32 光を放つ守護の盾 その13
「体術も使えるからそんなことは無い、と思っているんだろボウズ。確かに並みの相手なら魔術が無くても体術だけで何とかなるだろう。だがな、目の前にいるのは並みの相手じゃないんだよ!」
ゼンジーは左右交互にナイフを突き出す。
リリザはそれに触れることなくひらりひらりと回避していく。
先ほどと同じく舞を見ているかのような。
でもこれはおかしい。二人の動きは先ほどと違ってわずかに遅い。
あいつの力ならもっと速い攻撃を繰り出すことが可能なはず。
「ひ、ひどい、あの人、遊んでいるんです」
あわあわとしているホワニーが口を開いた。
遊んでいる!? 確かにそうだ。もはやリリザを相手とみなさず、いたぶるように少しずつ攻撃してるんだ!
つまりそれは余裕でリリザを倒せるという事。
くそっ、どうすればいい! ボクが加勢して何とかなるのか? それだったらリリザのためにいくらでもやってやるのに、ボクの動きじゃリリザの盾にしかならない! いや、盾になれるかも怪しい。あいつの動きの速さ、攻撃のキレ、ボクなんか体を切り刻まれて終わりだ。
一瞬だけでも動きを止められたら……。そうしたらその一瞬でリリザがあいつを倒してくれる。
一瞬。瞬きの間。
その一瞬の時間すらボクでは作ることが出来ないだろう。
「だけど……」
気づいてしまった。
鋭利な刃物とはいえ、所詮はナイフ。斧や鉈のように重さで叩き切るわけじゃない。そうだ、その動きさえ止めてしまえば。そうすればその時間が作れる。
そう、ボクの体にナイフが刺されば、ほんの僅かとはいえ時間が出来る!
遊ばれ追い込まれているリリザのため、身を切る覚悟が出来た所だった。
「おまえ!」
ボクが動くよりも先にリリザは動いていた。
その腕にはナイフが突き刺さっている。
「リリザ!」
なんていうことだ。リリザもボクと同じことを考えていたのだ。
「くらいなさい、覇道八卦掌!」
ナイフを抜こうとして体勢を崩したゼンジーのこめかみに、リリザの掌底がめり込んだ。
――ドウッ
だけどゼンジーは倒れなかった。
リリザの攻撃を受けながら、逆にリリザの腹に蹴りを放ったのだ。
「リリザ!」
一撃を受けたリリザは後ろへ吹っ飛び、地面に倒れた。
その時ボクの顔に何かが降りかかっていた。
それはリリザの血。刺された腕から流れ出ている血だった。
「ふぅ、危なかったぜ。魔術が使えていたなら……硬化した魔力を帯びた一撃だったら俺の負けだった。それが無い今、俺を倒すには少しばかり威力が足りなかったようだな」
倒れたリリザは仰向けのまま動かない。
今の一撃は相当重かったのだろう。あのリリザが倒れて動けなくなるなんて。
それでも冗談なんじゃないか、という思いがあって、じっとリリザの復活を想ったけど、やはりリリザは身じろぎ一つしない。
腕からは血が流れ落ちている。
手当をしないと、じきに血が流れすぎて死んでしまう。
今すぐにでも駆け寄りたい。
だけどそれは悪手だ。あいつに背中を向ける事になってしまう。
だったらホワニーに守ってもらって、その隙にリリザの手当てをするか?
だけど、あんなに怯えている女の子にあいつの相手をさせるのか?
そんなことは出来るはずがない!
「ホワニー! リリザを頼む! 血を止めてくれ!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
ガチャガチャガチャと音を立てながらホワニーはリリザの元に向かってくれた。
ホワニーならきっと出血を止めてくれるだろう。
あとはボクがあいつをここから先に行かせないようにするだけだ。
動けないリリザにあいつが近寄ったら何をされるか……。
心を引き割くようなイメージが頭の中をいくつもよぎっては消えていく。
いや、そんなことはさせない!
ボクがリリザを守らないと!
「おい、ボクが相手だ! リリザには近づかせないぞ!」
リリザを守るように、倒れたリリザの前に出る。
ボクは素手だけど、いざとなったら噛みついてでもあいつを倒してやる!
「へぇ、ボウズ、いっちょ前にナイト気取りかよ。若いっていいねぇ。志さえあれば、熱い想いさえあれば何とかなると思ってやがる」
無造作に歩を進めてくるゼンジー。
どう攻めればいい、どの攻撃ならこいつを倒せる?
拳か蹴りか、右か左か?
分からない、この男を倒せるイメージがわかない!
「おい、威勢がいいのは最初だけかよ、ブルっちまってるじゃねえか。ほら、かかって来いよ。さあさあ」
ゼンジーはボクを小馬鹿にしたように言うと、両手を真上に上げる。
武器は持ったままだけど、胴体はがら空きだ。
そこに一撃入れれば、その後組み付いて時間を稼げば、リリザはきっと立ち上がってくれる。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
その隙だらけの腹に向かって渾身のパンチを繰り出す。
「はぁ、芸がないねぇ。未熟も甚だしいっ!」
――どうっ
「ぐ、え……」
な、なにが起こった……。
「パル君!」
ホワニーの声が聞こえる。
腹から胃液が逆流しそうだ。
痛い。この痛みは腹か。
「いつまでもぼーっと突っ立ってるんじゃねえよ。理解できていないのか? 俺を殴ろうとしたお前の攻撃を俺は難なくかわして、お前の腹に膝を叩き込んだだけじゃないか。どうだ? 理解出来たか? 出来たらいつまでもその口からきたねえもん吐き出してるんじゃねえよ!」
再び体に衝撃が走り、次に気づいたときにはボクは冷たい床と接していた。




