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3話 えらいこっちゃ!

「誰や…俺を殺した奴は」

自分の遺影が飾られた仏壇の前で親父が口を尖らせている。

「誰や…って言われてもなあ」

すっかり落ち着きを取り戻したお袋が苦笑いをしながら、

俺を見た。

俺?俺か?って、俺じゃねえし。

「警察が来てな、アパートが火事になったって言わはってな」

「火事?」

「全焼したから、遺体も遺品も炭になってしもたみたいやって、言わはってな」

「そんな、ええかげんな事…信じるお前もお前や」

美幸がお盆にお茶を4つのせて入ってきた。

卓袱台の上にお茶が配られると、なんとなくそれぞれ

茶碗の前に座った。

「あのアパートは引き払ったんや」

「聞いてませんでしたわ」

お袋がお茶を一口飲んで、親父をちらっと横目で見る。

「まあ、いろいろ事情があるんや」

動揺を隠すように親父は声を荒げた。

負けじとお袋も言い返す。

「ちゃんと大家さんにも確認しました」

「あの大家はボケとんねん」

「そしたら今までどこにいたはったんですか?」

「それは…そう、そうだ、そうやろ」

親父の視線が俺に来る。

知らんてそんなん。

俺が視線をそむけた途端、親父が逆切れした。

「亭主が死んだかどうかも、わからんのか!」

それはムチャクチャというもんだ。

俺と美幸は顔を見合せてため息をついた。

美幸がにっこり笑って、口を開く。

「無事に帰ってきはったんやし、一件落着、めでたしめでたしって

事ですねえ」

お袋が天を仰いだ。

「阿呆か」

お袋は座りなおして俺と美幸に向き合った。

珍しく真剣な表情で、頬の肉をプルプル震わせる。

「何がめでたしめでたしや。三ヶ月も前に葬式までしてしもたんやで」

美幸は小首を傾げている。

「今更、実は生きていました・・なんて言えるかいな」

お袋が親父を見た。

「な、なんや?それは。俺が帰ってきたら、迷惑やって言うんか?え!」

親父もムキになって口調を荒げる。

お袋はまたお茶を飲んで、今度は親父に向き直った。

「ほな、言わしてもらいますけど、葬式に来てくれた人に、なんて言うてまわるつもりなんですか?」

「別に何も言わんでええやろ」

「香典もぎょうさんもろてますけど」

「返せばええやろ…使うてしもうたんか!?」

「葬式代、いくらかかったと思ったはるんやか」

お袋がさらっと言い返してから、はっと目を見開いた。

「えらいこっちゃ!それどころやあれへん」

「なんや!?まだなんかあるんか?」

お袋はおもむろに立ち上がって、おろおろしはじめた。

「大変や!うちら、詐欺師になってしまうで」

俺と美幸はわけがわからずお袋を見た。

お袋はズボンからはみ出した腹の肉をポンポンと叩いて、

見開いた目を俺たちに向けた。

「保険金、全部使ってしもうたやんか」


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