70 天ヶ崎真矢として その2
私はその場に立ち尽くす。
目の前には大きな道。6車線の幹線道路。車や大型トラックがバンバン走っている。
信号が青になる。
私は歩きださない。後ろにいた人が訝し気に私を見て、そして横断歩道を渡っていく。
そして赤になる。
またトラックが走り出す。
大学。金銭的な話は置いておいて、私の年齢であれば普通なら通っている。
だけど、私は異世界に召喚されて、その普通からは脱落した。
高校は中退になっているのだろうか。それともまだ在籍しているのだろうか。
どちらにせよ、学力は高校1年生レベル。それも1学期の。
この先どうすればいいのか。
あのクソ親父のいうとおり、働いて生きていくのか。あいつに搾取されながら。
それでどうなると言うのか。
体を売って学費を稼いで大学に行くほうがいいのか。
それで大学を卒業して何を得るのか。
他の道と言えば……結婚? 失恋したばかりだ。
素敵だと思っていた人、レオナードはひどい男だった。もう誰も信じることが出来ない。
「ねえパル……」
口から洩れていた。
異世界での、真矢ではなくリリザであった時の可愛い弟分。
自分は子供じゃないと言い張って背伸びをする子。私が不満を言ってもダレても、文句をいいながらなんやかんやと世話を焼いてくれる子。危険な場所に着いて来てくれたり、私のために命がけで素材を取ってきてくれた子。
パルなら……。
パルなら私の事を全部受け止めてくれる。心から信じても大丈夫。
パルは違う。レオナードや父とは違う。
邪魔だからって追放したりしないし、金のために私を売ったりはしない。
きっと私の事を笑顔で受け入れてくれるし、ずっと一緒にいてくれると思う。
ちょっと小言は多いけど、それは私のためだから。
「パル……」
会いたいよ。また会いたい。
もう一度あって、その笑顔を見せて欲しいよ……。
私はふらふらと足を踏み出した。
その先にパルがいる気がしたから。
「おい、ねーちゃん! 危ない!」
後ろで男の人がそう叫んでいる。
迫りくるトラック。けたたましいクラクションの音と、耳障りなブレーキ音。
つんざくように頭の中を駆け巡る音はだんだんと小さくなっていき……視界がぼやけ、辺りが眩しく光り始めて……そして光が全てを包み込んで、何も見えなくなった。
◆◆◆
視界の全てを覆いつくした圧倒的な光量の輝きが徐々に収まってくる。
一瞬だが体が宙に浮いたような感覚があったが、気のせいだったかもしれない。
緩やかに視界が戻りつつあり、眼前の光景の輪郭がじわじわと際立ってくる。
その現象は一時を境にパッと終わりを告げる。
青い空、流れる風。どこまでも広がる草原と遠くに見える山脈に、その上空を飛んでいる飛竜。
明らかに先ほどまでいた地球ではない。
そして………。
目の前には、筋骨隆々のオーガの青年。
金色で短いボサボサの髪。少し吊り目な緑色の目。服から出ている腕にはいくつもの傷跡がある。
この人はいったい……。
などと自分を誤魔化さなくても分かる。この子は――
「リリザ!」
私の名前を、その名前で呼んでくれるこの子は――
「ぱるっ!!」
間違える訳はない。私が会いたいと……もう一度会いたいと切に願った子なんだから。
「お帰りリリザ」
「ただいま、パル!」
いつの間にか走り出していて、私はパルに抱き着いていた。




