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05 不思議なニンゲンに拾われて その5

 はふはふ、もぐもぐ言いながら魚を平らげていく女。腹をかじっては背中をかじって、また腹をかじってと味わうことに余念がない。


「キノコの味がじわーっと広がっていって深いの。ただ焼いただけのはずなのにすごい!」


 その小さくもプリっとした口からは想像できないほどの速さ。腹を減らした野犬かというほどのスピードで女は1匹目を食べ終えた。


「あれ? キミは食べないの?」


「ボクはいい。その魚はあんたのために焼いたものだ」


「んー、一緒にたべよ? すごく美味しいの。二人の方が美味しさを分かち合えるよ。ね?」


 まあ確かに。

 だけど、その魚は全部食べてもらいたかった。


 そこでボクは気づいた。

 ただ、この女が喜んでいる様子を見たかったのだと。

 ボクが食べるよりもそっちの方がいいと思っていたのだ。


 でもまあ、二人で食べることでより一層ニコニコしてくれることは想像に難くないので、それはそれでいいかな、などと思案しているうちに――


「さ。どうぞ」


 女は魚の串をずいっとボクの目の前に持ってきた。


「って、ボクが焼いた魚だぞ? 何を自慢げに渡してくるんだ」


「あっはっは、気にしない気にしない。それでは改めて、いただきまーす」


「なんだその呪文は?」


「んー? 食べ始める前の挨拶。キミたちは言わないの?」


「言わないかな。いた、だきーます?」


「あはは、そうそう、いただきます。食材と料理人に感謝ってことね」


 などと言いながらボクたちは魚を平らげたのだった。


 ◆◆◆


 食べ終わって一息ついて。

 お互い無言で魚の味を脳内で思い起こす至福のタイム。

 ほにゃっと呆けた表情を浮かべる女を見てボクもやり切った感に包まれている。


 いつのまにか女の腹の虫も鳴りやんでいて、満足したのだというまたとない証拠だな、などと考えるボク。


「ねえ、小さな料理人さん、お名前は?」


 そんな折に、ふと女が口を開いた。


「ボクはパル。それと、小さいは余計だ。確かに普通のオーガに比べたら小さいかもしれないけど、ボクはもう12才だ。子供じゃない」


「ふぅん? パル、ね」


 ボクの名前だけをオウム返しされる。

 小さいへの反論は理解してもらえなかったのだろう。


「そういうあんたは? 自分だけ名乗らないのはずるいぞ」


「あらら、ごめんなさいね。私の名前はリリザ。魔術師よ。よろしくね、パル」


「リリザ……。リリザか。うん、よろしく!」


 その名前の何か懐かしい響きに、ボクのちっぽけな自尊心はどこかへ行ってしまった。


「それで。なんでリリザはこんな山奥で倒れていたんだ? 人間なんか絶対にやってこない所だぞ?」


「あっはっは、それはね、聞くも涙語るも涙のお話があってね」


「キクモナミダ、カタルモナミダ?」


「そそ、実はね、って、あら、お友達かしら?」


 しまった。長居しすぎたのだ。と思った時にはもう遅かった。

 お友達。そう言われてようやく気付くことができたのだ。

 オーガの戦士たちがこちらへ向かって来ていることに。


 この場面、言い逃れはできない。ボクは集めた食材を盗み食いしていた事になる。


 食べ終えた後、早々にリリザに別れを告げて村に戻るべきだったのだ。

 そうすれば食材は採れなかった、採れたけど少なかったなどと言い訳もたった。


 心臓がドクンドクンと速いリズムで鼓動を撃ち始める。


 もう少し早く……例えば魚を焼いて渡した時点で帰っていればよかった。

 でもそうは出来なかった。

 この人間の女が……リリザが、とても嬉しそうに、そして美味しそうに、笑顔で魚を食べてくれたからだ。

 それはボクにとって離れ難い何かだった。


 ザッザッザと5人の足音が近づき、ボクたちの前で止まる。

 ボクよりもいくつか年上で、そしてボクよりも一回り以上も大きな体をしているオーガ達。

 彼らはすでに戦士としての力を認められていて、なんでも一人前に扱われる。

 ボクのように食料調達を行う者を監視・監督するのも彼らの仕事の一つだ。


「おい、パル。お前、こんな所で何をやってるんだ?」

「そいつは貴重な俺たちの食料だよな? なんで食ってるんだ?」

「お前、自分の身の程をわきまえているんだろうな?」


 次々と言葉が投げつけられる。

 それに対してボクは何も答えることが出来ない。

 答えようがない。彼らが言っていることは間違ってはいない。


「おい、黙ってないで何とか言えよ!」


 無言のボクの様子が彼らの怒りに火をつけてしまった。

 とはいえ、何かを言ったところで烈火のごとく怒り出すのは目に見えていた。


「あのー、あなたたちパルのご兄弟? にしてはあまり似てないかな」


 その声にボクはぎょっとした。

 なんと、膝を抱えて座ったままのリリザがオーガ達に声をかけてしまったのだ。


「なんだ女ぁ?」


 オーガの怒りの矛先がリリザに向かう。


「り、リリザ、に、逃げて」


 悪いのはボクだ。リリザまでとばっちりを受けることはない。


「なんだ、パルよぉ、人間の女なんか飼ってやがったのか。どおりで最近帰りが遅いわけだぜ」

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