46 強くなりたい その9
だけど、そればかり考えていても仕方ないって。
父さんが話してくれた物語の中で同じような境遇の主人公がいて、彼は立ち上がって強く生きたことを思い出して。
ボクもそうしようって、そう父さんがそう言ってるんだって思うようになって。
「シフォンひいおばあちゃん。ボクはもうそのことを恨んでいるわけじゃないし、父さんと母さんもそうだと思う。だけど、悪いと思うのなら父さんと母さんを弔ってあげて欲しい」
「ああ。あとで霊廟に行こう」
「うん」
そうか。ひいおばあちゃんはすでに父さんと母さんを弔ってくれてたんだ。
ありがとう。
「そういえば……。リリザとおじいちゃんはどうなったの?」
「あの二人には帰るように勧告している。その後急いでここに来たのでどうなっているのかはわからぬが」
「えっ!?」
それってもしかして……。
「シフォンひいおばあちゃん、参考に聞いておくけど、二人はボクが殺されるとか思っていないよね? ちゃんと説明したよね?」
「いや、生きては返さないと事前に説明しているので省いたが?」
「えっ!?」
「パルルクはこの里でずっと幸せに暮らすのだ。間違ってはおらぬよ」
ずっと暮らすかどうかは置いておいて、それはヤバくない?
ボクの捕縛=死が成り立ってて弁解の余地がないよ!?
下手したらこの里が滅んじゃうよ!?
「ボクが無事だってすぐに伝えてよ! じゃないとエルフの里が消えてなくなってしまうかも!」
さすがにリリザに限ってそんなご無体はしないと思うけど……。
しないとは思うけど……。
「里を囲む壁は万全だ。そうそう侵入されたりすることはない。安心なさい」
「それって一般的な話だよね!? リリザはそんな枠にははまらないんだよ! ドラゴンですら目を逸らすほどの力を持ってるんだよ! おじいちゃんだってリリザの師匠だ。きっと指先一つで壁に大穴を開けることだってできるんだから!」
「そんなばかな話が――」
「し、シフォン様! あの二人が、一瞬で壁を粉々にして! 里への侵入を許してしまいました」
遅かった……。
「これ以上被害が広がる前に止めにいかないと!」
◆◆◆
木のうろは天然の部屋。これほど大きな樹木だと何千年も樹齢があって、長年の間にぽっかりと空いたうろがいくつも出来るのだろう。
そんなうろとは対照的に人工的に作られた通路。そこを駆け抜ける。
扉をバタンと開けて飛び出した場所。そこは地下ではなく高所だった。
ベランダのような眺めのいい場所で遠くまでよく見渡せる。
「あれは!」
遠目に二人の人間が歩いてくるのが分かる。
二人とも悪鬼のようなオーラを発出していて、めちゃくちゃ恐ろしい。
案の定、二人を取り囲もうとしているエルフたちはその巨大なオーラに怯えて左右に分かれるようにして後ずさり……その間を悠々と二人は歩いて来ている。
「あれが人間の放つ気配なのか!?」
何百年も生きているはずのひいおばあちゃんも、さすがに驚きを隠せないようだ。
「りりざー! ぼくはぶじだよー!」
大きく手を振る。手すりを持って体を乗り出して、もう片方の手を大きくだ。
少しでも早くリリザに無事を伝えて、これ以上里に被害を出さないようにしないと!
「りりざー! りりざー!」
ぴょんぴょん跳ねながら自分の居場所を知らせようと頑張るボク。
すると、どうやら気づいてくれたようで、こちらのほうに顔を向けてくれている。
「よかった、これで被害は……って!」
リリザが右手をこちらのほうに向けると――
「攻撃魔術!?」
一瞬キラリと光った。
ボクは咄嗟に横にいたひいおばあちゃんの上に覆いかぶさった!
刹那、爆音とともに頭上の巨木が魔術でくりぬかれて、先の先まで貫通してしまった姿を晒していた。
「うへぇぇぇ……」
確実にひいおばあちゃんを狙ったものだ。リリザの中ではひいおばあちゃんはボクをさらった大悪人であり、命をもって償わせる対象になってるに違いない。
「パル! 無事っ!?」
顔を上げたとき、目の前すぐに箒に乗ったリリザの姿と、よくわからないけど空中でトントン足踏みをしながら浮いているおじいちゃんの姿があった。
◆◆◆
「と、そういう訳なんだ」
ボク達はひいおばあちゃんの私室でお茶をしている。
ひいおばあちゃんの話、ボクと父さん母さんの話、誤解を解くために改めてその話をリリザとおじいちゃんに話し終えたところだ。
「ご、ごめんなさい! まさかパルのご家族の方とは思わなくって。てっきり善良な美少年オーガを取って食う巨悪の親玉だとばかり」
「よいのだ。私の説明が足りなかったのもある。これまでの事はお互いに水に流そうではないか」
「ありがとっ! あっ、このお菓子、薄味だけど甘くって美味しい!」
「ちょっとリリザ、少しは遠慮ってものをだね」
「構わぬよ。さあそちらの坊やもお食べなさい。あまり食べていないようだがエルフのお菓子はお嫌いか?」
「坊や? えっ、ワシの事?」
「そうだ。ささ、甘くておいしいぞ」
ひいおばあちゃんはグランドラおじいちゃんの口元にお菓子を持っていく。
「ちょ、ちょっとやめてくだされ。ワシはもう60歳になるんです。そんな恥ずかしい事は……」




