31 光を放つ守護の盾 その12
「その身のこなしと技、天狐封神流だな。どこで習った。継承者はごくわずかのはず」
「それは秘密よ。美女には秘密が多いのよっ!」
今度はリリザから行った!
人が三人ほど通れるか通れないかという横幅の狭い場所。まるで野生の獣を思わせるように左右の壁を蹴りながらジグザグに動いて狙いを絞らせないように、そして死角からの一撃をお見舞いした。
ゼンジーは斜め上からの攻撃に動じることもなく、体をすっと横に動かすとリリザの蹴りを避け、技の途中のリリザに対してナイフを突き出す。
リリザはリリザで攻撃を回避された直後の硬直を消すため、攻撃の動きを止めて移動へと切り替えて、地面を踏みつけることで体勢を立て直してナイフを回避する。
激しい攻防。リリザの蹴りを交わしたかと思うとゼンジーがその隙を見て攻撃に移る。リリザは攻撃をいなしてゼンジーの急所を狙う。
「ふんっ! よく動く! 俺の部下がやられるわけだ!」
「ありがと。あなたの部下は体術を見せる前にやられちゃったんだけどね」
二人の動きは鋭く、目を凝らしていなければ見落としてしまうほどだ。
「そんな胸をしていたら格闘技なんて向いていないだろ!」
「あらん、知らないの? 天然の鎧なのよ?」
言われてみれば、リリザの動きに合わせて大きな胸がブルンブルンと震えている。きっと無い方がもっとシャープな動きを取れるのだろう。
だけどリリザの言うことも一理ある。
確かにあれは柔らかい。度々押し付けられるからよくわかる。だけど押し付けられすぎると苦しくもある。つまり胸部防御にもってこいというわけなんだね?
「戯言を。いつまでその余裕を見せていられるかな?」
二本のナイフに対してリリザは足を使ってさばいている。硬い素材でできているブーツの底で致命的な一撃を受け流しているのだ。
だけど足では手数(足数)が足りない。必然的に追い込まれることになってしまい、その隙をついてリリザの体を切り裂こうと鋭い斬撃が繰り出される。
触れたら血を吹く鋼鉄の刃。
だけど、驚くことにリリザは素手でその攻撃をしのぎ始めたのだ。
「硬化させた魔力か!」
「そ。見破られちゃったか」
まるで剣舞。刃と拳が、脚と刃が、交差し、二人は舞を舞っているような動きをしている。
「見事な動きだ。だがまだ未熟。元が魔術師であるため練度が足りていないぞ!」
「わおっ、オジサン、速いのね!」
どうやらリリザが刃を弾けるのは拳の部分だけのようだ。スピードを上げたゼンジーのナイフ捌きにじわじわと押されて、わずかづつ、その服に、腕に、小さな赤い傷が増えていく。
「ちょっとだけ本気みせたげる。これが天狐封神流、爆連破砕拳よ!」
リリザの背から20個ほどの火球が生まれ、リリザの両腕のラッシュと共に一度に相手に襲い掛かる。
「ぬおぉぉぉぉぉぉ!」
今度はゼンジーが手数に押される番だ。リリザの拳を防ぎながら、四方八方から無軌道に襲い来る火球をはじき切り裂かなくてはならない。
だけどゼンジーも相当の手練れ。その猛攻をしのぎ切っている。
「まだまだっ!」
浮かんでいた火球が無くなったかと思うと、新たに次々と生まれていく。
「ば、ばかなっ! この動きに無詠唱、尽きる事のない火球だとっ!」
「相手が悪かったわね。さよなら、オジサン」
さばききれなくなった火球がどうっ、どうっ、といくつかゼンジーの体へヒットする。
だけど一撃一撃のダメージはそれほどでもないのか、致命傷には至っていない。やつを倒すにはもっともっとぶつける必要がある。
リリザもそう判断しているのだろう、流れるように次々と火球を生み出していく。
「あ、あれれ?」
そんな中、いくつかの火球を生み出した所で後続の火球生産が止まってしまった。
ぎりぎり拮抗してわずかにリリザ側に傾いていた攻撃。そのバランスが崩れ、ゼンジーは残ったすべての攻撃を防ぎ切った。
「あぶねえところだったぜ。ようやく効果がでてきやがったか」
リリザが一歩、二歩と後退する。
「それは……もしかして、いえ、もしかしなくても、怨みの呪殺剣。どうしてあなたがそれを」
「おっと、それ以上は」
ゼンジーはそこまで言うと、口の前に人差し指を一本立てた。
なんだ? ゼンジーが一瞬ホワニーの方を見たぞ?
「……」
リリザも黙ってしまった。あのナイフ、それに何かあるのか?
「俺たちは口を封じるすべを持っているから構わないが、お前はそうじゃないだろ。善意だぞ。止めてやったのは」
「ご親切にどうも。私だってそれくらいやれますーだ。だ、け、ど、やらないに越したことはないからね」
「ふん。まあ、こいつのいわくは置いといてだな、この剣に切り付けられた魔術師は魔力の流れが阻害されて魔術を使えなくなる。魔術の使えない魔術師、つまり無能な一般人以下に成り下がるってわけさ」
なんだって!? 魔術が使えなくなるだって!?
だけど、リリザは体術も使えるぞ! それだけで、体術だけでボクよりもずっと強い!




