40 強くなりたい その3
ボクらが歩いてその場所に到着するころには、もう肉の準備が出来ていた。
途中でリリザから「あれは粉砕波動撃。相手の体の奥まで衝撃を伝えるの」と、おじいちゃんが拳でロックグリフォンの硬い肉を調理している説明があった。
おじいちゃんが下準備していた肉。あれはミンチだ。
硬くて食べにくい肉を叩いたり細かくしたりして柔らかくするのは人間達も同じ。普通は刃物や棒を使うんだけど、おじいちゃんは拳法を使って一瞬のうちに挽肉にしてしまった。
「おお、ちょっと待っておれ。すぐに焼き上げるからのう」
ボクとリリザはおじいちゃんのいる場所からちょっと離れた草むらに腰を下ろした。
これからご飯だというのなら素材になったロックグリフォンさんの死体とは離れておきたいからね。食欲のためにも。
おじいちゃんも挽肉を持ってやってきて、背中の荷袋から木の板を取り出しすと、片手を向けて「波っ!」ってやってから、その上に挽肉を置いた。
「波動でまな板の殺菌したのよ。清潔が調理の第一歩」というリリザの言葉。だらしなくて料理とは縁遠いと思ってたけど、もしかして結構詳しいのか?
その他にも調味料を取り出して、最後にパンと玉ねぎを取り出した。
それにしてもあの大きな荷袋には、いろいろなものが入ってるな。
感心しているうちに玉ねぎが宙を舞い、落下してくる間に細かく切り刻まれて、木の板の上に落ちた。
「あれはね、手刀で切ってから波動で火を入れたの。見えた?」
などと言ってくるリリザ。悔しいけど全く見えなかった。
どんなスピードなんだよ。皮まで剥かれてるんだよ?
言っている間にパンも同様に細かくなって粉状になっていた。
おじいちゃんの技は見えないけど、ボクは気づいていた。
この材料はあれを作る準備だ。
そう、ハンバーグ!
肉が食べたいという母さんのために父さんが文献から読み解いた特別メニューだ!
そしておじいちゃんは挽肉に手をかけた。その手からはモヤが立ち昇っている。
あれは冷気!
ひき肉をこねる際には手は冷たい方がいい。温かいとこねている間に脂が溶け出してしまいジューシーさが失われるからだ。
口に入れた瞬間のあふれ出る肉汁がハンバーグの美味しさの秘訣。
そのためにはいくつかの技巧を凝らす必要がある。その一つが冷たい手で練ることだ。
二つ目は焼いた時に割れてしまい中から肉汁が出てしまうのを避けること。
おじいちゃんは材料と調味料を混ぜ終えて、すでに形の成型に入っている。
ここで割れないような形に、つまり表面を滑らかに整えるのがポイントなんだけど、そこも抜かりないようだ。
ここまでの行程でおじいちゃんの料理の熟練度が高い事がうかがえる。
最後のポイントは焼く時にうまみを閉じ込めて焼く。蒸し焼きと余熱が大切。なんだけど――
「波っ!」
おじいちゃんは放り投げた素材に掌を向けて気合一閃。
落ちてきた素材を皿で受け止めた。
ボクには何をやったのかさっぱり分からない。だからリリザの方をちらりと見る。「うーん。たぶん波動で火を入れたんだと思うよ」という回答。
さすがのリリザも見えない程の技巧。
皿の上に乗ったアツアツのハンバーグを見ても、父さんが念入りに火加減を見ながら焼き上げた極上ハンバーグとなんら変わりはない。
「付け合わせはこれじゃ」
おじいちゃんが取り出した瓶詰。
「あーっ、それ、グリーンニーニル!」
「そうじゃよ。リリザのために買っておいたのじゃ。グリーンニーニルのハチミツ漬け」
聞いたことがある。とある山の山頂でしか育たないと言われる高級野菜だ。希少な上、山頂には魔物が住み着き入手が困難なために、一族の族長でもほとんど目にすることは無いという。
甘い、辛い、どんな味でも合うため、ゆでてホクホクしているところにどんな味をつけるのかは料理人の悩みの種らしいが、王道は同じく高級食材のクイーンビー蜜をからめることらしい。
「さすがおじいちゃん! 大好きよ!」
むう。リリザがグリーンニーニルを好きだなんて知らなかった……。
でも知ってたとしてもボクには手が出せない代物だ。
「さあ召し上がれ。ボウズも遠慮するな」
差し出された皿。
もちろん遠慮などしない。おじいちゃんの料理の腕、試させていただく!
先ほどの波動焼き。果たしてあんな短時間でうまみを中に閉じ込められているのか。
「ううーん、おいひー! さすがおじいちゃん!」
パクパクと食べているリリザ。
そのペースにつられるわけにはいかない。今の僕はハンバーグ評論家!
ボクはハンバーグにナイフを入れるが……。
完璧だった。切り口から溢れ出す肉汁。まるで幸せの洪水だが、それを眺めている暇は無い。速やかに口へと運ぶ。
これは!
口に入れた瞬間のジューシー感!
最初にガツンと来る野性味あふれる肉のパワーと、噛み進めるうちにそれを包み込むようなまろやかさが現れて、ハーモニーが奏でられてる!
「うまい……」
くやしいがうまい。これほどの味が、下ごしらえ含めて5分もかからないうちに完成するだなんて……。
「だよね。おじいちゃんは勇者様のパーティにいたときにずっと料理を作ってくれてたの。毎日がワンダーランドよ」
ぐぐぐ、確かに、ワンダーランドかもしれない。でも、ボクだって完全に負けちゃいないぞ! と言うのを心の奥に押し込めた。




