43 強くなりたい その6
あれから数日。ボク達はエルフの里があると言われているザール大森林にたどり着いていた。
武術の修業はもう始まっている。まずは基本的な修行。凄く重い枷をはめてこの旅を続けているのだ。
両手両足首胴の6か所に輪っかのようなものをはめているだけだが、それはもう、とてもとても重い。この輪っかは天狐封神流の修業道具らしく、見た目は普通の金属の輪なのにとてつもなく重い。リリザが3人乗っているくらいの重さだ。
おかげでボクの歩みは遅く、じわじわと離されていって、そのたびに二人が立ち止まってくれるという状態。
おじいちゃんに修行をつけてもらっているのはリリザには秘密だ。
輪っかだって見えないようにうまく隠している。
だから――
「どうしたのパル? 風邪でも引いた?」
いつもと違うボクの様子にリリザは額と額をくっつけてボクの体温を測ってくる。
病気じゃないのだが、秘密なのでとぼけておく。
あまりリリザには心配をかけたくない。
遅れている時点で迷惑はかけてるんだけど、それはごめんなさい!
「んー、熱いわね。風邪ね!」
全速力で走っている以上に疲れている。そりゃ体が熱くもなる。
「リリザよ、ボウズも男。お主のような美人が顔を近づけたら体温も上がろうというものよ」
「なんだ、そうなのね。パルも男の子だったのね!」
なんかすごく嬉しそうなリリザに腕をバシバシと叩かれた。
とりあえず病気ではないと思ってくれたのなら問題ない。
リリザに怪しまれないように気合を入れないとね!
それから歩くことしばらく。
相変わらずボクは二人から遅れてしまっていて。二人は先の場所で立ち止まって待っていてくれた。
「ご、ごめん。遅れて」
何とか追いついたボクは謝りながら息を整える。
さあ行こうと伝えたものの、どうやらここから先に進むことが出来ないと言う。
「どういうこと?」
「この先にエルフの結界があるみたいなの。精霊の力をベースにした魔法障壁タイプなんだけど、どうしたものかってね。おじいちゃん」
「そうじゃのう。力では超えられそうにないのう」
おじいちゃんが何もない部分に拳を振ると、コンコンと硬く軽いものに当たったような音が返ってくる。
「いやん!」
リリザのほうは、その見えない壁に触れた手が粘液みたいな液体でネチャネチャになっている。この壁ネバネバしているのか?
試しにボクも壁に触ってみる。
「あががががが!」
ボクは痛みを覚えてすぐに手を引っ込めた。
壁がある部分に手を伸ばしたはずが、手は何にもぶつからず、その代わりしびれるような痛みが襲ってきたのだ。
「パルは通れてるね。おじいちゃんは魔力無しだから壁は固くて、私は魔力持ちだからネバネバしてて。対象によって違う反応を見せるタイプの魔法障壁」
「おそらくエルフだけが問題なく通れるようになっとるんじゃろ。ボウズはまあ、痛むけど頑張れば通れるじゃろ」
通ることができても中でずっとビリビリ来ないだろうか心配だ……。
「そこまで分かれば何とかなるわ。私達の表面にエルフと同じ波動を流して結界を通り抜ける方法もあるけど、それだとなんかコッソリとエルフの里に入ったみたいだから、結界に私達の波長を登録してフリーパスにしよっかな」
あまり理解できなかったけど、とてつもない事をしようとしているのは分かる。
だってこの結界って柵とか壁とかと同じ防衛のものでしょ? 普通は外から入れるわけがない。それを入れるようにするっていうんだから壁に穴をあけるのも同じ。
「どのみち手助けを求めに行くのじゃからワシらが里に入ったことは知られるじゃろう。堂々と行くとしよう」
「おっけー」
そう言うとリリザは壁に手を当てて何かを口ずさんだかと思うと、まずはおじいちゃんの手を握って、次にボクの手を握って、そうしてまた何かを口ずさむ。
ボクの手が解放される。
見えない壁に何か魔術をかけたのだろうか。
「これでよしっと! さあエルフの里へしゅっぱーつ!」
二人は先に壁をすり抜けていった。
見た感じなにも衝撃は無かったようだけど、ボクはさっき手痛いビリビリを受けている。
ちょっと躊躇しながらもリリザを信じる心で、えいやっと壁に向かって飛び込んだが……拍子抜けなほどに何もなかった。
これがリリザの魔術。
力が封じられていても凄いものは凄い。
先を行くリリザがボクの視線に気づいたようで「もうパル。ぼーっとしてないで行くわよ」って言われた。
壁のあった場所からしばらく歩いた所。
木々の隙間から、天を突くような巨大な木が見えてきた。巨木というか神樹クラス。
ただの木ではないらしく、窓や扉があちこちにあって、住居として利用していることがうかがえる。
神樹には及ばないものの、太い木の枝の上に住居を構えているものもある。
ここがエルフの里で間違いなさそうだ。
そして里を囲むように建設されているのが木製の高い壁。木製と言ってもボクが10人くらい縦になっても上に届かないくらいの高さで圧倒的な威圧感がある。これが本当の物理的な守りになるのだろう。
――ヒュンッ
風を切るような高い音が聞こえたかと思うと、ボク達の足元に一本の矢が突き刺さっていた。
「そこで止まれ! 何者か!」




