13 ついて行くヒトを間違った? その1
「決まっているわ! 勇者様のところよ!」
こう答えたのは、ボクにかけられていた呪いを解いてオーガ達から救い出してくれた人。
ボクよりも年上の人間の女。
褐色の肌に黒く長い髪の毛。長い髪は激しく動くと邪魔になるからなのか後ろで束ねていて、先端はくるんと巻いている。
くりくりとした大きな目は黒く、見つめられると吸い込まれそうな感じがする。
背はボクよりもちょっと高い、けど男のオーガよりは小さい。
手足はスラリと長くて、そこから繰り出される体術はオーガの戦士をも圧倒する。
もっさりとした黒くて深い緑色のローブを着ているが、胸元は広く切れ込みが入って開いているし、太ももの横辺りは動きやすくするためか引きちぎったように下から腰のあたりまでスリットが入っている。
オーガは動きを重視するためわりかし薄着を好むんだけど、人間の服装はよくわからない。そういえばエルフだった父さんは厚着で暑い日でもブーツから手袋まで身に着けていたな。
そんな彼女の名前はリリザ。
山の中で空腹で倒れて動けなくなっていた所をボクが助けた。
まあその後ボクが助けられたんだけど、助けたり助けられたりしてるからおあいこだな。
リリザ曰く、ゆーしゃ様の元に戻るために長い長い旅をするんだって。
そのゆーしゃ様というのはリリザの想い人で、事故によって離れ離れになってしまったらしい。ゆーしゃ様がいるのは北のはるか遠くのさらに遠く。目的地はそこだということだ。
ボクは別に目的地がどこでもいい。オーガの集落から外に出れることが嬉しいし、何よりボクを助け出してくれたリリザに恩を返したいという思いもある。
リリザが行きたいというならば素直に着いて行くだけだ。
とまあ、恩義を感じるすごい人間であることはあるんだけど、一緒に旅するといろいろな側面も見えてくるわけで……。
オーガの集落を出てから数日。
ボクはリリザのいろんなところを知ってしまった。
それを今からご説明しようかと思う……。
◆◆◆
「ぱ~る~、つかれたー。おんぶー」
オーガの集落を出てからほんの数十分のことだった。
「ぱーるー、ねぇ、聞いてるのー?」
甘えた声を出してリリザが休憩をねだってくる。
「だめだ」
ボクは無慈悲にもそう答えるのだが――
「でーもー、つかれたったらつかれたー。もう歩けないー」
「さっき休憩したところじゃないか」
「さっきはさっきよ。私はもうつかれたのー。どーん」
「ぐえっ、こ、こら、乗るな、覆いかぶさるな!」
ボクの体に急に負荷がかかる。
後ろからリリザに乗っかられたからだ。
「はっしーん!」
「ぐぐぐ、発進じゃない。お、おもい!」
「なっ! パル!? 今、なんて?」
「い、いいから、どいてくれ。重い、首が、し、まる……」
ちょうどうまい具合にリリザの腕が首に入って……
「大事な事よ。今、パルは禁呪に指定されている言葉を言ったような気がします」
い、いしき、が……
視界が……暗く、なっていく……
も……う、……だめ……だ…………
「ちょっと、パル、聞いてるの? って、え、パル!? ぱーるー!」
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うーん……。
なぜボクは地面に倒れているのだろうか。
しかも背負い袋を背負ったままで。
背負い袋の中には沢山の物が詰まっている。長旅に必要な食料から寝具から医薬品まで。全てがオーガの集落から持ち出したものだ。なのでとても重い。一度倒れて地面に置いてしまうと体勢を整えてからでなくては持ち上げることはできない程に。
「あ、パル。目が覚めたのね。お姉さん心配したのよ。てへっ」
近くの岩の上で膝を抱えて座っているリリザの姿が目に入る。
彼女はペロリと舌を出して謝罪するが、どういうことか、あまり誠意は感じられない。
「ねえ、パル? どうしたの? じーっとこっちを見て。あ、もしかして記憶喪失? 私の事わかる? リリザよ。あなたのママなの」
「誰がママだ、誰が」
「記憶は大丈夫そうね。よかった」
そう言うとリリザはストンと岩の上から降りてこちらに向かってくる。
「記憶は大丈夫だけど、体が……特に首の辺りが痛い。だれかさんが絞めるから」
「ごめんね。だって歩き疲れたのよ」
「はぁ、歩き疲れたって言ったってね、リリザは何も持ってないよね。ボクが荷物をぜーんぶ持ってるんだから」
そう、旅の荷物は全部ボクが持っている。
まあこれはボクが言い出したことなんだけどね。父の教え、女の子には優しくする、を実践しているのだ。
「で、でもね、何も持ってなくても疲れるのよ。そう、ここよ、ここ。パルには無いかもしれないけど、胸が重いのよ!」
などと胸を揺らして見せるリリザ。
確かに筋肉質の女オーガの胸部と比べると膨らんでいて、いささか重そうには見える。
「なるほど……それでリリザは重かったのか」
「なっ! パル! それは禁呪です。
いい? 女の子に向かって重いとか言ったらだめなのよ!」
「えっ!? でも今自分から言った!」
「自分で言うのはいいの。男の子が言うと死んでしまうのよ」
「うっ、そ、そうなのか?」
ずいっと迫られた上に有無を言わせぬ圧を感じたため、ボクは及び腰になる。
「そうなの。いい? 次は無いわよ?」
「う、うん」
よくわからないが女の子に重いと言ってはいけないらしい。とりあえず気を付けることにしよう。
「さーて、しゅっぱーつ!」
どうやらボクが倒れている間に十分休憩したようだ。
リリザは気合と意気込みを込めてそう言うと、たったかたっと一人進みだした。




