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4話 こうなったら・・・

親父が呆気に取られた顔で、俺たちを見渡している。

そうや、俺たちは親父の生命保険金を使ってしまった。

受け取ってすぐに、すっきりすっかり全部まるごと。


南国特有のエメラルドグリーンの海に囲まれて、

ど派手なムームーを着て華やかなレイを首に巻き、

ジャパニーズオノボリサンまるだしで踊りまくった。

飛行機はファーストクラス、超高級ホテルにリムジンで乗りつけ、

豪華な料理に舌鼓を打った。

この期に及んでも残りものを持ち帰ろうとするお袋を制して、

俺たちは地球環境の事も、今、この瞬間も飢えて亡くなっていく

普段はちまちまと募金を送り続けている子ども達の事もしばし忘れて、

無駄に料理を注文しまくった。

温水プールで泳ぎ、ジャグジー風呂を楽しみ、

マッサージと女性陣はエステも受けた。

「顔が半分になったみたいや」

半分になったところで人の二倍はあるお袋が、

嬉しそうに頬を叩いた。

妊娠後期に入り、あちこち痛がっていた美幸は、

マッサージが気持ち良かったと、

マタニティーブルーもどこへやら、始終ご機嫌だった。

とにかく俺たちは、生涯初めてで二度とないぐらいの

ぜいたくをわずか10日間で味わいつくしたのだ。


「なんやねん、それは」

そこまで聞いた親父が、脱力した声を出した。

なんやねん、それは、が正しい。

確かにあの頃の俺たちは完全にどうかしていたと思う。


お袋は青ざめた、泣きそうな顔で親父を見た。

「どないしよ」

親父はがくっと首をうなだれ、肩を落とした。

美幸が俺をつつく。

「お父さん、落ち込んだはるやん」

そんな事、わかってるて。

「こうなったら…」

お袋がうつろな目をしている。

みんなの視線がお袋に集まった。

「こうなったからには…ほんまに死んでもらうしか、あれへんな」

美幸が慌ててお袋をゆさぶった。

「お母さん、何言うたはるんですか!」

親父がゆっくりと立ち上がった。

俺と美幸は両側から親父の足を掴んだ。

親父はその手を振り払い、大きなため息を残して茶の間を後にした。

「ちょ、ちょっとお父さん!」

美幸は慌てて立ち上がろうとするが、思うように動けない。

「もう、隆志!お父さん、出てってしもたやん。はよ、追いかけんと」

お袋はぶつぶつ言いながら、部屋の中を歩き回りだしている。

このままお袋を放ってはおけないし、

俺は頭の中がごちゃごちゃになって、一瞬気が飛んだ。

「もう!隆志の阿呆!」

ようやく立ち上がった美幸がさっきの親父と同じように俺の頭をはたいた。

お袋はどこからか電卓を持ち出して、なにやらせっせとたたき出している。

美幸がわざとドタドタ足音を立てながら、

茶の間から出て行った。

俺だけが何をすればいいのかわからない。

あかん、こんな男やったんか、俺は!

珍しくネガティブに落ち込んだ。

って、落ち込んでる場合やないのに。


ありがとうございました。

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