険しい山越えは苦労し、その負担は想像以上に大きい。

宗滴(そうてき)殿は美濃への領地拡大は朝倉家にとって不利益と考えている。

敢えて言葉にするならば、美濃は『鶏肋(けいろく)』だ


鶏肋(けいろく)とは、骨ばかりで身のないが、捨てるには惜しいという意味だ。

三国志の英雄、魏の曹操(そうそう)が山に囲われた漢中(かんちゅう)を『鶏肋(けいろく)』と評した。

美濃は山間の土地であり、漢中と似ている。

実りは豊かだが、それ以上に争いも多い。

宗滴(そうてき)殿はそんな戦を避けている。

私はそう考える。


状況は理解した。

織田、六角、朝倉の三国から援軍はない。

但し、父上から動けば、話は別だ。

頼芸様の身が危ないとなれば、兵を出さない訳にもいかない。

国外に逃亡しても、先だってのような戦が繰り返される。

それでは美濃が平穏にならない。


 ◇◇◇


天文17年 (1548年)3月19日に今川勢が矢作川を渡河した織田勢と小豆坂でぶつかった。

小豆坂(あずきざか)の戦い』だ。

今川と織田は六年前に同じ場所で激突しているらしい。

千歳が物見に行って者を連れて帰ってきた。

その同行者は菅沼(すがぬま)-定広(さだひろ)の家臣と名乗った。

この菅沼家は土岐頼忠の孫と称する植村光兼の子の菅沼資長を祖とするなど美濃守護職を務めた土岐氏の一族であり、三河国額田郡菅沼郷(愛知県新城市作手菅沼)に移り住んで、菅沼定直と称したことから始まり、菅沼定広が野田城を築いた事で、野田菅沼家と呼ばれている。

野田菅沼家は東三河で今川と対峙しており、味方を増やす為に、父上の間者と知った上で、物見の手引きをしてくれた。

物見が同族を頼って探るのは当然だし、手伝った見返りで父上との対面が実現した。

東美濃から奥三河を通じて支援して貰おうと願い出たが、父上は余り良い返事はしなかった。

そりゃ、そうだ。

東美濃と接する奥三河の奥平(おくだいら) 家の貞勝(さだかつ)が今川家に臣従しているので迂闊な返答できない。

しかも父上は今川家と同盟を結び、織田家を共闘して打ち倒す事を考えている。

色よい返事が出来る訳もない。

それでも家臣はなんとか殿の命を実現しようと、私から父上に助言して貰うために連れてきたようだ。

その件は、横に置いて、織田家の戦を聞いてみた。


定広の家臣が言うには、

以前にも、織田家は桜井松平家の松平(まつだいら) -清定(きよさだ)の援軍として兵を出していた。

清定の妻が織田家の当主である信秀(のぶひで)の妹であり、桜井松平家と同盟国を結んでいた。

その戦いは、岡崎松平家と桜井松平家の争いだった。

岡崎松平家の援軍として今川勢が参加し、桜井松平家の援軍として織田勢が対峙した。

織田家は大国の今川勢と互角に戦ったことで名を馳せた。

その清定が早世し、子の家次(いえつぐ)が家督を継いだが、東三河を征するには若すぎた。

織田家は安祥城(あんじょうじょう)に信秀の子である信広(のぶひろ)を入れた。


「同盟国ではなく、直接支配に変わったのね」

「はい。それを良く思わぬ者も多く、西三河は落ち着きません。しかし、昨年、岡崎城が陥落した事で大きく織田方に傾きました」

「西三河は吉良家のみが今川方に残ったのね」

「いいえ、違います。抵抗を続けているのは西条吉良家の義昭(よしあき)殿であり、東条吉良家の義安(よしやす)様は織田方でございます。西三河衆が一丸となり、織田家を支えれば、今川家と互角以上に戦えます」


