42 強くなりたい その5
「さてリリザ。勇者の所に行くと言うておったな」
一息ついた所でおじいちゃんが口を開いた。
「おそらくそれは無理じゃ。あやつはお主の居場所を把握していて、お主が近づくと転移魔術で別の場所に行くじゃろう。封印はそれを兼ねておると見た。さすがにあやつも勇者。ワシの威嚇でもそこまでは吐かなんだが」
「つまり封印を解かないと勇者様には会えない」
「そうじゃ」
「おじいちゃん、封印の解き方知ってる?」
「ううむ。わしは格闘家。魔術は専門ではない。それに、門外のわしが見ただけでもわかる。お主にかけられた封印は並大抵のことでは解けないじゃろう」
リリザにかけられた封印。おじいちゃんいわく相当のものだという話だけど、ボクには全然感じられない。
触ってみたら分かるかなって思って、試しにリリザの腕を指でつついてみたところ、「いやん」と言って体をくねらされ、「今大事な話をしてるからまた後でね」とたしなめられた。
「そうじゃなぁ。当てがないわけではない」
「当て?」
「うむ。エルフじゃよ。長寿の一族であるエルフは魔術に精通しておる。彼らなら何かわかるかもしれん」
エルフと言われて一瞬ドキッとした。
そんなボクの様子を知らずに二人は話を続ける。
「でもエルフの里はどこにあるかわからないんでしょ?」
「うむ。じゃがザール大森林のどこかにあると聞いたことはある。行ってみれば案外簡単にみつかるやもしれん」
おじいちゃんがボクの方を見た。
また一瞬、心臓の鼓動が跳ね上がったが、もちろんボクがエルフの里の場所を知る訳がない。
「じゃあ。そうしましょ。けってーい!」
ボクが何かを口にする前に決まってしまった。
言い訳しようとまごまごしてたらリリザが「大丈夫よ、私とおじいちゃんがいるんだから。なんとかなるわ。パルは心配しないでいいのよ」って言われた。
リリザがそう言うのなら大丈夫なんだろう。
「今後の予定が決まったところで、おじいちゃん。お酒飲みたい。あれ。あれちょうだい」
「おお。そうじゃな。再会を祝して酒盛りじゃ」
「パルはまだ子供だからジュースよ」
そして、なんだか知らない間に酒宴が始まってしまった。
◆◆◆
「ううーん、もうのめなーい……むにゃむにゃ」
酒宴が始まって少し経って。
結構度数の高いお酒らしく、リリザはすでに酔っぱらって夢見心地。
おじいちゃんは酒には強いみたいで、顔はわずかに赤くなっているものの全然素面と変わってはいない。
辺りも暗くなってきたので、おじいちゃんと協力してリリザに寝る用の布をかけて、火を起こして野営の準備。案の定おじいちゃんは自慢の拳で一瞬で火を着けてくれた。
リリザは寝てしまって、ボクとおじいちゃんだけが起きている。
この状況は好都合。
ボクは意を決して口を開いた。
「おじいちゃんはリリザに武術を教えたんだよね」
「そうじゃよ。この子は才能の塊じゃった。まさに神から与えられたギフトというやつじゃ」
「その……ボクにも教えて欲しい! お願いします!」
そう言うと同時に頭を下げた。
一秒、二秒、三秒。無言の時が続く。
おじいちゃんの表情は見えない。
即答してもらえないってことは、駄目、なんだろうか……。
「ふむ。そうじゃな……。
天狐封神流を使える物は少ない。なぜなら修行の途中でついてこれずに脱落するものが多いからなのじゃ。それに才能も必要となる。長い修行に加えてじゃ。
じゃから出会いの挨拶の舞踏を行えるのは、もうごくわずかしかおらん」
「どんなにつらい修行でもやって見せる! 才能は、あるか分からないけど、ボクにはオーガの血も混ざってる。人間には無い才能があるかもしれない!」
「ふむ……。どうして力を求める」
「リリザを守りたいから……。
リリザは強い。いつもボクを守りながら戦ってくれる。ドラゴンだって倒せるし、ボクが手助けするほうが邪魔だって思っていた時もあったんだ。
だけどこの前、リリザは魔術を封じられてやられちゃって……。ボクも必死に戦ったけど手も足も出ないで。結局その場は何とかなったけど、それがすごく悔しくて辛くて。自分に力があればリリザは痛い思いをしなくて済んだんじゃないかってずっと思ってて。だから……ボクは強くなってリリザを守りたいんだ!」
じっとおじいちゃんの目を見る。
これがボクの想い。武術を教えて欲しい理由なのだと強く訴えるように。
「……いいじゃろう。特別に教えてやろう」
「ありがとうおじいちゃん!」
「これこれ、大きな声を出すでない。リリザが起きてしまう」
あっ、と思って口を閉じ、そっとリリザの方を見る。
リリザは目を閉じてむにゃむにゃ言いながら食べ物の名前とボクの名前を呟いていた。
セーフ!
今のボクの話も聞かれてなくてよかった。聞かれたらちょっと恥ずかしいからね。
こうしてボクは拳聖グランドラから天狐封神流を教えてもらう事になったのだ。




