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52 強くなりたい その15

 次元倉庫は使えないし転移魔法も使えない。食べ物もない、飲み物もない、そんな野垂れ死にコースの中で私を助けてくれた男の子、パル。

 オーガ達に服従させられている姿に暗黒教団での自分の姿が重なって、絶対に助けてあげるって思ったの。


 そんなパルは私と一緒に来てくれて、私の役に立ちたいって言ってくれて。

 危険を冒してまでルナドラゴンの尖付核を取りに行った。

 おじいちゃんが付いているとはいえ心配なものは心配だ。パルはまだ子供。成長も途中でオーガと言えどもエルフの血も入ってるし、力もそんなに強くない。


 ひどい目にあっていないか、痛い目にあっていないか。

 ずっとそんな思いがぐるぐるしている。


 パルが出て行ってからもう半日以上が過ぎている。

 私は儀式の準備で壁一面にびっしり文字と方円が書かれた部屋にずっといてる。窓もない部屋で外の様子はまったく分からない。

 とはいえ、美人麗人暗黒魔術師(すーぱーあーくめいじ)の私にできないことなんて無いわ。魔術で視界を外に飛ばして、パルたちが戻ってくるのを見ているの。


 もうすぐ日も落ちて夜になってしまう。

 夜の森の中は危険だ。それも手の入っていない原生林。さらにドラゴンがうろつくとなれば危険は無いはずがない。

 ああ。パル、早く帰ってきて……。

 そしてその綺麗な緑色の瞳を見せて……。


 少し吊り目で人によっては人相悪いって言うかもしれないけど、私はそのワイルド感は好き。そんなワイルドな顔が私の前ではニコニコと笑顔でいてくれるの。私はその笑顔が大好き。

 はやく戻ってきてその笑顔を見せて欲しい。


 あっ!

 あれ、もしかして、パル!?


 禁則地の入口。その先へと続く道の奥。人影が二つ見えたのだ。

 それはボロボロの姿になったおじいちゃんと、その背中におぶられているパルの姿と。


「パルっ!」


 いきなり大声を出したのだ。部屋にいたエルフの神官らしき人が驚いてしまった。


 そんなことはどうでもよく、今は少しでも早くパルの元に向かわなくてはならない。


「お待ちください! どちらへ行かれるのですか!」


「決まってるでしょ、パルの所よ! パルが戻ってきたの! 傷だらけで!」


「なりません! 儀式の準備は終えたのです。この部屋から出てはすべてが無駄になってしまいます」


「そんなのどうでもいいわ! そこをどいて!」


「いけません! 落ち着いて考えてください。どうしてパルルクが禁則地に向かったのか。あなたの封印を解くためですよ。あなたがここから出てしまうということは、パルルクの想いを無駄にするということです!」


「そんな事分かってる! 分かってるけど、でも!」


「なりません。ここでお待ちください」


「いいえ、行くわ。私がここに居ればいいんでしょ?」


「え、ええ。こちらにいてくださればいいのですが?」


「カルック、ワック、クー。創成するは知悉(ちしつ)たる身。泛泛(はんぱん)たる暗黒を持ちて天結せよ! 瓜二つの虚神像(マニエ・ルニエ)!」


 魔術で分身体を作り出し、パルの元へ飛んだ。


「パル! おじいちゃん!」


 目の前には予想以上にボロボロの姿のおじいちゃん。


 パルは、パルは……。


「リリザか……。少し手間取ってしもうた。安心せい、ボウズは死んではいない」


「パルっ! パルっ!」


 おじいちゃんの背中に担がれたパル。

 目を閉じてぐったりとしていて、血の気が引いたような顔の色。擦り傷切り傷が全身にある。だけど大きな傷は無い。

 きっとおじいちゃんが大きな傷を塞いでくれたのだ。


 こんなにボロボロになるまで戦って。私のために……。


 すぐにでも抱きしめてあげたい。胸に(うず)めてゆっくりと眠って欲しい。

 だけどそれは出来ない。なぜなら今の私は虚像。姿はあって声も聞こえるけど実体は無い。

 

「リリザよ、これを……。ボウズが命を懸けて得た素材じゃ……。これを……」


「おじいちゃん!」


 懐から金平糖のような形の白い骨のようなものを取り出して、おじいちゃんは気を失った。


「リリザよ、後は私達に任せるのだ」


 気配もなく突然シフォンさんが現れた。


「嫌よ! 私が治療するの!」


 こんな状態のパルを、おじいちゃんを放ってなんかおけない!


