26 光を放つ守護の盾 その7
この町は今もなお外へ外へと拡大を続けていて、町を守る囲壁の外へ向かって広がり続けている。そのため元々あった囲壁は、現在では町の中に存在している。
そこを超えてさらに市街地を進む。拡張していると言っても利便性の高い方向、つまりは平野部に沿って伸びていくので、今進んでいる方向、山間部側はそうでもない。
そんな街はずれのとある一角。
「あそこ! あそこよパル!」
人目が少なくなり体裁を気にしなくなったエミィは、石造りの古民家と古民家の間にある空き地を指し示す。
「到着!」
パルは背中に負ぶったエミィをゆっくりと地面におろし、その場所を見渡す。
一本の樹木とまばらに生えた草。そして荒れた地面の中に乱雑に大小の石が転がっている。
「さーてと」
エミィはトコトコと歩くと何かを見定めながら進んでいく。
右下をチラリ、左下をチラリ。その視線は石達に注がれているようだ。
「あった、これこれ。ねえパル、これよ!」
エミィの呼びかけに応えてパルがその場所へと向かう。
「これが……」
エミィの足元にあるのは大きな石。エミィの身長の半分ほどの高さがあって横にも長い。
「そう。心霊石よ! 私が毎日霊力を与えた特別な石」
「へぇ。どんな風に特別なの?」
「えっ!? あ、その、持ってるだけでね、神様の加護とか……、その、水虫が治ったりとか、頭がよくなったりするのよ!」
(しまったぁぁぁ、もう少し設定を煮詰めておくべきだったぁぁぁ)
内心テンパっているエミィだが、なんとかそれなりの返答をしたと思っている。
「うーん、あんまり必要ない効能かなぁ。やっぱり石はいらないや。はい、これお金」
(どぉぉぉしてよ! ここまで来たら石と交換になるでしょ、普通は!)
「え、ええっと、それはちょっと良くなくって、お母さんに怒られちゃうから、そうだ、こっちの石はどう? 周りの人が健康になる石」
「おー、でもそれは受け取れないよ。病気のお母さんに使ってあげて」
(しまったぁぁぁ! 効能が逆手に出た。お母さんは病気って言う設定だった!)
「じゃ、じゃあ、こっち、えっと、持ってると周りの人が幸せになる石よ!」
(あああ、さっきと同じじゃない。私のバカバカバカ!)
「幸せに! いいねそれ。リリザ幸せになってくれるかな?」
(すごい食いついた! よし、押していくわよ)
「もちろんよ。その、リリザ、さん? 幸せになったら喜んでくれるよ」
「うん! そうだね! わかった。じゃあこれお金」
リリザのためだと即決したパルは、ずいっと革袋をエミィの前に出す。
(人って何が当たりか分からないものねぇ。あっと、そんなことより商売商売!)
「まいどあり~。じゃあ商品の受け渡しです」
「よっと!」
パルは地面に埋まっていた石を持ち上げて抱きかかえる。
多少大きいが顔が隠れるほどでもなく、このまま運んでいけそうだ。
「それじゃあエミィ! 病気のお母さんを大切にね! 早く元気になるといいね!」
「え、あ、うん」
眩しいほどの笑顔を向けられてエミィは返答に詰まってしまった。
(あ、だけど念を押しておかないと!)
「パル、いい? このお金はその心霊石を売ったお金だからね! 決してパルからだまし取ったお金じゃないからね! 聞かれたらしっかりとそう言うのよ?」
「わかったよ。それじゃあね!」
そういうとパルは来た道を引き返していった。
一人になったエミィはパルから受け取った革袋の中身を確かめて、にんまりと笑みを浮かべると、自分を待つ弟に久しぶりにおなか一杯食べてもらおうと、町中へと足を向けたのだった。
◆◆◆
さてさて。
私がお使いのために渡した一か月暮らせるほどの大金と、そこかしこに落ちてるような石を交換してきたと言うパル。
いくら女の子を助けたいからって、やりすぎではある。
まあその一途さがこの子のいいところなんだけどね。
とは言っても、あのお金は全財産と言ってもいい。
わずかに手元に残っているけど、あれが無いとこの先ご飯も食べれない。
なんとか女の子を見つけて返してもらわないといけないのだ。
そんな事情はパルにはナイショ。
子供にお金の心配はして欲しくないっていう親心?
まあそんな感じのわたくしリリザなのです。
「確かこのあたりに居たんだけど……」
えっちらおっちら歩いた先。たどり着いたのは海鮮市場。
パルが最初に女の事会ったという場所にはその子はいなかった。
「ここにもいない……」
無数の岩が埋まっている場所。パルが手に持っている大石を買ったという場所に来たけどそこにもいない。
ていうか、その石、やっぱりその辺に転がってる石じゃないのよ!
あてが無くなった私達。
仕方ないな、ということでスーパー暗黒魔術師お姉さんの能力の一端をチラ見せして、大石にわずかに残った女の子の魔力を追うことで居場所を突き止めることにした。
この世界の人間はだれしも大小様々な魔力を持っているんだけど、ほとんどの人の魔力は小さくてその力を感じることも出来ないの。そんなわずかな魔力にだって美少女お姉さんの魔術は有効なのよ。
歩くこと数分。
たどり着いたのは人気も少ない町はずれのボロボロになった一軒家。外壁は風化して今にも崩れ落ちそうな上、入口の扉は外れており、もはや扉としての用をなしていない。
入り口が開いているので中へとお邪魔してみたけど、女の子は愚か病気のお母さんの姿もなかった。




