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38 強くなりたい その1

 青々とした葉を茂らせている樹木が立ち並ぶ森の中。

 空からは暖かな光が差し込み、風はそよそよと流れて行く。


「あっ……あんっ」


 そんな中、リリザの嬌声が響く。

 この場には似つかわしくない声。


「リリザ、ちょっと、動かないでよ。うまくいかないでしょ」


「そ、そんなこと、あうん、言われたって、あんっ、そんな所、突かれたら……」


 動くリリザの頭をしっかりと押さえる。


「も、もっと優しく……」


「十分優しくしてるつもり。ほら、黙って」


「そ、そこはっ! ダメっ!」


 リリザの体は一瞬ビクっとして、そしてぐったりと動かなくなった。


「ちょっとリリザ? リリザが耳かきして欲しいっていうからやってるのにさ」


「ご、ごめんなしゃい。あまりにも敏感な所ばかりかくもんだからつい……」


 ボクの膝の上でモゴモゴと口ごもるリリザ。


 どうしてこうなったかと言うと、いつもの事だ。

 歩いている途中で疲れたって言いだして、休憩にもってこいな場所を見つけたから腰を下ろしたら、猫なで声で耳かきをねだってきたのだ。

 なにも今やらなくてもと思ったけど、やって欲しいと駄々をこねだしたのでしぶしぶやってあげたらこうなった。 


「どうする? 続きする?」


「ひょええ。きょ、今日はもう満足。気持ちよかったわ」


「それならいいんだけど……」


 ボクとしてはまだ掘り足りない。やり始めたら火が付いてしまった感じだ。

 まあ当人がもういいと言ってるのだから我慢しよう。


「そうだ、今度はパルに耳かきしたげる」


「いや、お断りするよ。前にリリザにやってもらったときひどい目にあったからね」


「や、あの時はまだ素人だったの。あれから修行を積んで習熟したから」


「どこで修行してたのさ……」


「宿屋とか?」


「ずっと一緒の部屋だったでしょ。そんな様子見てないよ」


「てへ」


「さあ、終わるのならどいてよね」


 未だリリザはボクの膝の上に頭を乗せている。


「やだー。もうちょっとー。ここが気に入ったのー」


「……もうちょっとだけだからね」


 やれやれ仕方ない。

 戦っている時はあんなにカッコいいのに、そうじゃない時はどうしてこうもだらしないのか。


 港町の一件からすでに数日が経っている。

 船に乗って北大陸について、そこからまた歩いて旅をして。

 オーガの集落から歩いた時と同じように、リリザはだらんとしながら、お腹が空いたと疲れたを繰り返して。最近では、ボクが疲労回復のためにとやってあげた足のマッサージや今の耳かきを事あるごとにねだられる。


 でもまあ、なんていうか、ボクもそれほど嫌ではない。むしろボクを必要としてくれているようで若干嬉しいのもある。


 そういうわけでボクはかなりリリザに甘い。


 サーッと風が吹き、リリザの綺麗な黒髪が風になびく。

 腰の辺りまで長く伸ばした髪。先端はくるんと巻いている。

 出会った当時はボサボサで、自然乾燥で大丈夫よ、などと言っていたが、それではよくない。だから、ボクも父さんが母さんにやっていたように、リリザの髪の毛をとかすようになった。


 膝の上のリリザはいつの間にか寝息を立てていた。

 こうしてリリザの顔を近くでまじまじと眺めることもあまりない。夜の火の番の時も結構見てるけど、今よりも遠いからまた別だ。


 安心しきった顔で寝てるな。

 黙っていれば美人……なんだよね。


 町でもよく人間達に声をかけられていた。

 一度、酒場に飲みに行ってくると言って出て行ったきりなかなか帰ってこないから心配して迎えに行ったら、ぐでんぐでんに酔っぱらって男達に運ばれているところだった。あんまりお酒強くないのに。

 さすがに反省したのか、一人で飲みに行くことは止めてくれた。


「ふぁーあ」


 ボクも眠くなってきた。森の中は落ち着く。子供の頃過ごしていた森にも似ているし、オーガの集落も山の中だったし。人間の町とか海とかは落ち着かない。


 すぅすぅというリリザの寝息がさらにボクの眠気を誘う。


 二人して寝るわけにはいかない……我慢我慢、我慢、がま……ん。


 ――うわぁぁぁぁぁぁぁ……


 って! なんだっ!

 悲鳴!?


「パルっ!」


 膝の上のリリザが飛び起きた。


 どこからだ? 近くじゃない、それなりに遠く。風にのって遠くから聞こえてくるかのような。


 すでにリリザはわずかに聞こえてくる声の方向へと走り出している。

 ボクは急いで大きな荷物を背負うと、先に進むリリザを追う。


 少し進んだ所、丘のような場所に出た。

 ここから先はなだらかに下がっていく勾配。いわゆる景色がいいポイントだ。ここからなら声の主を探すことが出来るだろう。


 そう思った矢先。じっと目を凝らして探すまでもなくそれは見つかった。


 草原のように短い草が生えている真ん中を分断するようにある登山道の先。

 人が豆粒のように小さく見えるほどの遠く。そこには何人かの人間達がボクと同じように大きな荷物を背負っていて、そして――


「魔物に襲われてるわね! 急いで助けに行くわよ!」

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