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59 勇者の真意 その6

 レオナードの部屋が爆発に見舞われる数分前の事。


 ――コンコン


 リリザはレオナードの私室を訪れていた。

 後で一人で部屋に来て欲しい。そう言われていたからだ。


 正直な所、リリザは気が動転していた。

 夕ご飯のあと、その意味をあれこれと考えていたからだ。

 ただの謝罪かもしれない。もしくはそれだけではないかもしれない。


 こんな事なら自分も湯浴みをしておくべきだったと思った時には結構な時間が経っていて、あまり勇者様を待たせてはいけないという思いが勝って結局湯浴みは出来ていない。


 そんな気持ちのままノックを行った。


 間を置かずガチャリと扉が開いて……そこに立つ金髪イケメンの姿をリリザは目の当たりにした。


「入ってくれ」


「は、はいっ」


 小さくそう答えただけのリリザ。

 視界をどこに向けていいのかもわからず、下を向いたまま1歩2歩と歩を進めていく。

 ドクッドクッドクッと心臓の鼓動が速くなり、それが勇者様に聞こえていないだろうか、などと頭を巡らせているリリザは、後ろでカチャリとレオナードが扉を閉めて鍵を閉めたことには気づいていなかった。


 どこまで進めばいいのか分からなくなり、固まったままその場に立ち尽くすリリザ。


「ひわっ!」


 不意に後ろに気配を感じ振り向くと、すぐ後ろにレオナードの姿があった。

 近い。手を伸ばせば胸の中にすっぽりと入ってしまうような距離。


「どうした?」


「そ、その、勇者様が、ち、近いかなって」


「ああ。そんな事か。気にしないでくれ。それは俺の誠意だ」


「せ、誠意?」


「ああ。改めて謝罪したい。キミをパーティから追放するだなんて言った事を。そして南大陸へと強制転移させたことを。辛かっただろう、悲しかっただろう。本当にすまなかった。許してくれ」


 じっとリリザの目を見続けながらレオナードは許しを請う。

 じっと、じっと、自分の心を謝罪の言葉を目でも伝えるかのように。


 誠意。これが勇者様の誠意。

 距離の近さを含めて誠意を理解したリリザは幾分か落ち着きを取り戻した。


「はい。勇者様がそんなに謝られているんだもの。許します」


「ありがとう……」


「でも……すごく悲しかった。勇者様が私の事を嫌いになったんだって」


「すまなかった。あの時、俺は気が動転していたんだ。連日の戦いで心をすり減らしていて……。だけど分かったんだ。リリザを失ってから、気づいてしまったんだ」


 レオナードはリリザとの距離をさらに詰める。


 勇者への恐れ多さからリリザは今ある距離を維持しようとして後ずさっていくが、その背中に壁の冷たさを感じて、とうとう行き場を失ってしまう。


「リリザ! 俺はお前の事が好きだ! 気づいてしまった以上、もうこの気持ちをどうすることもできない」


 レオナードはもう逃がさないとばかりに壁に手をつく。

 その様子、すなわち壁ドンに、リリザの心のテンパりはマックスになる。


「えええええ」


 確かにこれはリリザが望んでいた、思い描いていた姿だった。

 だけど実際にそれが行われると、許容量を超えてしまって、パニック状態。


「キミの声、キミの姿、全てが愛らしい。もう手放したくない」


 耳元で愛をささやかれる。

 押せ押せ恋愛だったリリザはこれまで一度も押されたことが無い。

 一度たりともレオナードはリリザにその好意を向けたことが無く、レオナードを含めて男性経験が全くないリリザは、もはやノックアウト状態。


 そのままなすがままに、横にあったベッドへと押し倒されていた。


「あ、あ、あ……」


 声を出そうとするが思うように声が出ず、パクパクと鯉のように口を開くだけのリリザ。


「好きだ。愛している」


 耳元でささやかれ続け、いつの間にか着ていた服を脱がされていて、押し倒している側のレオナードも服を脱ぎ終わっていて。


「マヤ。私の大好きなマヤ。力を抜いて。さあ、楽にして」


 掴まれている腕から力が抜けていく。


「いい子だ。マヤ。愛しているよ、アマガサキ マヤ」


 ああ、本当に愛してくれているんだ。私の本当の名前。天ヶ崎真矢。

 心から愛そうとしてくれているんだ。

 心を満たしていく温かい想い。それに浸るように、リリザはその意識をその中へと沈めていった。


「………ク、……マル、エルギー、ルキュン」


 だから気づいていなかった。

 レオナードがぼそぼそと小さく詠唱しているのを。


「ニュンダ・ラヌエ・ザガワエア!」


「魔術!?」


 気づいた時にはすでに体は動かせなくなっていた。

 胸の中心辺りから鎖のような模様が全身に張り巡らされていく。


「まさか封印!?」


 だけどこれまでの封印とは感じが違う。

 魔の力が一切反応しない。それどころか心と体が引き離されるような未知の感覚。


「くくく、気づくのが遅かったな。そして詠唱は完成した。あとは最後の呪文を唱えるだけで、その効果は現れる。お前も知っているだろ、極大時空間転移魔術を」

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