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66 勇者の真意 その13

「安い挑発だが……いいだろう! お前からなぶり殺しだ!」


 ヤツがゆっくりと宙から降りてくる。

 ボクはヤツから視線を外すことなく、後ろ手でマルガレッテをこの場から遠ざける。


 ヤツが着地してガチャリと鎧が地面に着く音がした、と思った瞬間。

 その赤い姿が蜃気楼のようにブレ、半端ない踏み込みを見せる。


 速いっ!

 鎧を付けているのになんて速さだ!

 いや、速さに惑わされるな。足だ、足捌きを意識するんだ。


 ボクはおじいちゃんからの指導を思い出し即死級の一撃を何とか回避するが、回避するそばから次撃が繰り出され、その回避に神経を集中することを強いられる。


「つっ!」


 ボクの腕に刃が掠って赤い線を付ける。

 二本で交互にそして同時に襲い掛かってくる刃。天才的な技の切れ、さすがは勇者と呼ばれるだけのことはある。

 

 反撃に移れる隙なんか無い。

 今は回避に専念しなくてはすぐにやられてしまう。


 右、左、右、上、下、右下!


 かろうじて剣筋が見えているのは相手が本気ではないからだろう。


「ほら、ほら、ほら、避けろよ、うまく避けないと首が飛ぶぞ?」


 言ってくれる。

 とは言え間違ってはいない。ボクは素手。盾を持たないボクは剣を腕で受けるわけにはいかない。


 やばい! 足がもつれた!

 せめて直撃は避けないと!


 崩れた体勢のボクをあざ笑うかのように迫る正面からの突き。


 なんとか体をねじって直撃点を心臓からずらすが――


 ――ギィィィィ


 わき腹にぶっ刺さるはずだった剣が立てることのない音を立ててそのまま横に逸れて行った。


「ちっ、マルガレッテの祝福か」


 貫通するはずだったわき腹の辺りを見るとぼんやりと光っている。よく見るとその光はボクの体全体に広がっていた。


「パル様! それは矢避けの祝福。本来なら遠距離攻撃に対する防御力上昇効果です。矢や投石でしたら2秒までの直撃に耐えることができます。ですが気を付けてください。一度攻撃を受けた場所は効果が弱まります。2回目はありません」


「ありがとう!」


 一度だけでも剣をはじけるのならありがたい。


 ボクはレオナードに向き直る。

 マルガレッテの祝福。こいつの効果があるうちに勝負を決めなくては。

 防戦一方では勝ち目がない。

 防御は捨てて祝福頼みにして、捨て身の一撃を食らわせてやる!


「くるか! 小僧!」


 ボクは力強く大地を踏み抜く。


 まずはあいつの間合いに入らなくてはならない。

 そんなボクに対して左右から刃が襲ってくる。

 それを両腕で大きくはじく。そのままガードしていたのでは次々と連撃を食らってしまうため、大きくはじくことによって次の攻撃までの間を作ったのだ。


 その動作によってボクの攻撃もワンテンポ遅れるが問題ない。

 あいつの次の攻撃。その攻撃中にできる隙に、最大の技を叩き込んでやる。防御は捨てた一撃必殺の拳を!


 拳を引き、力を溜め、そして相手の身体の中心に向かって放った。

 鎧があるため直接急所に届くことはない。だからこそ、波動で相手の体の内部へ衝撃を与える一撃を打ち込む。


 そのとき見た。ヤツの顔が邪悪な笑いに歪んでいたのを。


 誘いこまれたのだ。

 回避できない必殺の間合い。それはあいつだけでなくボクも同じ。


「ここまでだ、小僧!」


 ヤツの剣がボクを狙う。その狙いは先ほど一撃を受けたわき腹。

 遠距離なら、矢であれば動き回る敵に二度同じ場所を狙うことは難しいだろう。それ故にその防御力は高いと言える。

 だが剣なら。それも熟達した剣技なら、同じところを狙うのなんか容易(たやす)い。


 攻撃を受けても相打ち覚悟でこのまま技を打ち込むかどうか。

 相手の刃のほうが速く、ボクの拳よりも確実に先に到達してしまう。だけどここは攻撃だ!


 防御に回るか否か、その一瞬の逡巡が僅かなチャンスを逃してしまった。


「ぐあぁぁぁぁぁっ!」


 瞬間、ボクの脇腹は剣に貫かれていた。


 痛みで膝をつく。

 血が流れる。

 赤い。

 痛い。

 熱い。

 暗い。


 あまりの痛みでボクの脳が痛覚を含めてシャットアウトしているのだろう。だんだんと何も感じなくなってきて、目の前もぼやけて暗くなってくる。


 もう、だめだ……。ここまでか……。


 『甘えた事言ってるんじゃないよパル!』


 頭の中に声が響く。

 これは母さんの声。

 だけど母さんはすでに死んでしまっている。だからこれはボクの幻聴。


 『もうだめだって? あんた何をやったっていうんだい?』


 何もできてない。


 『そう思うなら、立ち上がるのさ。諦めなければ負けやしない』


 でも母さん、ボクは戦ったんだ。全力で戦ったんだ。だけどあいつには通じなかった。

 ボクの技はあいつには通じなかったんだ。

 ボクは父さんみたいに魔術は使えないし、母さんみたいにムキムキじゃない。

 二人みたいには戦えない……。


 『母さんは確かにムキムキで父さんよりも体は大きいけど、だけど父さんには勝てない。なぜだか分かるかい?』


 父さんが魔術を使った時は、一度も母さんは勝った事がなかった。

 その答えは相性が悪いから。


 『そうさ。力には魔術、魔術には技、技には力。父さんは母さんに勝てる強さがある。その父さんも、すごい技の使い手には勝てない。父さんが勝てない相手には……』


 そんなすごい技の持ち主には力。

 父さんを倒すようなやつには母さんが大活躍だ。


 『そうさ。戦いには相性が重要なのさ。それに、パルには可能性がある』


 可能性?


 『父さんと母さんの子供なんだ。魔術も使えるようになるし力も強くなる。一つじゃない。二つだ。つまりはどんな相手でも絶対に負けやしない(・・・・・・・・・)


 魔術と力。ボクにはそれが……。

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