25 光を放つ守護の盾 その6
「おいっ! 大丈夫か!」
もちろんパルは少女に駆け寄っていく。
そんな少女は誰にも見えないように小さく笑みを浮かべた。
「しっかりしろ!」
パルが少女を抱き起す。
少女は賭けに勝ったのだ。
「あ……す、すみません。母が病気で、お薬を買うために私は働きづめで、それに昨日からなにも食べてなくて……。どうか、お恵みを。いくらかお金をいただけないでしょうか」
なるべくしおらしく、儚く、力を入れると手折られてしまうような。そんな演技をする。
いつものことだ。善良そうな旅人を狙ってそうする。日々の糧を稼ぐために。
「お金? あ、これの事か。わかった、はい、これ」
「えっ!?」
少女は演技をするのも忘れて驚いた。
パルはお金がぎっしり詰まった革袋をそのまま渡してきたからだ。
まさかそうなるとは思わなかった。
扱いやすそうなカモだとは思った。だけど大人じゃないから、持っていても一食分のお金くらいだろうと思っていたからだ。
「ぜ、全部くれるの?」
「ん? うん。ごめんね。お金っていうのはそれだけしか持ってないんだ。病気のお母さんが元気になるには足りないかもしれないけど」
(冗談!? じゃ、ない……。この人は本気でそう言ってる。確かにカモだって思ったけど。だって、さっきも騎士とおっさんたちの争いに首を突っ込んだところを見ていたから。なんの得にもならないことをやるお節介だって知ってた。だからって、こんなに大金を渡して来るなんて……)
「あ、あの、ちょっとあっちまで来てくれる?」
ここでは目立つ。少女はそう思った。
私が旅人からお金をせしめていることは町の人には周知の事実だ。だけど、さすがにこれはよくない。こんな大金はよくない。
「あっ、おい。急に元気になったな」
少女はパルの手を引っ張って。パルは少女に手を引っ張られて。
そうやって二人連れだって市場の隅、裏手側の通りへとやってきた。
表通りの喧騒も裏まで来ると静かなものだ。
ここを利用するのは買い物を終えた客が少しでも早く市場を離れたい時か、表では都合が悪い話をする時か、だ。
「ねえ、お兄ちゃん、さっきの話だけど」
「ああ。お金だろ。ほら、持っていきなよ」
先ほどと同じ回答が返ってくる。
正直なところお金は欲しい。母が病気だというのは嘘だ。病気どころか母親自体いない。父親もいない。だけど弟が帰りを待っている。
(私が稼がないと弟にもひもじい思いをさせてしまう。そんなことは嫌だ)
だけどあまりにも大金だ。食事代にしては多すぎる。これだけの大金を旅人からせしめたとなると兵士に捕まってしまうかもしれない。
見合った対価。そう、何かを売れば、そうすれば言い訳もたつだろう。
少女は頭をフル回転させて考える。
「ね、ねえ。そんなに大金はタダではもらえないわ」
「気にしないで、困った女の子を助けるためなら簡単さ」
ノータイムでの返答。
パルにとっては女の子を助けるということは至上命令に等しいのだ。
パルのまっすぐな目を見て少女は悟る。これは断っても無理やり押し付けられるパターンだ、と。
(むむむ! こうなったら!)
「お薬代を稼ぐためにいつも心霊石を売ってるの。タダでお金をもらったらお母さんに怒られるわ。だから心霊石を買って欲しいの」
なんとか建て前を用意する。
前に路地裏でローブを着たおばあさんがやってる怪しい占いで似たような事を言われたことを思い出したからだ。
(自分でやってみるとよくわかるけど、すごく胡散臭い……)
だけどこの人ならそんなことは関係ないだろうという事は、すでに理解していた。
「うーん、そう言うんだったらしかたないね」
パルとしてはわずかに不満が残る。
そのままお金を受け取って欲しいのだが、そこまで言われると仕方がない、としぶしぶ了承する。
「じゃあこっちに来て。あ、そうだ私の名前はエミィ。お兄さんのお名前は?」
「ボクはパル。よろしくねエミィ」
パルはそう言うと、エミィをひょいッと持ち上げて自分の背中におぶった。
普段から満足に食事を取っていないエミィは軽く、小柄なのもあってパルの背にジャストフィットした。
「ちょ、ちょっと、何よ!」
「また倒れたら危ないからボクが連れて行ってあげるね。どこまで行ったらいい?」
(すごく恥ずかしい!)
エミィは顔を真っ赤にしている。思えば生まれてこの方、背負われた記憶などない。早くに死んだ母の背中はもとより、母が死ぬ原因となったクズ野郎の父の背中だって。
「エミィ? どっちに行ったらいい?」
「え、えっと、あっち!」
ドギマギしながら方向を指差す。
「よーし、任せろ!」
(早く終わって! 恥ずかしいよ!)
しばらくの間エミィは顔見知りに見られながらの羞恥プレイを行ったのだった。




