20 光を放つ守護の盾 その1
私はリリザ。花も恥じらう18歳。
愛しの勇者様の元に戻るため健気に旅を続ける乙女なの。
「リリザー。それじゃあ言ってくるよー」
宿屋の窓から見下ろすと、パルが私に手を振っていた。
「はーい、いってらっしゃーい。気を付けていくのよー」
私がひらひらと手を振ると「任せといて!」と言って街中へと駆けて行った。
ここは港町レギーネ。
ドラゴンから子供たちを救ったララクサの町を出て北に向かった先のちょっと大きな町。
この国には南大陸と北大陸があって、私たちが今いるのが南大陸で勇者様がいるのが北大陸。二つの大陸の間には大河があって船に乗って進まないといけないの。
このレギーネは南大陸の最北端。北を大河に、西を海に面した港町なんだけど、パルったら海を見たことが無いっていうもんで、この町に寄れてちょうどよかったわ。
パル。
私と一緒に旅をしてくれる男の子。
転移魔法によって飛ばされた先、どことも知らない山の中。
私はそこでパルと出会った。
エルフのような魔力の流れを感じたけど、耳は尖ってなくて、エルフにしては体が大きな子。きれいな金色の髪の毛をしてるんだけど、乱雑に短く切っていてボサボサ。幼い顔立ちをしていて緑色の目はエルフにしてはパッチリとしていた。
私の見てきたエルフとちょっと違ったのは、パルはエルフとオーガの子だったから。
どういった事情でそうなったかは分からないけど、きっと情熱的な愛があったに違いない。
それはとっても素敵な事よ。
パルは12歳。お父さんお母さんと死に別れた後オーガの集落に連れてこられて、服従の呪いをかけられていたの。
そんな可哀そうなこと見てられなくって、ついつい助けちゃって、なんと一緒について来てくれることになりました。ばんざーい!
パルのお料理は絶品なんです。
最初に作ってくれたお魚はもちろんのこと、おっきな卵と干し肉をつかったオムレツみたいなのとか、何かの穀物の粉に乾燥した果物を入れて焼いたパンみたいなものとか、すっごく美味しいの。
パルは山育ちらしいので、海の食材も知って欲しいと思って、昨日はレストランに連れて行って海鮮三昧。料理は見て盗むんだよ、なんて言ってる漫画を読んだこともあるので、そういう作戦。
そして今日はパルの人間社会勉強を兼ねて一人でお使いに行ってもらった。
お金の使い方とか覚えてもらわないとね。
お使いの品というのはパルが料理で使えそうな海産物を見繕ってくる事。
これからの料理のレパートリーが増えるのは素敵な事よね。
と言うわけで一人になった私は宿でお昼寝します。
ぼふっとベッドにダイブする。
ごろんごろんと体を回転させているとき、ふと指先に触れたもの。私の一張羅の服。
トレメラスというS級の魔物の素材で編まれた魔術師用のローブ。着るだけで魔力を増幅してくれるという優れものと言うことで、着せられたもの。
ローブだから足元まであって、動きにくいったらありゃしない。
私の戦闘スタイルに合ってなかったので横の部分をびりびりと引き割いた時には結構怒られた。
そんなビリビリに破って無理やりスリットを作った一張羅。
だけど今は破った所からほつれていかない様にとステッチ縫いが施されている。
パルが縫ってくれたのだ。
それはパルと一緒にオーガの集落を出た後の事……。
◆◆◆
「リリザ、服を脱いでくれ」
「えっ?」
私は耳を疑ったわ。
まだ若いのに幻聴が聞こえたの? って。
「えっ、じゃなくて、服を脱いでくれ」
でも幻聴じゃなかった。
パルは真面目な顔をして私の服を脱がせようとしていたのだから。
「な、なななな、なにを言ってるの、パル!? いつからそんなに悪い子になったの!?」
「悪い子? よくわからないけど、いい機会だから。さあ早く」
えっと、いい機会? いい機会ってなに? いい雰囲気だってこと!?
「あの、あの、あのね。私、パルの事は可愛い弟のように思ってて、だからそういうのって良くないかなって。あ、でも家族ならお風呂に一緒に入るのはありで、って、じゃなくてね」
頭がぐるんぐるんしてきた!
ものすごく長い詠唱の呪文を唱えた時もこんな風にはならないのに!
「何を言ってるんだ? とりあえず洗濯するから服を脱いで。洗った後はその破った所を縫ってほつれないようにしておくから」
「せ、洗濯?」
「そうだよ。ついでにリリザも水浴びしてくるといい。歩きっぱなしなのに全く水浴びしていないからな。匂うぞ」
!?!?!?!?
!!!!!!!!
「ばっ、ばかーっ! いい? それも禁呪よ!」
バカ、パルのバカ、デリカシー無し!!
女の子に向かって何てことを言うのよ!!
「えっ!?」
えっ!? じゃないわよ。
なに、ボクが何か変なことを言ったの? みたいな顔は!
え、なになになに、なんでその顔のまま近づいてくるわけ!?
私、匂うんでしょ!?
「ちょっと、こっちに来ないでよ!」
近づかれたら匂い嗅がれちゃうじゃない!
なんで近寄ってくるの!?
「いや、服を」
服を、じゃなぁぁぁぁい!
「いやぁぁぁぁぁ!」
パルに自分の匂いをかがれるかと思うと、叫びながら逃げ出すしかなかった。
「後で取りに行くから脱いでおいておいてよねー」
後ろからのんきなパルの声が聞こえてきた。
なんだかカチンときたので、後で記憶を汚染して忘れてもらおうと決意した。




