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49 強くなりたい その12

 青白く美しく光を湛える鱗。ともすればボクの顔が映りそうな、きれいな色をしている。

 大きさはこの前で会ったドラゴンと同じくらい。それなりに大きい。

 このドラゴンには翼が無く、移動の全てをその太い脚でまかなっているようだ。

 特徴的な長い首の先にある頭部。その額の上部に角のように飛び出ているものがある。

 あれが尖付核なんだろうか。


 ――キュオォォォォォォォォン


 ドラゴンの咆哮っ!

 ボクは耳を押さえる。


 動きを止め、じっとこちらの方を見ている。

 どうやらドラゴンはボクらを獲物と認識したようだ。


「よし坊主、修行を再開するぞ」


 ん? 修行? 再開? 目の前にドラゴンがいるのに?


 ボクの頭に疑問符が浮かぶ中、おじいちゃんはひょいひょいっとドラゴンに向かっていき、触れると一瞬でバラバラになりそうな鋭い爪の一撃を跳んで回避し、そのまま長い首の先にある頭部に取り付いたのだ。


「坊主、荷物を全部持つのじゃ。探す手間が省けたぶん、今からランニングを再開するぞ!」


「ら、ランニング?」


「ほれ、ぶつくさ言ってないで走れ! じゃないと熱線(ブレス)でお陀仏だぞ」


 ――ぶわぁぁぁぁぁ


 おじいちゃんがルナドラゴンの頭を拳で叩くと、ルナドラゴンから光のブレスが発射され、周囲の森を焼き払った。


「ほれいくぞ! ブレス発射!」


「ちょ、ちょっと、まってぇぇぇ!」


 目の前にいたら丸焦げにされてしまう。逃げなければ、足を引きずってでも逃げないと!


 ボクは重い脚を鼓舞し、必死に走り出した。

 直後、ボクのいた地点に熱線が降りそそぎ、小岩は影だけを残して消え去ってしまった。


「いくぞルナドラゴン。ボウズを追いかけるのじゃ!」


 後方でズシンズシンと地響きが聞こえる。

 おじいちゃんとルナドラゴンが追って来ている!


「スピードが落ちとるぞ! もっと気合いれんか!」


 時折、檄と共に尻に火が付くかっていう距離に熱線が撃ち込まれる。

 気合って言ったって、さっきまで体力を使い果たして倒れてたんだよ?


 足が重い。枷の重さがじわじわと効いてくる。

 なんとか自分で足を動かせるほどだけど、後ろのドラゴンからは逃げ切れるとは思えない。


 時たま吐き出される熱線を何とか回避しながら、文字通り命がけで走り続ける。


「も、もう、だめだ……」


 思い通りに足が動かなくなり。何度もよろけてこけてしまいそうになる。

 熱線がボクの頭上スレスレを越えて行ったとき、とうとう限界を迎えて地面に倒れてしまった。


「ふむ。まあいいじゃろ」


 ルナドラゴンに乗ったおじいちゃんからお許しが出た。

 なんとか命を拾ったようだ。


「じゃあ次じゃ。今からワシがこのドラゴンを通して攻撃を行う。そいつを受け止めてみよ」


 ………。今、なんて言った?


「天狐封神流、双波廓大法!」


 おじいちゃんの練る波動が高まりを見せて体中を覆っていき、それが伝播してルナドラゴンの体にも伸びていき、やがて鋭い爪の先へと至る。


「この修行は一瞬じゃ。才能があれば一瞬で終わる。この波動を帯びた一撃を受けることによって、波動の存在を知覚し、自らの波動を目覚めさせるのじゃ」


 聞き間違いじゃない。あの大きな腕の鋭い爪の攻撃を受けろって言ってるぞ。


「ま、まっておじいちゃん! それだったらわざわざドラゴンが攻撃してこなくても、おじいちゃんの攻撃でいいんじゃないの!?」


「ええい、四の五の言うでない! そこになおれ! 波動剛掌撃!」


 ふっと顔が影に隠れる。

 振り上げられたドラゴンの前足が太陽の光を遮ったのだ。


 おじいちゃんは本気だ! 攻撃をくらう前提の修業なのに、そもそもくらったら死んでしまうという矛盾!


 ボクは体中の全オーガ細胞を総動員する。

 だけど、もはや立ち上がる力も無いし、立ち上がるには遅すぎる。


「うわぁぁぁぁぁ!」


 振り下ろされた前足。体をよじるように転がして紙一重で回避したが、攻撃が起こした爆風でボクの体は宙を舞う。


 重力に勝てるわけもなく、ボロ雑巾のように落下した。


「こら、なぜ避ける。当たらなければ意味ないじゃろ」


 無茶をおっしゃる。


「ほれ、もう一度じゃ!」


 地面を背にしたボクの上に再び大きな前足が迫る。


 もう一度回避だ!


 さすがに直前と同じ技を出されたら回避の腕も上がろうというもの。

 ボクは先ほどよりも早いタイミングで体をよじって余裕を持った回避を行った。


「それはフェイントじゃ」


 ――どがっ


 横から体に衝撃が走った。全身に等しく痛みが伝わっていく。

 痛みの原因はルナドラゴンのもう片方の前足。

 ボクが回避する方向を見計らって、そのルートをつぶすように横なぎの一撃が放たれたのだ。


 吹っ飛ぶ力に抗う体力も残っていない。

 宙を舞った体が地面を転がり、落ちている石がいくつも刺さる。


「どうじゃ? 波動は感じたか?」


 痛みしか感じない。


「げほっ……よく、分からない」


「優れた才能があるやつはこれで覚醒するんじゃがな。残念じゃ」


 この修行は一瞬。おじいちゃんはそう言った。

 ただの一撃で才能のあるなしを見極める方法。


 ボクは何も掴むことは出来なかった。つまりこの修行は終わりだという事。

 才能が無いということとイコールだという事。

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