68 勇者の真意 その15
「「いざ!」」
お互いの声が重なった。
と同時に互いの必殺の間合いに向けて距離を詰める。
ボクの技はゼロ距離で放つ技。確実に相手に当てるには密着するしかない。
そして相手の技もそのようだ。炎を飛ばす遠距離放出系ではなく短距離斬撃系のタイプ。
膨大な熱量がじりじりとボクの皮膚を焼く。
波動、そして魔力で守られているからこの程度の感想なのだ。陸に上がった魚なら瞬時に黒焦げになって食べる部分は残らないだろう。
お互いが接近することで距離は縮まり行き、先にレオナードの技の間合いに入ることになる。
「くらえ、秘剣ドミネイトプロミネンス!!!」
レオナードが両手の指をがっちり組んで天へと伸ばす。両腕に装着された盾と一体となっている二つの剣。それが一つになり、一本の炎の渦が空高く巻き上がる。
それを振り下ろすのだ。
恐らくあの渦の中は空洞ではない。電磁場っていうのか、そういうのと、重力がぐちゃぐちゃに混ざり合って、どんな物質でも崩壊するはずだ。
炎で燃えて、そして渦で崩壊する。それがヤツの秘奥義の正体。
ボクの頭上に渦が迫る。体を逸らしただけで回避できる程度の太さではない。
いつか見たドラゴンのブレスのように、巨大で太い一撃。
だからボクはかわすことをしない。
「いやぁぁぁぁ、パル様が! パル様が!」
そのまま炎の渦を受け入れる。
外で悲鳴が聞こえているのはマルガレッテにはボクの体が炎に包まれて完全に崩壊するように見えたのだろう。
でもね。ボクは生きている。
拳聖グランドラなら波動で作った膜で弾くだろう、暗黒魔術師リリザなら吹き上がる魔力の膜で弾くだろう。その二人の教えを受けたボクは――
「な、なんだと!? 崩壊の一撃を受けてなぜ消え去らん!?」
分かりやすく驚いてくれるレオナード。
それだけこの一撃に自信があったのだろう。
波動の膜と魔力の膜。その両方でボクの体を覆っているからなんだよ、と心の中で回答しておく。
そしてもうレオナードは目の前。
ヤツの目にはボクの体が崩壊の渦の中で押し戻されるどころか、加速したようにも見えただろう。
二重の膜と膜の間にわずかな隙間を作って、正面からくる炎の渦をその隙間に取り込む。都合よく回転しているその炎を後方から噴出することによってボクの加速を増したのだ。
おかげで技の威力がさらに上がる。思いがけない幸運だったよ。
最強の技とは二度見せる物ではない。
なぜならその一撃は必殺。第二撃を考える必要がないからだ。
つまりは技を出し終えたレオナードは無防備。
その体にボクは拳を当てる。
純粋な力の一撃。
そしてその瞬間、拳から波動をぶつける二撃目。これが天狐封神流の基本技。
達人になると、おじいちゃんくらいになるとこれだけで相手は消し飛ぶ。
だけどボクはそこに、魔力による三撃目を加える。
インパクトの瞬間、三つの衝撃によって相手を打ち倒すのだ。
それがボクのオリジナルの、ボクだけの必殺技。
その名も――
「天狐封神拳!!」
自らの流派から名前をもらう。
それはここまで鍛えてくれた、強くしてくれた流派に対してのボクの最大の賛辞。
ありがとうおじいちゃん。ありがとうリリザ。
ぼふっ、と音がした。
レオナードの剣から渦巻いていた炎が技の余波でかき消えたのだ。
本撃はすでに体を突き抜けて後方へと到達している。
「そ、そんな……」
まだしゃべれるなんてさすがは勇者。
ボクは拳を引く。
それによって今まで拮抗していた何かが崩れ、深紅の鎧がインパクトポイントを中心にピキピキとひび割れていく。細かなひび割れが走り鎧全体に行き渡ると、耐えられなくなった鎧は粉々に砕け散った。
「ぐっ、ぐぐっ……」
今にも崩れ落ちそうな体。足を踏ん張ることで倒れる事を拒否するレオナード。
「み、見事だ。この俺を倒すとは……。だが、怒りに任せて俺を倒したとしても、リリザは戻らん。もど……らん……のだ……」
レオナードはよろめきながら一歩二歩と、ゆっくりと前に進む。
「ま、マルガレッテ……」
ボクの姿は見えていないかのように、仲間であった聖女へとその手を伸ばす。
「ふがいない……おれを……ゆるして……く……れ……」
前のめりに崩れ落ちたレオナードの最後の言葉。
ボクはそれをしっかりと聞き届けた。




