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24 光を放つ守護の盾 その5

「なんだこのガキ! お前も聖騎士か? って、こんなガキが聖騎士の訳ねえか」


 小さな乱入者。

 三人の中に割り込んだパルはこのなかでは一番背が低い。

 これはそんな姿を見た男の感想だった。


「事情はちょっとだけ聞こえた。ボロボロになった町とかたくさんの人が死んだとか。だけど、今のこの町の様子からは信じられない」


 女の子をいじめるための言いがかりだろ、と暗にほのめかしている。


「ああん? お前みたいなガキが知らないのも無理はねえ。あれはもう30年以上も前だからな」


「はい。私が生まれる前のことです。その時、聖騎士団は別の場所で大きな戦いをしていて、すぐにこの町に来ることが出来なかったって教わっています」


 町の男とホワニーの両者が補足説明を突っ込んでくる。

 もちろんホワニーに悪気は無い。ただ歴史を紹介しただけなのだ。


「このっ! それはお前たちの言い分だろ! 大方嘘で塗り固められた話だ!」


 興奮冷めやらぬ男はそのホワニーの説明にすら噛みついた。

 もはや目の前の女聖騎士が何を言ったとしても怒鳴り散らすだろう。


「おい、落ち着けって! だいたい分かった。だから聞くけど、そんなにも昔の話だ。この目の前の女の子があんたたちに何かしたっていうのか? この女の子があんたたちを見捨てたっていうのか?」


 今にもホワニーに掴みかかりそうな様子の男達に対して、その間に入ったパルは大きく手を上げてそれを左右にバタバタと振った。

 とにかく落ち着かせなくてはならない。いったん彼女から目を逸らさせて、クールダウンさせる意図だ。


「いや、そうじゃないが……」


 その効果は一定程度あった。


「だったら、怨みを忘れろとは言わないけど、その辺でこの女の子を許してあげて欲しい」


 男達の下からじっと見つめてくる緑の目。純粋に思いをぶつけてくるその瞳に男たちは毒気を抜かれたかのようにおとなしくなった。


「ううむ……、まあ、そうだな」


「お嬢ちゃんがやったわけじゃないもんな」


 男たちはお互いの顔を見合わせる。


「こんなところで時間をつぶしてるのも無駄だ。もういこうぜ」


「ああ。だけど気をつけな。年配になればなるほどその時の記憶を持ってる」


 激昂していた男たちは冷静になると、捨て台詞ならぬ捨てアドバイスを残してその場から去って行った。


 遠巻きにその様子をチラ見していた人々も、自分たちの日常へと帰っていく。


 残されたのはパルとホワニーの二人。


「あの、ありがとうございました。大人の私が子供のあなたに助けられるなんて」


「気にしなくていいよ。女の子を助けるのは当然だから。それじゃあボクも行くね」


 女の子を助けることが出来た。

 父との約束を今日も守ることが出来た。これからもずっとそうでありたい。

 心の中でこのような感情が混ざり合った満足感がパルを満たしている。


 そして当然のことをしただの少年は速やかに立ち去ろうとする。


「あ、あのっ! 私は聖騎士のホワニー・ルルベスと言います。あなたの名前を聞かせてもらってもよいでしょうか」


 ちょっと大きな声を出してしまった。衝動的に咄嗟に。

 直後、いきなり名前を聞くなんて失礼だろうか、という後悔の念が襲ってきた。


「ボクはパル。パルルク・フォーティナル・ギメニスだよ。それじゃあ!」


 振り返った少年は笑顔でそう言った。

 ホワニーの思いは杞憂だった。


 手を振って去っていくパルの後姿を見ながら、ホワニーはもっとしっかりしなくては、と気合を入れたのだった。


 そんな様子を路地裏から覗き見る影が一つ。

 パルが去っていくと同時に、その影もその場から消えてしまった。


 ◆◆◆


 パルは歩を進め海鮮市場に到着する。

 朝に獲れた新鮮な魚介類がいくつもの店舗で並んでいる。漁獲量の多くを占める魚、そしてカニやエビなどの甲殻類、ワカメやコンブなどの海藻類、時には大型の海生魔獣も仕留められて売り出される。


 森生まれ山育ちのパルにとって、これらの食材は初めて見る物ばかりだ。魚と言えば川にいる淡水魚。大きさもそれほどではないが、ここで並ぶものはその大きさをはるかに超える物が多い。


 リリザからはそれら海の幸を購入してくるように言われている。

 パルは手にもった革袋を上下に振ると、中でジャラリと鳴った。


 この中には『お金』というものが入っている。人間達はこの『お金』というものと交換で食べ物を買ったり宿屋に泊まったりするのだと教わった。

 それを使いこなす、というのがパルに与えられた今日のミッション。


「不思議だな。こんな子供の遊び道具みたいなものが食べ物と交換できるんだから」


 革袋の中から小さな金属片を取り出して眺めてみる。

 父や母と森で暮らしていた時代、それにオーガの集落で暮らしていた時代。どちらでも『お金』というものの存在を聞いたことが無い。自給自足か物々交換で成り立っていたからだ。


 ひとしきり貨幣を眺めたパルはそれを革袋にしまうと、何を交換してもらおうかと市場の物色に戻る。


 人々が忙しく行き交う通り。

 そんな中、パルの目の前にフラフラとおぼつかない足取りで歩く少女が現れた。


 年の頃は10歳くらい。桃色のミディアムボブの髪の毛をした可愛らしい少女。お世辞にも新しいとは言い難いくすんだ白いワンピースの服を着ている。


 パルがその少女を視界にとらえた時――


「あうっ」


 少女は小さなうめき声を上げてパルの前で倒れたのだ。

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