21 光を放つ守護の盾 その2
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「はぁ、もう。パルったら。デリカシーのかけらもないんだから」
革のブーツから足を抜く。
歩き詰めであり、中で蒸れていた足がそよ風に吹かれて心地よい涼を得る。
岩の上に座って素足をぶらんぶらんさせて足に風をあてながら、よく頑張ったご褒美だぞ、と太ももをねぎらう。
『匂うぞ』
パルの言葉が頭の中にフラッシュバックする。
「そんなに匂うかしら」
服のすそを鼻の前に持ってきてその匂いをスンスンと嗅いでみる。
「………」
無言になってしまった。
「そうね。洗濯大事ね。水浴びしましょ。私のせいじゃなくって、いきなり山の中に飛ばされたから最低限の文化的な生活もできなかったせいだし」
ぐるぐると首を回し辺りを見渡し、怪しい気配が無い事を確認すると、するするとローブを脱ぎ、下着を脱ぎ。ぽいぽいっと岩の上に投げ乗せる。
生まれたままの姿に気恥ずかしさを感じながら、森の中である解放感と混ざり合ったよくわからない感情を封印して、そばを流れる川へと足を向ける。
「ひゃっ、冷やっこい!」
そーっと足の先を水につけてみた所、思った以上に水温が低く驚いてしまった。
次は大丈夫。水の温度を覚えたから。
そしてゆっくりと水の中に入り、川の流れに足を任せる。
太ももの辺りまで水につかる場所に赴き、ばちゃばちゃと水で体を洗い始める。
――ガサッ
背後で物音がした。
獣か、いや違う。
「リリザ、服を洗濯するぞ?」
パルだ。あの子、私が脱ぎ散らかした服を手に持ってこっちの方にやってくるじゃない。
「ちょ、ちょ、ちょっと、パル! なんでこっちに来るの!?」
すぐさま見られてはいけない部分を腕で隠し、水の中へとしゃがみ込む。
「なんで、って言われても、川の水で洗濯するからだろ。不思議な事を言うね」
首をかしげながら足を進めるパル。
「ちょ、ちょっとまって、ここで洗わなくても、ほら、私のいない所で。そのもっと下のほうでさ」
「あまり離れ離れになると危険だろ。ボクの事は気にせずにリリザは体を洗っていなよ」
ってー、あの子なに言ってるの!?
弟分だからって家族の裸を見ていいわけじゃないんだからねっ!!
どうやら言っても聞かないようなので、こうなったら……力づくで排除するしかない!!
――ゴゴゴゴゴゴゴゴ
私が練る魔力が空気をも振動させる。
これは私の怒りの鼓動。
「お、おわっ、なんだ。え? リリザ、何を?」
「終の爆裂呪文。相手に着弾すると1080回爆発して対象を粉々に破壊する」
自分でも驚くほどの低い声が出た。
「ちょ、ちょっと待って、何を!」
「去れ、去るのだ。今はもう加減はできない。闇の竜、久遠の原野、高き尖塔」
「わ、わかった。せめて逃げる時間を、くださーい!」
背を向けて一目散に走り出すパル。
「もう遅い。もう遅いのよ、パルっ! グリカル、エルゴサル、マルトムーズ。響け破壊の音。その力もて全てを灰燼と化し原初の姿を示せ! 終の爆裂呪文!」
「ぐ、ぐわーっ!」
私の放った魔術が逃げるパルの足元に着弾し、その余波でパルは遠くへ飛ばされた。
「悪は、滅びた……」
空しい戦いだった。
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「おおーっ、パルったら手先が器用なのね」
私の魔法を身に受けて倒れたパルだったけど、そのあとちゃんと服を洗濯して乾かしてくれて、私が無理やり引きちぎった服の裾をこれ以上ほつれて痛まないようにと糸で縫い込んでくれたのだ。
パルは言わないけど、結構な自信作みたい。
糸の生み出した模様は繊細で、野暮ったかったローブがこれまでなかった高級感を醸し出している。
なんだかパルからのプレゼントをもらったようでうれしくなって、クルリとその場で一回転して見せる。
「きゃっ!」
それは失敗だった。
左右にスリットが入っているのだ。そんな服を着て回転すると前掛けと後ろ掛けみたいに分かれたスカートがふわりと浮かび上がるわけであって。
つまりそれは下着が見えちゃうわけで。
私はとっさにスカートを押さえたのだけど、顔が熱い。
顔が赤くなっているのだろうか。日に焼けた肌なので、どれだけ顔が赤くなっているかは分からないけど。
恥ずかしさを誤魔化すため、とりあえずパルを睨み付けておいた。
パルはなんだかよくわかっていない表情を浮かべているのがまた腹立たしい。
なので、幻覚を見せる魔術をかけておいた。
これで今の出来事は現実なのか夢だったのかがわからなくなってうやむやになるはず。
ごめんね、パル。




