27 光を放つ守護の盾 その8
「いないよリリザ? もしかして魔術に失敗した? リリザでも失敗することってあるんだね」
失敗はしていない。そこかしこに大石に残った魔力と同じ魔力の残滓を感じる。
きっとまだ帰っていないか、どこかに出かけているということなんだろうけど、状況証拠からするとパルにそう言われても仕方ないわよね。
もちろん天才暗黒魔術師お姉さんがこれで終わる訳はない。
「パル、まだ歩ける?」
大石をずっと持ったままなのだ。これからまた歩かせるのはちょっと気が引ける。
「大丈夫だよ。こんな石くらい何てことない。リリザの方が重いから、ぐえっ!」
失礼なことを言うパルの頸動脈を腕で締めておいた。
さて、失礼な子はおいといて。
探索する際に女の子の魔力だけを追ったのがまあ今の原因なので、女の子とパルの魔力を同時に追うことにする。渡したお金にはパルの魔力が残ってるからね。
「おい、あんたら、エミィの知り合いか?」
探査魔術を発動して、家から出て再出発、というところでおじさんに話しかけられた。
「エミィ?」
「あぁ、その家に住んでいる娘だ」
おじさんの話によると、エミィちゃんは旅人や観光客にあくどい商売をしていて、この町の兵士たちに目をつけられているのだとか。
どうしてそんなことをしているのかと言うと、弟を養うため。
その昔、領主が町の治安維持に力を入れ始めたころ、エミィちゃんの父親(ろくでなし)は違法賭博で捕まってそれっきり帰ってこなかった。すでに母親は亡くなっており、父親もいなくなったことで子供だけが残ったのだ。
詐欺や盗みなどで日々の糧を得て命をつなぐエミィちゃんに対して、町の大人達は多少の事ならばと目をつぶっているらしい。
それは父親を改心させてやれなかったという後悔の思いがあるからなんだって。
かといって二人を引き取ることまではしない。せいぜい黙認して生存を確認してあげるくらいの存在。
それがエミィちゃんと弟くんのタク君。
「領主様の兵士がエミィを連れていっちまったんだ。せいぜい日銭くらいの悪事だったからこれまでは見逃されてたんだろう。それが何があったのか今日に限っては大金をチラつかせてたんだ。それをせしめるつもりだったんだろうな。タクと一緒に連れていかれたよ」
んとに! それだけ気にかけてるのならエミィちゃんをまっとうな道に戻してあげるのが大人ってもんでしょ! とお説教をしたら「ああ、そのとおりだよ」と力なくつぶやいていた。
「リリザ! エミィを助けに行こう! エミィは悪い事なんかしてない! あのお金はボクがあげたんだ。だから捕まる理由なんてないはずだ!」
緑色の綺麗な目を見開いて、じっと私を見上げてくるパル。
本当に純真な子。女の子に優しくする。お父様の教えをしっかり守る賢い子。
「わかったわ。私の負けよ」
「それじゃあ!」
「ええ。一緒に助けに行ったげる。だけど私は手伝うだけ。
あのねパル。言ったことには責任が宿るわ。エミィちゃんを助けたければパル、あなたがしっかり責任をもって助けるのよ」
「分かった! ボクがエミィを助け出す! 絶対に!」
大石を持ったまま駆けだそうとするパルの首根っこを捕まえる。
「はいはい、その石は置いていく。あと、助けに行くって言っても正面からは行けないわよ」
「分かってる!」
脊髄反射のように答えが返ってくる。
これは分かってない返事だ。
本っ当に、女の子の事となったら一途なんだから。
ま、可愛い弟分がこれだけやる気を見せてるのだ。
力になってあげるのがお姉ちゃんってものよね!
早く早くとせかしてくるパルと一緒に領主の館へ向かうのであった。
◆◆◆
救出っていうのはこっそりやらないとダメ。正面から乗り込んで相手をボコボコにしようものなら人質にとられてしまうわ。
リリザはボクにそう言った。
だけど、こっそりなんて、夜にだなんて、そんなの待っていられない。今この瞬間にもエミィはひどい目にあってるかもしれないんだから!
「ちょっと、パル!」
リリザの声が後ろから聞こえる。
領主とやらの屋敷、話に聞いたとおりすごく大きい。ここで間違いない!
見えてきた屋敷は途中で見た大きな壁に似た堅牢そうな壁に囲まれていて、その先には、2、3階建ての石造りの建物が鎮座している。
屋敷を取り囲んでいるのは大きくて長い水路。地面を深く掘ってその中に海水を流してるんだろう。幅も広くて飛び越えられる距離じゃない。
だから屋敷に続く道は正面だけ。正面にある門につながっている橋だけだ。
門の前には人間が二人。いや、三人。長い槍を持った人間の男が二人と、あの鎧と盾は……ホワニーだ!
二人の男たちと何やら言い争っているように見える。
もしかしてまた難癖付けられてるのか? いや、まさかエミィみたいに連れて行かれる所なんじゃないか?
だとしたら助けないと!
「待ちなさいパル! 止まりなさい!」
ごめん、リリザ。あとで謝るから!




