30 光を放つ守護の盾 その11
「あなたは?」
「私はゼンジーと申します。この館の家令を務めております」
「家令。屋敷全体を切り盛りする、使用人たちの最上位ってわけね。で、そんな偉い家令さんがどうして牢屋なんかに?」
「お言葉のとおり、家令は屋敷全体を統括する者。もめ事があれば詳細を把握するために現場に出向くことは必須」
「厄介ごとを起こした私たちを排除しようってわけね」
「おい、エミィをどこにやった!」
「その……旅人が行方不明になってるって、もしかしてその」
「ふむ。リティアンス教団の耳に入ってしまいましたか。もみ消しには手間がかかりそうですね……。そうですね、その費用はあなた方に支払っていただくとしましょう」
「ちなみに、おいくら万円? 私、手持ち今ゼロなんだけど」
「お金のことを気にする必要はありません。あなた方を売ったお金を回しますので」
「売るって、まさか、奴隷売買!? そんな馬鹿なこと、奴隷売買はこの国では禁じられています! リティアンス様の教えでも禁忌ですよ!」
「確かに、この国ではね」
「まさか、外国!?」
「そのとおりです。最初はこの町の浮浪者たちでした。外国に奴隷として売り払い対価を得る。そのお金でこの港町を繁栄させる。素晴らしいほどに上手くいきましたよ。ですがそれも永遠に続くというわけにはいきませんでした。町がきれいになり、スラムは無くなり、出荷する奴隷がいなくなったのです」
「それで旅人を」
「そうです。町の繁栄のために莫大な金額が必要だったころと違い、今は税収も上がっている。そんなに大量に奴隷を出荷する必要はないのですよ。それでも先方の要望に応えるのがよい事業主というものでしょう。いなくなっても問題ないような旅人を招き入れ、捕らえて売る」
「いいのかしら? そんなにペラペラと自分たちの悪事をしゃべっちゃって。私たちって、口封じされるわけじゃなくって、売り飛ばされる予定なんでしょ? だったらそこから悪事が漏れちゃうわよ?」
「聡いですね。もちろんあなたがたは外国に売る予定です。だけどね、あなた方の口からそれが漏れることはないんですよ。そういう手段を私はいくつも持っていますから。現にこれまでこの情報は漏れてはいませんでしたよね」
「おい、この悪党、エミィは、エミィはどうしたんだ!」
「エミィ? あぁ、あの少女の事ですね。そうですね。今頃は海の上でしょうか。弟と一緒にね」
「このーっ!! すぐにお前をぶっ倒して追いついてやる!」
ぶん殴ってやる。この悪党の鼻っ柱をへし折ってやる!
そのすかした笑顔をボッコボコにしてやる!
「パルっ!」
飛び掛かろうとした寸前でボクの体の前にリリザの腕が現れた。
「なんで止めるんだよリリザ」
「下がっていなさい。私がそう言わなければ分からないくらいなんだから」
いつもニコニコおちゃらけた表情のリリザが真面目な表情を浮かべている。
ボクはいったん冷静になって男を見る。
それでようやく分かった。あいつはかなりの腕前だ。ボクが10人いたとしても絶対に勝てないレベル。ただの下働きの人間じゃない。
「ホワニーもよ」
「は、はいっ!」
ボクとホワニーはあいつから目をそらさずにゆっくりと後ずさる。
「よくもまあペラペラとしゃべってくれるわね。それだけ自分の力に自信があるってことよね?」
「そのとおりです。そちらの騎士様からではなくお嬢さんがお相手を?」
「そうよ。それと、いい加減そのしゃべりかた止めたら? 聞き苦しいんだけど?」
「フッ、それは済まなかったな。商売上あの口調は必要でな」
口調が変わった。これがあいつの本性。抑え込まれていた殺気が一緒に吹き出している。
「丸焦げになりなさい!」
リリザが先手を打った。3つほどの火球が現れるとゼンジ―とかいう男を強襲する。
「ほう、無詠唱」
ゼンジーは驚いた様子もなく腰の後ろに手を回すと二本の長めのナイフを両手に持ち、目の前に滑らせるように振るうと、自らに迫る火球を難なく切り裂いた。
「ムル、カルラ、グラギアー」
「この距離で詠唱などさせんよ!」
一歩半。ただそれだけ進んだだけだった。なのにゼンジーはリリザの目の前まで迫っていた。
「しまっ――」
密着するくらいまで迫った二人。ゼンジーの駆るナイフがリリザの喉元に迫る!
「ぐっ!」
一瞬の事だった。ナイフがリリザの喉をかき切ると思われた瞬間。リリザの長い足が天へと伸びたのだ。その足は攻撃中の無防備なゼンジーの顎を下から狙っていた。
だがその一瞬の攻防を見抜いたゼンジーはくるりと体を入れ替えて、間一髪のところでリリザの蹴りをかわして後方へと戻る。
「あらん、ざ、ん、ね、ん? ほいっと」
その隙を見逃さずに再びリリザは無詠唱で火球を発生させ放っていた。
「驚いた。ただの魔術師かと思わせておいてカウンターを狙うとはな」
残念なことに火球はゼンジーに届くことは無かった。
「ぴっちぴちの足が襲ってこないとは言ってないわよ」




