16 ついて行くヒトを間違った? その4
そうだ。
泣き言を言ってボクがリリザの邪魔をするわけにはいかない。
ボクは無言で首を縦に振ると、リリザは再び正面に向き直る。
「ターゲット補足! 無事、とは言い難いかな……」
この風の音の中、不思議とリリザの声はクリアにボクの耳に入ってくる。
「パルっ! 突っ込むよ! 歯、食いしばって、舌かまないようにね!」
「えっ?」
何とか単語は理解できた、と言うところで――
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
箒はさらに加速し、まるで矢のようなスピードで山へと突っ込んだのだ。
みるみるうちに大きくなっていく木々、迫る地面!
このまま進んだら地面に激突して死んでしまう。
リリザは何を考えているんだ!? と思った所で到着点の様子を理解できた。
木ほどの高さがある大きなミミズのような虫。茶色のそれに囲まれている生き物が2体。
おそらくあれが山に入った人間の子供。今にもミミズたちに食いつかれそうになっている!
「超加速!!」
瞬間、箒の速度が一段階も二段階も上がって、ヤバい、と思う間もなく、視界いっぱいに地面が広がって――
――ドウッ!
箒は地面ではなく大ミミズにぶつかってそれを弾き飛ばし、都合よく反動で勢いを相殺して止まったのだ。
ボクは反動で箒から放り出されてゴロゴロ転がって……顔を上げた先には、どでかいミミズの姿があった。
「どうやら間に合ったようね。ボウヤたち、けがはな~い?」
幸いボクの近くにいたミミズはボクには興味が無いようで、獲物だった子供たちの方に視線を向けている。
もちろんその先にリリザもいる。
地面に座り込んでぽかんとした表情でリリザを見上げる子供たち。
無理もない。今まさに食べられる寸前の大ピンチ、と言う所で突如空から現れたのだ。
何が起こったのか理解に時間を要するのも無理はないというもの。
「ほ~ら、スマイルスマイル。お姉さんが助けに来たわよ」
ニコリと笑顔を作って見せるリリザ。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん! 怖かったよぉぉぉぉぉぉ!」
突如現れた救世主。ようやくその存在を理解できたのか、二人はリリザへと抱き着く。
リリザも腰を落とし、二人の高さに合わせると左右両腕で二人を抱きしめる。
「よしよし、お姉さんが来たからもう大丈夫だからね」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
リリザの抱擁によって緊張していたものがはじけたのだろう。二人は再び大声で泣き出した。
「リリザ!」
間一髪と言うところで間に合ったけど、危機を脱したわけじゃない。
ボクたちは依然、数十もの巨大ミミズに囲まれていて……それらは頭部らしい場所にある口のようなものから鋭い棘のような歯を出して、新たな獲物であるボクらに狙いを定めたところだ。
「うん。パル、この子たちをお願いできる?」
「分かった」
正直ボクは戦力外。このミミズを倒すには力不足だろう。だからせめてリリザの邪魔にならないように、リリザが安心して戦えるようにするだけだ。
ボクはミミズの横を縫って駆け抜け、リリザの元へ向かう。
「さあ坊やたち、お姉さんはちょーっと忙しくなるけど、あのお兄ちゃんと一緒にお姉さんが大活躍する所、見ておいてくれるかしら?」
「うん」
「わかった」
じっと目を見つめられた子供たちは素直にそううなづく。
「いい子ね。素直な子はお姉さん、好きよ?」
そう言うとリリザは立ち上がる。
入れ替わるようにボクが到着し、二人をカバーする態勢に入る。
山に入った子供たちはこのミミズから逃げて逃げて、この場所で行き止まりに突き当たって囲まれたのだろう。
ボク達の後方は高い壁のようになっているため逃げ場はないが、後ろにミミズはいない。
それ故、前方、左右の三方向だけに注意を払えばよい。
――グギャオォォォ
ミミズって鳴くんだ。
新しい発見だな、などと思っている隙に、ミミズたちは一斉にリリザへと襲い掛かった。
唾液にまみれた棘棘のいびつな歯。
そいつでリリザを押しつぶしてミンチにして食べようという魂胆なのか、力任せに口のある頭部を振り下ろしてくる。
「お姉ちゃん!」
子供たちが声を上げた。
だけどな子供たち。リリザはそんな攻撃でやられたりはしないんだぞ。
迫る棘牙を華麗な身のこなしで横へと回避すると、ちょうどいい高さに迫ったミミズの横っ面に対して、回転する力を加えたその長い脚での蹴りを叩きこむ。
人間であるはずのあの足にどれだけの力が込められているんだ、といわんばかりに蹴られたミミズは横へと吹っ飛び、同じく襲い掛かってきていた別のミミズにぶち当たる。
一斉に襲い掛かってきたと言ってもミミズたちに連携する知恵は無いようで、わずかな時間差が生じている。
そこを見逃すリリザではなく、あるミミズは同じく横っ面に、あるミミズはこの前のオーガのグラムドと同じように脳天に、またあるミミズは顔の顎に当たる部分を蹴り上げられて空を舞う。
「うわぁ、すげー、カッコいい!!」
そんな様子を目をキラキラさせながら見ている子供たち。
そうだろう、そうだろう。ボクもそう思う。
戦ってるリリザの姿はカッコいいのだ。
「あっ! お姉ちゃん、後ろ!」
たまたまダメージが浅かったのか、落ち葉のクッションに救われたのか、一体のミミズが起き上がると、リリザに向けてその口から体液を吐き出した。




