39 強くなりたい その2
リリザが高速飛翔用の箒を出した。
「リリザ、あれ!」
人間達を襲っていた大型の魔物。四足歩行で背中には大きな羽が生えていて、顔は鳥のようにも見えるけど、体は熊や虎のようにも見える。その肌は石のような鉱物に覆われていて、すごく硬そうな魔物。
父さんから聞いたことがある。きっとロックグリフォンだ。
だけどボクが指差したのはロックグリフォンではない。
ボクと同じように大きな荷物を抱えた人間が一人、襲われている人間達とは違う方向、丘の向こうの方からすごい速度でやってきて……瞬きする間に一撃で、たぶん蹴りかなんかでロックグリフォンをのしてしまったのだ。
「私達よりも早く駆けつけるなんて、かなりの凄腕ね」
遠くを見るために目の上に手を当てて、様子を注視しているリリザ。
凶暴な魔物を一撃で倒してしまう人間。
いったいどんな人間なのかと、ボクもじっと目を凝らしてその人間の様子をうかがう。
うーん、遠くてよく分からない。
豆粒のような世界だからそもそも人間かも分からないんだけど。
助けられた人たちがその人間に近づいて、お礼でも言うんだろうと思ったその時。その人間と目が合った気がして、ドクンと心臓が跳ねた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
いっ!?
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
なんか、すごい勢いでこっちに走ってくるぞ!?
「り、リリザ!」
「大丈夫よ」
砂煙をもくもくと立てて猛スピードで走ってくる人間。オーガでもあの速さは出せないぞ!? リリザの箒よりも速いんじゃないか!?
ボクが慌てている間に声はだんだんと大きくなって、煙はもうそこまで来ていて――
「うわっ!」
そしてその人間はボク達の目の前で跳び上がり、襲い掛かってきた。
「弾ける魂!」
男が拳を突き出す。
狙いはリリザだ!
さすがのリリザはその攻撃に反応出来ている。
男の攻撃を迎撃するように突きを繰り出して――
「脈打つ血潮!」
えっ!? リリザが男の言葉に応えた!?
突き出した拳と拳。両者共にそれぞれの腕が受け止めたと思ったら、お互いくるりと後ろを向くように回転して――
「偉大なる始祖の!」
「技を受け継ぎ!」
今度はハイキックでお互いの足を交差させたぞ!?
「「神域へ至らんと欲す!」」
次は空へとジャンプした。
「「我らは」」
二人は上空で何かを爆発させた。あれがうわさに聞く闘気ってやつか?
そのまま地上に落下してきて――
「「天狐封神流!!」」
着地と同時に、お互いの拳と拳の先を当ててピタリと停止した。
い、いったいなんなのさ!?
一呼吸後、二人は合わせていた拳をスッと引く。
ボクは全然理解が追い付いていない。いったいこれは……。
「うぉぉぉぉぉ久しぶりじゃなリリザー!! 探したぞー!!」
「お久しぶりね、おじいちゃん。元気そうで何よりよ」
お、じ、い、ちゃ、ん?
もしかしてこの老人がリリザが言っていた拳法の師匠?
身長はボクよりもやや低い。白髪だけどふさふさとした髪の毛はもみあげとアゴヒゲと繋がっていて野性味を感じる。体形はオーガと違って細めだけどボクが背負っているのよりも大きな荷物を背負っているところを見るに、かなりの力を秘めているに違いない。
「おお、そうじゃ、喉が渇いているじゃろ。果実水をやろう」
そういって背負っていた大型の荷袋から筒を取り出して――
「天狐封神流、凍氷拳!」
筒を持った手を前後に動かし始めて……もはや手の動きも筒も見えないぐらいのスピードで。
「ほれ、キンキンに冷えとるぞ」
それをリリザに渡した。
「おじいちゃんもう一本ちょうだい」
「いいぞ、待っとれ」
そしておじいちゃんはもう一度先ほどのアクションを繰り返して、二本目の筒をリリザに渡した。
「はい、パル。どうぞ」
氷のようにヒンヤリと冷たい筒。ボクはリリザからそれを受け取る。
「あの……ありがとう」
「おや、気づかんかった。そのちっこいのは?」
「パルよ。私の旅について来てくれたの」
「ほほう」
顎の白いひげを手で撫でながら、おじいちゃんがボクに視線を向ける。
見定められているような、全てを見抜かれているような感じがする。
「パル、この人はグランドラおじいちゃん。拳聖グランドラって呼ばれてるの。前に話した私に武術を教えてくれた人よ。おじいちゃんと言っても血は繋がってないんだけどね」
「パルです。よろしくグランドラ」
「ふむ。堅苦しいのう。リリザと同じくおじいちゃんと呼んでくれればよい。まあ飯でも食いながら話をしようじゃないか。ちょうどいい素材が手に入ったところじゃ。ワシは先に行っとるからゆっくり来るといい」
おじいちゃんは踵を返すと、来た時と同様に砂塵を上げながら丘を下って行った。
そして先ほど倒した魔物の所に戻ると、助けた人間達と話をして……人間達はおじいちゃんと別れてそのまま先に進んで行った。
「パル、いきましょ。おじいちゃんの料理は美味しいのよ」
リリザが美味しいという料理か。ボクも料理には自信がある。どれほどのものか試させてもらおうじゃないか!