定広の家臣が悔しそうに、ぎゅっと力拳を強く握りしめた。

そうはならなかった。

織田家が勝っていれば、ここまで必死に美濃斉藤家の援軍を求めない。

つまり、負けたのか。


「織田が負けたのね」

「あろうことか。岡崎松平の広忠は、嫡男の竹千代を織田家に人質に差し出しているのに、竹千代を見捨てて今川家に内応して、今川勢を呼び寄せたのです」

「思い切った事をするわね。家臣の信用を失うわよ」

「鬼、畜生の所業です。信頼など失ったでしょう」

「織田家は岡崎の裏切りを知らずに背後を討たれたのかしら?」

「いいえ。信秀様は事前に察知して岡崎の方へ威嚇の兵を置きました。しかし、兵を割く事になります。また、岡崎松平家の援軍も期待できない」


織田勢は先鋒として、安祥城から信広を四千余の兵を率いて矢作川を渡河して、上和田に着陣させた。

そこで今川勢を待ち受けた。

一方、今川義元は岡崎松平家の救援のために一万の兵を大将 太原雪斎、副将 朝比奈泰能をとして出陣させて来た。

信秀は援軍に二千の兵を連れて駆け付けたが、やはり今川勢が数で優勢だった。

信秀は兵力差を埋める為に、山道の出口である『小豆坂』を戦場に選んだ。

西三河は平地が多く、大軍に有利に働く。

そこで劣勢な織田勢は大軍が自由に動けない山道を戦場地で迎え討った。


「安祥城、上和田城も平城。稲葉山城のような山城の堅固さはないので当然ね」

「幸い。東三河と西三河は山地で隔てております」

「そうなの?」

「はい。今川勢は三河山々を越えねばなりません」


東三河と西三河は三河山地という山々に隔たれていた。

その山道の出口が『小豆坂』だった。

坂道を上りながら今川勢と対峙するのは織田勢に不利だ。

しかし、街道を遡って坂を上ると、久保田城の高橋宗正や坂崎城(かざきじょう)の天野家の領地であり、岡崎松平家の家来である。

織田勢は広忠が裏切っているので、兵を進める事が出来なかった。


「戦いは前回と同様に互角でございました」

「互いに兵をすり潰していくのは避けたいでしょうね」

「はい。ですから、以前は互いに兵を引きました」


今川勢が一万人として半数の五千人に被害が出れば、負けと同じだ。

小豆坂で織田に勝っても、今川家と存続が怪しくなる。

双方、三百人から五百人の被害で兵を引く。

一千人も失えば、大損害だ。

人的な補充や家臣団の引き締めなど、数年は立ち直れない。


でも、織田家は以前の美濃攻めで三千人近い死傷者を出したが、一ヶ月で立ち直った。

傭兵を多く抱える織田勢の強みだ。

傭兵は負け戦で役立たずになるので信用できないらしいが、織田家の強さはそこにある。

織田家は一千人から二千人の被害を出しても立ち直れ、美濃斉藤家や駿河今川家では、真似の出来ない強さを持っている。

互角の被害ならば、織田家の勝ちだ。


「今川の大将である雪斎は、山道にある脇道を使って迂回させて、脇道から織田勢の脇腹に奇襲したのです」


あぁ、それは痛い。

因みに、使者は雪斎(せっさい)と読んでいるが、それは名前ではない。

彼の(いみな)崇孚(そうふ)らしい。

雪斎とは、彼の住む寺の扁額(へんがく)(寺の看板みたいなモノ)が『雪斎』と書かれているので、雪斎と呼ばれる。

どうでもいいか。

その話を聞いて、私は首を捻った。


「でも、不思議ね?」

「何が不思議でございますか?」

「千早は父上の戦いを見たことがなかったわね」

「大桑城が最初でございます」


千早は美濃に来て、まだ一年も経っていない。

父上の戦い方を知らないのも当然だ。

父上は、敵をよく知り、勝てる戦しかしない。

負けそうな戦は和睦する。

戦略眼が高く、戦上手と言われるが、戦上手で強い訳ではない。

ただ、美濃武将は強く、一騎当千(いっきとうせん)の強者が多いので、父上の軍勢が強くみえる。

それは同じ美濃勢なら同じなので意味がない。

父上も槍は得意らしいが、大将が槍を持つ戦は負け戦だそうだ。


対して、織田信秀は戦上手らしい。

同じ数の兵で戦えば、父上でも勝てる気がしないという。

戦術眼があるのか?