「落ち着くのだ! 虚像のその姿で魔術など使ってみなさい。儀式の準備がすべて無駄になる。先ほども言われたのであろう? パルルクの想いを無駄にするのかと」


「…………」


「我々とて治癒の術には覚えがある。信じろとは言わぬが任せて欲しい。お主はお主の役目を果たしなさい」


「分かりました……。パルを、おじいちゃんをお願いします。ぜったいに、ぜったいにお願い!」


「ええ。森の精霊とシフォン・フォーティナルの名に誓って」


 すぐにほかのエルフがやってきて。二人の治療を始めた。

 それを見届けて、私は分身を解き儀式の部屋に戻る。


 すでにシフォンさんは部屋の中。

 パルとおじいちゃんが取ってきてくれたルナドラゴンの尖付核を聖水で清めて、聖水で満たされて金の盃の中へと沈める。


 私は魔法陣の中央で仰向けに寝て集中力を高めている。


 そして儀式が始まった。


 ◆◆◆


「……る。………る」


 誰かが呼ぶ声がする。

 誰の声だろう。分からないけど、とても安心する声……。


「……パル、パル!」


 ううん……ちょっと頭に響くんだけど……。

 安心するというのは前言撤回。


「パル! パルっ!」


 分かったよリリザ、起きるから、おなか減ったんだよね、すぐに朝ごはん作るから……。


 重い(まぶた)を開く。

 眩しい光が目に入ってくる。だけどこれは朝日じゃない。


「パル、目を覚ました!」


 その瞬間光を遮って、褐色の肌がボクの視界を覆った。


「パル、パル、パル、パルっ!」


 く、くるしい!

 頭を力任せに抱きかかえられて胸に押し付けられてる。息が、できない。スライムのような軟体生物みたいにボクの口と鼻をふさいできて、どこにも逃げ場が……。


「パルっ!? ぱるー!」


 ボクがぐったりした様子に気づいたリリザは何かの魔術をボクにかけたようで、淡い緑色の光がボクの体を包み込んでいる。


 いったいなぜこうなっているのか、それを徐々に思い出してきた。

 ボクはルナヒドラと戦って……。


「リリザ……封印は解けたんだね。なんかツヤツヤして見えるよ」


「うん、うん! パルが頑張ってくれたから! 必死になって届けてくれたから!」


 リリザの目には涙が溜まっている。


「よかった。ボク、リリザの力になれたんだ……」


「うん、うん! なったよすごくなった。だけどね、もうこんな無茶なことしたらダメ! 私がすっごく心配して、死んじゃうから」


 きらりと光る水滴がリリザの頬を流れ落ちていく。


「あはは、リリザはそんなことで死んだりしないよ」


「笑いごとじゃなーい! いい、パル? 私は怒ってるのよ」


「うん。ごめんね。今度からもうちょっとうまくやれるように頑張るよ」


「大丈夫。もうこんな事、私がさせないから」


「そうだね。そういえばおじいちゃんは……」


「おじいちゃんも無事よ。パルより先に回復が終わって、ほかの部屋に移ったわ」


「そうなんだ。よかった……」


 部屋の中にはボクとリリザしかいない。

 リリザが治癒魔術をかけてくれたのだろう。心配させてしまったし、手間もかけさせてしまった。情けない。もっと強くならないと。


「あのねパル。パルには伝えておこうと思って」


「何のこと?」


「私の本当の名前は天ヶ崎真矢(あまがさきまや)って言うの」

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