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44 強くなりたい その7

 壁の上にはいくつか小屋に似た櫓のようなものがあり、そこから男のエルフが射てきたのだ。


「私はリリザ。かけられた封印を解いて欲しくってやってきたの」


「馬鹿なことを言うな。我々エルフは人間なんぞに力を貸したりしない!」


「そんな硬い事を言わずに、ねっ!」


「馬鹿を言うな! そこの子供、オーガだろ! そんなやつを連れた者どもに施すいわれはない!」


 この後も何回か問答を続けたけど、まったく聞く耳を持ってはくれなかった。


「このわからずやっ!」


 リリザにも我慢の限界が来たようだ。


「帰れ帰れ! あっ、シフォン様、どうしてこんなところに。今、野蛮な人間達が来ておりますので危険です。お戻りください」


 あちら側に誰かが現れたようだ。

 察するに偉い人のようだけど。


「シフォン様、いけません!」


 男の声が聞こえたかと思うと、櫓の上にエルフの女性が現れた。

 なにやら懐かしいようなどこかで会ったことがあるような、そんな雰囲気の女性。エルフの年齢はオーガ以上に分かりにくい。父さんも若々しい姿だったけど135歳だって言ってたからなぁ。


「人間達よ。何故この里に現れた。理由によっては生かして返すことは出来ぬ。ここは魔法障壁によって秘匿されたエルフの隠れ里。その場所が漏れるなどと言うことがあってはならぬのだ」


「ようやく話の通じそうな人が出てきたわね」


 そ、そう? 生きては返さぬって言ってるんだけど……。


「私はリリザ。魔法障壁に干渉して私たちがスルスル通れるようにしたのは謝るわ。だけど、どうしても私にかけられた封印を解いて欲しくって」


「……そこの子供は何者ぞ?」


「この子はパルよ」


「ボクはパル。エルフの父さんとオーガの母さんの間に生まれた」


「……そうか。自らの出自を正直に述べたことには賛称するが、お前たちを里に入れることは出来ぬ。我々とオーガは激しく対立している。半端者とは言え、それは同じこと。射手、射よ!」


「ま、待って! ボクが気に入らないのならボクは出ていくから! リリザは入れてあげて欲しい!」


「パル! だめよそんなの!」


「ダメじゃない! ボクがリリザの足を引っ張るなんて、そんなのごめんだ!」


「パル……」


「騒がしくするな。そこの子供がいようといまいと変わらぬ。オーガと行動を共にした人間を里に入れるわけにはいかぬのだ」


「わからずや……」


「なんじゃと?」


「わからずやって言ったんだ! ガッカリだ!

 ボクはここに来るまでエルフはきっとリリザを助けてくれるって信じてたんだ。

 それが、人間だから、オーガだからって、追い返すどころか殺そうとするなんて。ボクの父さんはそんな事なかった!」


「おい小僧、言わせておけば! シフォン様に向かってなんて口のきき方だ!」


「待て」


「ですが!」


「ボクは信じたい! エルフを、あなた方の事を信じたい!

 ボクの父さんは全てを受け入れる優しい心を持った人だった。オーガの母さんをすごく大切にして、優しくして、エルフとオーガの生き方ってすごく違うけど、それを理解しようとして、受け入れて。そんなすごいエルフだったんだ。

 父さん以外のエルフに会ったのは今日が初めてだけど、ボクはエルフはみんな父さんみたいに優しくて大きな心を持ってるって、そう信じたいんだ!」


「……一つ教えてはくれぬか。お主の父親の名前を」


「シュリンド・フォーティナル」


「そうか……やはりな……」


 目を閉じての沈黙。


「説得成功しちゃった感じ?」


 リリザがボクの方を見てくるけど……そんなことは分からない。


「やはり、オーガをここから出すわけにはいかぬ!」


 シフォン様と呼ばれていたエルフの女性。

 彼女が手に持った杖のようなものを空へ掲げた瞬間、ボクの足元がぐらりと揺らぎ――


「こ、これは!」


 円形の模様に複雑な文字が地面に光り浮かび上がっている。もしかして魔術!

 ズブズブと地面へ沈み込んでいく足。動かそうにも動かしただけ沈んでいく。


 ボクの体が沈みつつある円の中心から端まではおよそ4m。ボクの身長では到底端っこに手が届かない。


「パル! 掴まって!」


 それはリリザも同じ。円の外から手が届かないため、(ほうき)に乗ってボクを引っ張り上げようとしてくれる。


 ボクは必死に手を伸ばした。

 これ以上沈んでしまえば、おそらく引っ張ってもらっても上がることは出来ないだろう。


「リリザ! それ以上下がるとお主も魔法陣に引きずり込まれるぞ!」


「大丈夫よおじいちゃん! さあパル、もう少しよ! ほら、もっと手を伸ばして!」


 リリザは(ほうき)にまたがったまま体を下にせり出し、ぐっと手を下ろしてくれている。

 手を伸ばせパル、もう少し、あと少しでリリザの手に届く!


「ぱるっ!?」


 リリザが驚いた表情を浮かべる。


 もう少しで指と指が触れ合う。

 そこまで来たところで、ボクは一瞬だけ躊躇してしまったのだ。

 このまま手を握ったらリリザを逆に引きずりこんでしまうかもしれない。

 ボクがまたリリザの足を引っ張ってしまうかもしれない。

 一瞬。ほんの一瞬頭の中をよぎったんだ。


 その一瞬が致命的となった。

 ボクの手が、リリザの指が離れていく。


 もはやその距離を縮めることは出来ない。


 そしてボクは地面の中へと引きずり込まれた。

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