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63 勇者の真意 その10

「レオナード様。力の劣るものに対しての暴力は勇者としてあるまじき行為。魔術などもってのほかです」


 小さい声だけど、力強く。柔らかで儚さも感じたマルガレッテとは思えない程のしっかりとした声。


「いいだろう……。拳だけでやってやろうじゃないか。このレオナード、魔術などなくとも武芸に秀でるものなしと言われた身。見せてやろう。俺の拳殺法をな!」


 魔術が使えないのならありがたい。拳と拳、ボクの得意分野だ!

 その憎たらしい顔面にパンチをお見舞いしてやる!


「いくぞ!」


 ボクは間合いを詰めると、勢いのまま拳を大きく振りかぶり勇者の顔面を狙う。


「見え見えだ」


 顔面を捉えるはずの拳が空を切り、代わりに顎に一撃をもらってしまった。

 足がふらふらする。だけどそれがなんだ。まだまだ!


 間を置かずに拳を放つ。


 ――ドウッ


 だけどバランスを崩した攻撃が当たるはずもなく、ボクは再び勇者の拳を身に受けて、耐えきれずに倒れ込んだ。


「ほらほら、どうしたんだ? いいのは威勢だけか? その構え、グランドラの使っていた天狐封神流に似ているが、まるで素人だな。猿真似も甚だしい」


「なんだとっ!」


 バカにするな! これでもボクは天狐封神流の闘士だ!


 体のバネを使って起き上がり、拳の連打を放つ。放つ。放つ!


 だけど全く当たらない。ボクの拳は空を切るだけ。


 どうして当たらないんだ? 手数が足りないからか? ならもっとだ!

 もっともっともっと!


「パル様、それはいけません!」


 頭の上の方でマルガレッテの声が聞こえた気がする。

 だけど今は目の前のこいつをぶん殴ってやるんだ!

 うおおおおおお!


「見苦しい!」


「ぐへっ!」


 数多く放った攻撃は一度も当たらずに、やはり勇者の反撃を顔面で受けて、ボクは地に尻をついた。


「どういうことだマルガレッテ。結界といい今といい。キミはどちらの味方なんだ?」


「どちらの味方と言う事ではありません。お互いに冷静さを欠いているのでは、と思っただけです。レオナード様もズボンくらいお履きになってもよろしいかと。パル様は……、言わずともよいですか?」


「大丈夫」


 ボクは鼻血をぬぐって立ち上がる。

 わざわざマルガレッテが教えてくれたのだ。


 ボクはリリザの事を馬鹿にされて相当頭に血が上っていた。教わった天狐封神流の心を忘れるほどに。

 天狐封神流は心で波動の力を扱う拳法。心が乱れていては全力どころか、僅かな力も引き出すことは出来ない。未熟者のボクなんかもっての外だ。


「ふぅぅぅぅぅ」


 大きく深呼吸をする。

 波動。それは魂が鼓動する力。体の奥底にあって、その存在に気づいたものに力を与えるエネルギー。

 ボクの波動は小さい。水を張った桶に落とした一滴のしずくのような感じ。

 それを知覚し、余すところなく使い、体全体に行きわたらせる。


「何をしようと無駄だ。お前ごときの技は見切るにも値しない」


 それでいい。余裕を見せてくれているほうが良い。

 余裕、おごりは油断に繋がる。そもそも相手(勇者)の力量の方が上なのだ。なんでも利用させてもらう。


 ボクは体全体に波動を行きわたらせる。

 特に足に多く、だ。

 今から見せるのは足に集めた波動で高速での動作を可能とし、急速に間合いを詰めて放つ一撃。


「天狐封神流! 疾風(はやて)駿牙撃!」


 ボクは地面を蹴った。

 足を伝わって波動が地面に到達し、その反動で圧倒的な跳躍を行う。

 勇者の間合いまでは約7m。それをひとっとびで。

 

「ふんっ! 多少速いだけで何ができるか!」


 ボクは勇者を通り越してその後ろに着地する。

 今回はカウンターを食らわなかった。ボクの攻撃を回避するのに精いっぱいだった証拠だ。

 それに――


「ぐっ!」


「レオナード様のおなかにアザが!」


 一撃を入れたことにも気づいていなかったようだ。

 拳にまで波動を回す余裕はなかったので、ただのパンチではある。

 だけど、ボクの攻撃だって通じるということを証明した。


「舐めた真似をしてくれる。いいだろう。本気を出そうじゃないか。死んでも責任はとらんぞ」


「最初から取る気なんてないくせに」


「減らず口を!」


 勇者が拳を構えながら突っ込んでくる。


 右の拳か左の拳か。


 今までの戦いで気づいたのは勇者は両腕が利き腕の様だということ。左右同じくパンチが飛んできて、その重さも同じ。つまりは左右のどちらもがボクにとっては必殺の一撃となりうる。


 ピクリと勇者の右肩が動いた。


 来るのは右腕だ。右腕の攻撃をガードだ。


 そう思ったのだが、勇者の攻撃は違っていた。

 拳の間合いに入る前。拳の軌道に合わせてボクが左手を上げる動作に入るその前(・・・)


 ボクの体に突き刺さったのは脚での一撃だった。


 咄嗟にガードしたものの、その上からダメージを受けてボクはよろける。


 腕の攻撃はフェイント。左右のどちらで来るかと選択肢を与えておいて、その実、答えは選択肢内に存在しないという引っ掛け。

 あいつが冷静さを欠いている様子だったのもこの前振りだったとしたら……考えていた以上に、強い!


「素人め、グランドラが泣くぞ!」

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