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64 勇者の真意 その11

 勇者は足技主体で攻めてきた。

 まるでしなやかに振るわれる鞭のような、それでいて大岩のような重い攻撃。

 そんな攻撃にボクは防戦一方になる。

 防戦というか、防御できずにくらってしまうものもあってダメージが蓄積されていく。


 拳の攻撃とは違って下半身への下段攻撃があること。これによって攻めのパターンが多くなって全てを避けきれない。それに加えて、脚というのは腕よりも長い。攻撃のリーチが長くてボクの攻撃範囲外から攻撃されること。リーチからくる遠心力の増加が腕よりも強い衝撃を生み出しているのもある。


 くそっ!

 このままじわじわと削られていては終わってしまう。


 攻撃の間合いに入りたいのに素早い蹴りをかいくぐることが出来ない。

 だったらボクも脚を使えばいい、という問題ではない。足技はかなりの技量が必要だ。拳法入門者レベルのボクはパンチで精いっぱいで脚技をまともに使うことは出来ない。

 それになにより……。


「どうだ、反撃できんのか? できないだろうな。仮にお前も脚技を使おうとしても、お前の足の長さでは俺まで届かんからな」


 その通り。単純にあいつと足の長さが違う。ボクは大人だけど、まだ体がついて来ていない。もっと成長すれば負けやしないのに。

 そんな事を言っていても仕方がない。こうしているうちにもボクの体力は奪われて反撃に移る力もなくなっていく。

 何か、一撃を、あいつに一撃を入れるんだ。


「強者としてこれ以上弱者を(なぶ)るのはスマートではないな。一撃でとどめをさしてやる」


 勇者が空へ跳びあがった!


「くらえっ! バーニングソウルキーック!」


 重力を力に変えて攻撃する跳び蹴り技。これまでの脚の重みだけではなく、あいつの体重全てが攻撃力に乗ってくる。

 あんなものガードしきれない。そもそも守勢では勝ち目がないんだ。

 カウンターしようにも、手どころか脚でも届かない。どうにか……どうにか……。


 そうだ……。

 あるぞ。ボクがあいつに一撃を入れる方法が!

 一か八か、やるしかない!


「うおぉぉぉぉ!」


 ボクは地面を踏ん張っている脚に波動を流す。先ほどの疾風(はやて)駿牙撃の時と同じく。

 だけど放つのは拳じゃない。


「それは、これだっ!」


 ボクはヤツに頭を向けて思いっきり跳躍する。

 そう、頭突きだ。ボクの身長はヤツの足よりも長い。つまりヤツの攻撃を食らうよりも先に、ボクの攻撃はヤツに当たる!


 当たる…………。


 え、いや、待てよ、確かに身長は長いけど、それってボクの体に急所が無い事が前提だよね?

 そんな事ないよね!? だったら、頭突きって明らかに腕よりもリーチ、短いよね!?


 迫るヤツの足。

 もうどうにもならない。こうなったら相打ちに持って行ってやる。

 蹴られても絶対に頭突きを食らわせてやる! オーガの頭蓋骨は固いんだぞ!


 ヤツの足先が頭を超える。

 蹴りに頭突きを合わせたのでは威力負けしてしまう。頭突きをヤツの本体にぶつけるため首をよじって回避したのだ。

 でもそれは蹴りがボクの体に直撃するのと同義。


「こなくそぉぉぉぉ!」


 体が痛む。胸の部分にヤツの蹴りが当たっている。

 だけど……思ったより痛くない。


 ふと、体が淡く光っていることに気づいた。

 これは防御の魔術!


 リリザがボクを助けてくれているのかと思ったがこれは違う。いつものリリザの温かさとはちょっと違った温かさ。清らかで落ち着いた温かさ。


 なんでもいい。今はヤツを倒す。ボクの頭突きをくれてやるんだ!


 ――ドゴッ


 体の痛みが小さかったため、うまくあいつの蹴りを下にいなすことが出来て、そのままヤツの顎に一撃を決めてやった。


 当てることに全力を注いでいたため頭突きの勢いを殺しきれず、ゴロンゴロンとボクは地面を転がってしまう。


 体が痛む。だけど頭突きはくれてやったぞ!


 転がる体の勢いを利用して立ち上がる。

 勇者もボクと同じく、地に伏せていた体を起こしていた。


「マルガレッテ、どういうことだ! なぜキミがそいつの手助けをする!」


「何のことでしょうか」


「とぼけても無駄だ、俺の攻撃が当たる瞬間、キミは神聖魔術でそいつを守った! なぜだ!」


 さっきの魔術。マルガレッテだったのか。

 でもなんでマルガレッテがボクを助けたんだろう。マルガレッテは勇者の事が好きだって言ってたのに。


 屋敷の二階にいたマルガレッテは何かの魔術を執事のローゼスにかけてその場に残し、ふわりと魔術で地面に降り、無言でこちらに近づいてきて……そして勇者の前で足を止めた。


「レオナード様。わたくしは怒っているのです」

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