五
「あら、誰かと思ったら私をこんな場所に追いやった冷酷な妹じゃない。」
「自業自得です。」
塔に入ってもルッコラは変わりません。
ああ、でも多少痩せましたわね。
胸部の贅肉が二回り程減っています。
「お父様、目を覚まして下さい。私はレスターニサに謀られたのです。」
「そうか。ならばレスターニサの方が賢かっただけの事。」
「そんな…。」
陛下はルッコラと話す気が無くなったのかルッコラからは見えない扉の陰に隠れました。
ルッコラは行ってしまったと勘違いしたのか必死に陛下を呼び止めています。
「ああ…貴女のせいよ!せっかくここから出られると思ったのかにっ!!」
「出られる訳が無いでしょう。
そんな事より聞きたい事があります。」
「答えたくないわ。」
そう言うと思いましたわ。
けれどきちんと答えていただかなくては困るのです。
「貴女、アニイドフ国とアルフレッド殿下に何をしましたの?」
「アニイドフ…ああ、そう。やっと気がついたのね!
いい気味だわ!再会したら初恋の王子に嫌われているのはどんな気持ち?
あははっ!ねぇ何て言われたの?」
「やっぱり…何かしたのですね。アルフレッド殿下は聡明な方ですので私が傷つく事は言われません。」
「はあ?何それ。もっと虐めておくべきだったわね。
じゃあ噂を耳にしたからココに来たのね。貴女が初恋を成就させないようにしたのは正解だったみたい。」
本当に性格が悪い…。
私は何故アルフレッド様への気持ちを隠さなかったのかしら。悔やみきれません。
「この国から出た事がない貴女に何故そんな事が…。」
「ふふふっ。教えてほいの~?仕方ないわね。」
レスターニサ、我慢です。
貴女は我慢が出来る子ですよ。
手を出してはいけません。
「私は宝石やアクセサリーを求めただけよ。“妹姫の為に”ってね。まあ、持ってきた品は全て気に入らないと言われたからと返してるけれどね。」
なんて事を!
これは外交問題ですわ。
アニイドフ国から抗議の手紙が来なかった事が奇跡です。
もっときちんとルッコラの行動を監視しておくべきでした。
「良かったですわね。今の言葉で貴女は更なる地獄がみられますわよ。」
「地獄?意味がわからな……お、お父様?!まだ居らしたのですか!!」
本当にお馬鹿さん。
遠ざかる足音なんて聞こえていなかったでしょうに。
陛下がルッコラに姿を見せたのは恐怖をあたえる為、何も言わずに立ち去っていくのが証拠ですわ。
私もこの様な場所に長居したくありませんし陛下に続きましょう。
ああ……耳が痛い。
早くあの口塞いでくれないかしら。
「アレがあそこまで愚かだったとは…。」
塔から戻ってきて私と陛下は憂鬱な気分でお茶を飲んでいました。
お見合いの前に謝罪が必要になりましたもの。
けれど不思議ですわ。
「アニイドフ国からの抗議がないどころか私とのお見合いを前向きに検討していただいている……これはどういう事でしょうか。」
「ふむ…外交はカタピオに多くを任せておる。ここに呼ぼう。」
陛下が呼び出してからカタピオ兄様は直ぐに部屋に来ました。
早すぎて側で待機していたのではと思う程です。
ルッコラのアニイドフ国への行いについてお話するとカタピオ兄様に驚いた様子は無く、やはり以前からご存知だったようです。
「報告せず申し訳ありません。対処はしていました。」
「良い。必要ないと判断したのであろう。詳細を話しなさい。」
「はい。八年前の話です。
市場と市民生活の勉強の為に身分を隠して商人に弟子入りしていた私は“第一王女が妹姫の為にアニイドフ国の商人を探している”という情報を耳にしました。
ルッコラがレスターニサを好いていないのは分かっていましたが、心境の変化かもしれないので私はアニイドフ国の商人を探し協力をしてもらいました。
ルッコラは見せられた装飾品に文句をつけながらも金の腕輪を購入し、また来るように言いました。
そして次に行くと、嘘泣きをしながら趣味じゃないと叩き返されたと話し腕輪を返して今度は指環を購入しました。
私はルッコラが返した腕輪と数点の装飾品を購入すると次から商人と偽り別人を連れてルッコラに会い問題にならないよう対処していました。
まあこの五年は購入すらせずに見せて文句を言われ帰されるの繰り返しですが。
この件で購入した装飾品は購入価格より上乗せして売却してます。」
流石カタピオ兄様ですわ。
当時は十一歳のはずですのに聡明すぎます。
「一応協力をしてもらった商人には口止めをしていたのですが、ルッコラの侍女にアニイドフ国の者と交流がある者がいたようで…。」
「あのような噂が広まった、と。」
「はい。すまないレスターニサ。」
「カタピオ兄様…。悪いのはルッコラです。兄様に心労をかけてしまい申し訳ございません。」
「可愛い妹の為だからね。」
カタピオ兄様は本当にお優しいですわ。まあ、害的以外にはですけれども。
それにしても……アルフレッド様は何処に行かれたのかしら。
「あ、そうだった。レスターニサ、婆やが明日旅立つから最後に挨拶したいって言っていたよ。」
「そうですか…婆やは明日……。今から行ったら迷惑でしょうか。」
「今日は予定は無いって言っていたから大丈夫じゃないかな。」
婆やは幼い頃から私とカタピオ兄様を見守ってくれていた大切な存在です。
少し厄介な病を患ってしまい腕利きの医者の元で治療をする為に国を出る事になっていました。
暫く会えないのは寂しいですが婆やには元気になってもらいたいです。
今から会いに行きます。