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01 不思議なニンゲンに拾われて その1

ボクは夢でも見ているのか……。


「うおぉぉぉ、殺せ、殺せぇぇぇ!」

「女なんかに、たかが人間なんかに舐められてるんじゃねえぞ!」


怒号が飛び交う。

ボクの視線の先には一人の人間の女がいる。そしてそれを取り囲むように屈強なオーガの戦士たちが陣取っている。


「覚悟しろよぉ、おんなぁぁぁ」


「あら、あなたも口だけなのかしら?」


「お前、死んだぞ、死んだ、いや、今から殺すっ!」


 言い終わらない前にオーガの男が女に飛び掛かる。

 オーガの手には何も握られてはいない。戦いとなればオーガ族は重量のある棍棒を好んで利用するのだが今は違う。


 今はただの狩り。


 彼らはあの女を捕らえて屈服させ、泣いて許しを請うところを見たいのだ。

 そう、ただの狩りだったはずなのだ。


 数ある生物の中でも身体能力が並外れて高いオーガ種。武器など持たなくとも他種族に後れを取るはずがない。ましては貧弱な人間の、それも女であればなおの事だ。


 そのすぐれた身体能力の一つである体のバネを最大限に利用し、男は一足飛びで女へと襲い掛かる。

 はちきれんほどに膨らんだ腕の筋肉。丸太のようなそれが女に当たりでもしたら、野花の茎が折れるように簡単に体は砕けてしまうだろう。

 そんなことをしては彼らの目的は達成できないはずだが、すでに周囲の雰囲気は当初の目的を流し去るには十分だった。


 怒気と殺気を向けられた女。

 通常ならそれだけでひるんでしまい、体がすくんで身動きが取れなくなるだろう。

 しかし女はそんな様子もなく、「ふぅっ」っと軽く一息を吐き出しただけだった。


「砕け散れぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 頭に血が上ったオーガが見境なく放った右手の一撃。

 卵からかえったばかりのヒナ鳥が鋭いオオカミの牙に噛み千切られてしまう。まさにそんな瞬間だった。


「ぬぅ!? き、消えただと?」


 ボクも自分の目を疑った。

 細切れの肉片、ミンチになるはずだった脆弱な生き物はその場所にはいなかった。


「ここよ」


 すぐさま声のした方へと視線を向ける。

 攻撃を仕掛けたオーガの直上真後。


 そこに彼女はいた。


 黒に近い深い緑色をした丈の長いスカート。腰のあたりから破れたように入ったスリットから日に焼けた褐色の長い脚がチラリと見えた。


「げぶぅぅぅぅぅぅぅ!」


 襲い掛かったオーガはその存在を確認する前に、後頭部を足蹴にされてそのまま地面へ倒れ伏した。


 ストンと地面に着地する女。

 長く伸ばした黒い髪がふわりと浮き上がる。


「ほら、どうしたのよ。私をヒイヒイ言わせるんじゃなかったの?」


 その足元にはすでに4人のオーガの男たちが倒れている。


「それとも何? あなたたち、力自慢っていう割に、実は女の子にも勝てないなさけな~い種族なのかしら」


 首元が広く開いているローブ。女は挑発するように、掌をパタパタと動かし自らの大きな胸へとわずかな風を送る。


「この人間がぁぁぁぁ!」

「ぶち殺せ! 肉片は家畜の餌だ!」

「そのすました顔をぐちゃぐちゃに引き割いてやる!」


 安い挑発だが効果はてきめんだった。

 オーガ種であるプライド、自らより劣る人間種の、それも力に勝る男ではなく脆弱なはずの女。そんな存在に馬鹿にされたのだ。


 周りを囲んでいた15人ほどのオーガが一斉に飛び掛かった。


「はい、ご苦労様」


 そこからの光景は目を疑うものだった。

 するりと初撃を交わすと、すれ違いざまにこめかみに一撃を入れ、倒れこんでくるオーガをまたするりとかわして腹に膝を入れ……。

 目で追えたのはそこまでで、あとはバタバタとオーガたちが倒れ、吹っ飛び……。


 そして最後まで女は立っていた。

 半端者のボクと違って完全で屈強なオーガの男たちを、この女は一人で殲滅したのだ。


「ボクは夢でも見ているのか……」


 ポツリと漏らした言葉。聞こえたのか聞こえなかったのか。女はにいっと笑みを浮かべた。


 いったいどうしてこうなったのか。なぜ彼女はオーガ達をぼっこぼこにするのか。

 それは数時間ほど前に遡る……。


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