33 光を放つ守護の盾 その14
ぼくは……やられてしまったのか……。
一瞬で……。
「さて、残るは聖騎士のねーちゃんだけだが、どうする? やるか?」
「あわわわわわわ」
「結果は見えてる。今反抗して痛い思いをして売られるか、何もせずおとなしくしておいて売られるか。後者ならそこの女とボウズのように地面に寝っ転がる必要もない」
「あわわわわわわ」
「その腰に下げてる棒。普通の聖騎士なら帯剣しているはずだが、ねーちゃんはそうじゃない。おそらく人を傷つけるのを、殺める事に抵抗がある『いいひと』だ。オジサンたちもね、そんな『いいひと』にひどい事したくないわけよ。さあどうする?」
ホワニーを助けないと……。
きっと彼女は戦いには向いていない。あの大きな盾はそれを表している。たぶんだけど、荒事に巻き込まれたことはほとんど無いんだろう。体の動きが、位置取りや体捌きからそんな感じを受ける。
だとしたら、ボクが助けないと。
女の子を助ける。父さんと約束したんだ。ボクは男なんだ。
体は痛む。痛みが全身を支配していて動かす命令すら通らない。
だけど、それでもやらなきゃ、ホワニーを守らなきゃ!
何とか体を起こし、ホワニーに近づこうとするあいつに向かって走り出す。
スピードは全然出ていない。頭では走っているつもりだけど体が追い付いてこない。
それでも! それでもっ!
「ほう? まだ動けたのか。オーガってのは丈夫だな。オジサン弱っちゃうよっ!」
ぐはっ……。
足が横腹に刺さって……。
痛みでその場でうずくまる。
「どうしたボウズ、もう終わりなのか、ほら、ほら、どうした、もっとあがいてみろよ!」
痛い。頭が、顔が、背中が……。
絶え間なく痛みが押し寄せてくる。
「パル君!
や、やめてください! そんなにしたら死んじゃいます」
「おやおや、聖騎士様が悪党に頼み事をするのか? 潔癖症の集まりみたいな聖騎士様がよ! おもしれぇ。おもしれぇよ! ほら、ほら、興が乗ってきたぜ。お前が聖騎士にあるまじき、みじめな姿を晒すから、こいつがひどい目に合うんだ。ほら、ほら、ほら!」
ぐ、ぐぅぅぅぅっ!
痛みが意識の大半を占めている。このまますべてを塗りつぶすのに時間はかからないだろう。
だけど、そうなる前に、なんとか……。なんとか。
「ほら、どうした、こいつを助けないのか? その盾は、その鎧は飾りか? ぶっはっは、情けねえ、情けねえなおい。そんなんならこいつらだって聖騎士になれちまうぜ、なあ?」
「うっす! 俺達でもそんな無様な真似はしませんぜ」
「ほら、どうよ、お前たちが守るべき、守らなくてはいけない善良な人が苦しんでるぞ? お前は助けに来ないのか?」
「うっ、ううううううう」
い、いいんだホワニー、じっとしてるんだ……。ボクは大丈夫。ボクが痛みに耐えていればホワニーはひどい事をされない。だからそのままじっとしておいて。
これが……今のボクにできる、唯一の事。女の子を……ホワニーを守るただ一つの方法だから……。
「うううう……。うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ホワニーは急に大きな声を上げた。
あのオドオドした様子からは想像もつかない。そんな声を。
――がんっ、がんっ
上からの衝撃が、雨のようにボクに降り注いでいた痛みが無くなった。
それは、ホワニーが背負っていた大きな盾をかざして、あいつの攻撃を防いでくれているからだ。
「わ、私はリティアンス様の聖騎士ですっ! 子供が暴力を受けていて、どうしてその場に留まったままでいられるでしょうか!」
「くくく、いいねぇ。偉い偉い。身を挺して弱きものを守る。いいねえ。ぞくぞくする。ああ、もっとそれを感じさせてくれよ!」
――ゴガンゴガンゴガンゴガン
「くうっ!」
「ほ、ほわにー……」
それだけを何とか口から絞り出した。
むろん伝えたかったことは全く伝わっていない。
無理をしなくていい。ホワニーが痛い目に合うのなんか見たくない。だからその盾を置いて下がってくれ。
その言葉を発することが出来る状態にボクは無いのだ。
「大丈夫ですパル君。私、こう見えても、つ、強いんですから」
ボクを安心させようとしているのだろう。こういっちゃなんだが、全然強そうには見えない。
「ほら、どうしたしっかり盾を構えておかねえと、ほら、ほら、ほら!」
「あうっ!」
ホワニーは必死に盾を構えてゼンジーの攻撃を受け止めている。
体ほどもある大きな盾だ。普通にしてても相手の様子は見えづらいのに、うずくまっているボクからでは、なおの事その先の様子は見えない。
だけど分かる。ゼンジーは楽しんでいる。さっきのリリザの時と同じだ。
遊ぶように盾を攻撃をして、ホワニーが苦しむのを眺めているんだ。
「どうした? 攻撃してこいよ。守ってばかりで何ができる。ほら、ほら、ほら。この、ウスノロがよっ!」
――ガンッ
「ああっ!」
暗かった視界に明るさが戻る。
――ガランッ ガラン、ガラン、ガラン
盾が蹴り飛ばされたのだ。
おかげでこの醜悪な人間の面を拝むことが出来た。この下劣な人間を!




