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69 天ヶ崎真矢として その1

 気が付くと私は河原に裸で倒れていた。

 遠くにはコンクリートで建てられたビル。すぐにここが地球であることが分かった。

 勇者様に、いや、レオナードに極大時空間転移魔術をかけられてあの世界から追い出されたのだ。

 魔術は使えなくなっていた。再び力を封印されたからではなく、地球には魔力が存在しないからだ。


 そして、呆然として立ち尽くしていた所を、通りがかった警官に見つかって補導された。


 警察署に連れて行かれ事情を聞かれて。

 記憶の中には鮮明にあの世界の事が思い出されるけど、それは私の脳が作り出した幻想なんじゃないかって、そもそもその話を警官に話しても信じてくれないだろうって、そう思って、自分に何があったのかまったく覚えていないことにした。


 名前だけは名乗った。

 そしたら捜索願が出されているって言われて。保護者に引き取りに来てもらうということになって。


 私の保護者。戸籍上の保護者。母は父と離婚しているため、該当者は父だけだった。


 一言で言うと最低な父親。働かず家族に暴力を振るうような男。私の事を邪魔者としか思っていないようなそんな男が、わざわざ私を引き取りにくるわけなどない。


 そう思っていた男が私の前に現れて、警官の説明を聞いて私を引き取ったのだ。


 事件性の有無の確認のため後日改めて話を聞くとかいう警官の話はほとんど私の頭に入ってはこなかった。

 なぜなら目の前の男が一体どういうつもりでここに現れたのか、なんとかそれを知ろうと躍起だったからだ。


 だがその理由は案外早くに判った。

 この男は別に私の事を家族の愛情やらなんやらで迎えに来たわけじゃなかったのだ。


「今までどこをほつき歩いていた」


 警察署から出て徒歩で家に向かう途中。

 父はそう言った。


 もちろん私は答えない。警官以上にこの男に言っても無駄だと思ったからだ。


「あと3年だったのによ。あと3年お前が行方不明のままだったら、そうすれば失踪宣告が出せてお前を死亡扱いにして、あの女がかけ続けてる保険金がもらえるはずだったのによぉ」


 男は私の事などお構いなしにそう言い放った。


 失踪宣告。行方不明のまま7年経過した場合に、当人が死亡したこととする法的措置のことだ。

 15歳の時に行方不明、つまりは異世界召喚されてあの世界に行って4年近く過ごした。

 戻ってきたら同じく4年が経っていて、あと3年経っていたら死亡扱いにされて、死亡保険金がこの男に支払われる手はずだったということだ。


 目の前がぐわんぐわんと回転して頭痛がした。


 だけどなんとか歩いて家までたどり着いた。私が住んでいた、この男と暮らしていたボロいアパート。


 私の部屋は、私の私物はきれいさっぱり無くなっていた。


「そんなもん全部売っぱらったに決まってるだろ。いい値段で売れたぜ」


 憎しみがわいてくる。


「お前が生きていることは警察に知られちまった。今からまた7年待つ何てことは出来ねえ。だからお前には働いてもらう。バイトでも何でもしてこい。食費だよ。お前の食費を稼いでこい。お前を養うにも金がいるんだ」


 これが理由。この男が私を素直に引き取りに来た理由。


「しっかし、エロい体になりやがって。紹介してやろうか? ソープだよソープ。稼ぎが良いぜ。いやまてよ、どうせだったらピンハネされるソープよりも、俺が直接客を探して――」


 耳に障る雑音を最後まで聞かずにアパートを飛び出した。


 その後、どこをどう歩いたかは覚えていない。

 足がもつれ、こけそうになった所で我に返った。

 遠い昔に見た景色。数年間この世界に居なかっただけで、かつての記憶と異なってしまうくらいに変化している。


「あれ? 真矢じゃん?」


 突然声をかけられた。

 振り返るとそこにいたのは中学の時の同級生。


「久しぶりじゃね? 元気してた? 中学卒業してから会ってないから、4年ぶり? てか、真矢、めっちゃ焼けてるじゃん、海外旅行? そだ、どこ大? あ、もしかして浪人中とか?」


 マシンガンのようにトークが飛んでくる。

 確か……もう少し大人しい子だったはず。


「おい、恵美、早くいかねーと始まっちまうぜ」


 一緒に歩いていた男だ。髪を金色に染めて明らかにチャラそうな服装の男。


「あ、そだった。じゃあね真矢、またねー」


 そう言って去って行ってしまった。

 4年。それだけの月日があれば人はああも変わってしまう。

 大学生。彼女も(ただ)れた青春を謳歌しているのだろう。


 私はその間、何をやっていたのか。

 異世界に召喚されて生贄にされるため教育されて。そしてそこから救い出されて……。

 そこで得た力は地球では何の役にも立たない。

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