どのように兵を動かせば、敵を倒せるかと正確に兵を運用する。

父上とは違う強さを持つ。

その父上は戦を始める前に勝ってしまうから、信秀に負ける事はないと豪語していた。

父上が認める信秀が易々と罠に掛かるモノなのだろうか?


「もう少し、詳しく話しなさい」

「はい」


私は物見と定広の家臣を問い詰めた。

物見と言っても戦場から見る訳ではない。

知るのに限りがある。

その範疇だが、小豆坂の前半戦は織田方が有利に運んだ。

私が雪斎なら、どう戦う。

父上が認める信秀と戦わず、先鋒を率いる信広を相手とする。


まず、今川の先鋒を負けさせて後退させてゆく。

大将のいる本陣と先鋒では距離があり、戦場で指揮を取るのは信広だ。

信広は二十歳の若者だ。

今川の先鋒を押し潰せば、押し出してくる。

そして、坂の中腹に伏兵を隠しておく。

十分に引き付けた所で横槍を入れれば、織田勢は混乱し、そのまま戦おうとする者、信広を守ろうとする者と、逃がそうする者などと入り混じって混乱に拍車が掛かる。

その混乱を狙って、引かせていた今川勢の先鋒が反転して攻勢を掛けさせる。

織田の先鋒は崩壊する。

一度、崩壊して軍を立て直すには、数で劣勢な織田勢では不可能だ。


「もう一度聞きます。信秀の本陣は矢作川を渡らせて引かせたのですね」

「織田勢は先鋒が崩壊すると、信秀の本陣が矢作川を渡って兵を引きました。織田勢の一部が今川勢に突撃して勢いを削ぎましたが、すぐに反転して兵を引き上げました。矢作川の東側をすべて今川方に奪われてしまいました」

「信秀、それと信広も存命なのね」

「どちらも無事だったようです」


織田勢は一千人近い被害を出したようだが、織田勢の崩壊を避けた。

織田勢に余力があると見て、雪斎は矢作川を渡って安祥城を攻めなかった。

今川方の勝利は明らかだが、織田方も余力を残した。

これで織田勢は美濃攻めに援軍を送れるが、三河に守備兵を残さねばならないので大軍は無理になった。

最悪は避けられた。

私は肩の力を抜き、少しだけホッとした。


「姫様。どうか、菅沼家をお助け下さい」

「今回の恩義は忘れません。ゆえに支援は父上に進言しましょう」

「ありがとうございます」

「しかし、今川家と敵対するかは約束できません。我が斉藤家も今川家の関係は父上が決める事です。私が口出しする事ではありません」

「そうでございますか」

「落胆するのは早いです。足利一門の今川家が我が斉藤家と同盟を結ぶことはないでしょう。貴方が心配するほど、悪い状態にはなりません」

「本当でございますか?」

「嘘なんて言わないわ。詳しい事は説明できないけどね」


正義義兄上が死んで近衛家と対立する事になり、幕府との関係も微妙なのだ。

公方様の怒りを買いたくない今川家は、表だって美濃斉藤家と同盟を結びましょうなんて言わないでしょう。

況して、今川義元の母の寿桂尼(じゅけいに)は、中御門家出身の公家様だ。

元油屋の娘を嫁に欲しがらない。

菅沼家が思うほど、斉藤家と今川家の仲が良くなることはないのだ。

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