二
夕食はできるだけ皆で一緒にとる。
このルールは王族らしくはないけれど私はとても好きです。
陛下と王妃もこの時ばかりは少しだけ表の顔をお休みして下さいますし、カタピオ兄様も普段より険しい顔をしていません。
ルッコラがいるのは残念ですが、私の大切な時間。
なのに、ルッコラはそれを壊しにきます。
「レスターニサ、本日の夕食は貴女の好きな物ばかりよ。私がわざわざ指示してあげたんだから残さず食べなさい。」
「わざわざ…ねぇ。」
「ええそうよ。光栄に思いなさい。さぁ早く口に運びなさい。」
「本当に品の無い…。ではいただきましょう。」
私は陛下と王妃に目配せをした後、目の前にあるスープを口に運びました。
カタピオ兄様が心配そうに私を見つめています。
滑らかな舌触りと程よい甘さが口に広がりとても美味しいポタージュです。
しかし醜い笑顔を浮かべるルッコラが台無しにしています。
「ふふふ…食べたわね。」
「ええ、とても美味しゅうございますわ。」
「あはは馬鹿な子。さぁ私も食べましょ。」
馬鹿な子ねぇ…それはどちらかしら。
ああ品の無い食べ方。
アレが王族だなんて嘆かわしい。
食べ進めていきラストのデザートが出された頃、ルッコラは辛そうに顔を歪め始めました。
「な、何かしら…舌がピリピリ…。」
「あら、どうしたのですか?顔色が悪いわ。」
「な、何でもないわ。」
「あらそうですか?
そうそう、本日の夕方に夕食準備中の厨房で怪しい侍女がウロウロしていたのですって。
直ぐに騎士に尋問させたのですが、何でも私から私の夕食に使うようスパイスを預かってきたと言ったそうです。
私はそんな指示出していません。
侍女の身元を確認したら第一王女付きの侍女である事が分かりましたが、特別なスパイスはいかがでしたか?」
「な、なんですって?!」
ルッコラは真っ青になりながら立ち上がり立ち去ろうとします。
しかし、それは騎士によって阻まれてしまいルッコラは半狂乱。
「退きなさい!私の邪魔をするな!!」
「なんだ、落ち着きの無い。もうすぐ食事も終わる。席につきなさい。」
「お、お父様!お願いです!部屋に戻らせて下さい!!気分が悪いのです!!!」
「元気なように見えるが…のう、王妃よ。」
「そうですわね。ルッコラ、早くお座りなさい。」
「そんな…。」
ついに泣き始めたルッコラを無視して私達は食事を続けます。
ようやく食事が終わる頃にはルッコラは酷い顔でへたりこんでいました。
「さて、食事も終わった。ルッコラよ、何をそんなに取り乱す事があったのか話そうではないか。」
「そ…その前に早く部屋に…。」
「ならん。」
「どうして!」
「己の罪を告白するまでこの部屋からは出さん。」
「罪?そのようなものありません。」
「ほぅ…妹姫に毒を盛ろうとするのは罪にならないと?」
「っ…!」
何で?みたいな顔をしていますが何故バレないと思ったのでしょう。
頭が足りませんわ。
「そ、そんな事は…。」
「証拠は出ておる。言い逃れはできん。」
「ど、毒を盛られたのは私です!私はレスターニサに殺されかけております!!」
「王妃よ、実に懐かしいやり取りと思わんか。」
「まったくです。…側妃と同じ事をするとは……恐ろしいものですわ。」
まさか母娘二代でなんて…側妃はルッコラを産んですぐ幽閉されたと聞きましたがそんな理由だったなんて初耳です。
「早く、早く私に解毒剤を!死んでしまいます!!」
「何の毒か分からぬのに解毒薬など直ぐに用意はできまい。」
「では私を早く自室に!自室に戻して下さいっ!!」
ああ…なんて見苦しい。
半分自供しているようなものですのに気がついていないのかしら。
「何を勘違いしているのか知りませんが、貴女の食事に毒など入っていないでしょう。
私は“特別なスパイスはいかがでしたか?”と言っただけです。
貴女の食事に使ったスパイスは私が用意したのだから特別でしょう。
貴女の用意した毒はここにありますわ。」
私は毒と思われる粉が入った小瓶をテーブルの上に置きました。
それを見たルッコラの顔は泣き顔から鬼の形相に変わり顔は真っ赤。
本日、お馬鹿な人ですわ。
「このっ!第二王女の分際で私を騙すとかありえないわ!!あんたなんて泣いて私に許しを乞っていれば良いのよ。」
「口を慎んでください。聞くに耐えませんわ。この場でそのような事が言えるのは褒めてあげますけれど…。」
ハッとして振り返ってももう遅いですわ。
あんな怖い顔をした陛下達は初めて見ました。
「地下牢に連れて行け。」
ああ、これでやっと悩みの種も無くなりました。
これからは恋しい貴方を全力で射止めにいけます。
待っていて下さいませ!