十
「ここが婆やの言っていた薬屋…。」
薬屋から少し距離をとり馬車を停車させた私は薬屋の扉の前までゆっくり歩きました。
ココにアルフレッド様が求婚した娘がいる…。
見たところ婆やの家よりも小さいようです。護衛は扉の前で待たせて入らなければ狭いわね。
とりあえずキャロットに扉を開けてもらうと、ツーンとした薬品の匂いが鼻をつき私は歪む顔を扇で隠しました。
「こんな馬小屋みたいな場所に本当にいるのかしら……。」
仮にもアルフレッド様のお眼鏡にかなう者。
薬屋という事は身分が無い者なのでしょうけれど、ある程度身なりは良いはず。この様に小さな店に?
考えていても仕方が無いので私は店の中に歩を進める事にしました。
すると足にむにゅりと柔らかい感覚が……。
「あ…。」
「「「あ?」」」
「アルフレッド様~!!!」
嘘ですっ!何故アルフレッド様がこのようなところに?!
わ、私いまアルフレッド様を踏んでしまいましたの?!
意識も無いご様子。よく見るとお怪我が…。
「貴女達がアルフレッド様をこんな姿にしたのね!なんて人達。」
「貴女様は…。」
「私はアルフレッド様の婚約者にしてキャッサバ国の第二王女、レスタニーサよ!」
「「「婚約者…。」」」
あ…身分を明かすつもりは無かったのに言ってしまいましたわ。
しかも婚約者だなんてまだ違いますのに…。
これではアルフレッド様が求婚した娘が萎縮し見極める事が難しくなってしまう。
「あ~姫様、王子様は不治の病にかかっています。そこに倒れていたのもその為。」
「なんですって?!どういう事?」
そのような情報は初耳ですわ。
白髪の者が言う事がもし本当ならば医師の元へ急がなくては。
「不治の病…女性をみると口説かずにはいられなくなってしまう病です。」
「しかし勘違いしてはいけませんっ!それは本意ではないのですっ!!」
「そ…そうなの…なんて恐ろしい……。」
何だか気迫がスゴい…。
顔のよく似た娘二人に白髪の女性…アルフレッド様から求婚をされたと言うのはこの三人の内の誰かかしら。
三人共に見目はそれなりに良いようです。
女性をみると口説かずにはいられない不治の病なんて本当にあるの?
今現状で判断がつきませんし…とりあえず流れにのってみましょう。
「私は医者ですが、この病を治せるのは運命の相手の姫様だけだと思います。」
「まあ!どうすれば良いのかしらっ!!」
白髪の女性は医者…そういえば婆やの家にいた女性に似ているような…って何?!サイドに回り込まれた?!
「王子様は私どもと接触した際に病による発作が出ておりました!御目覚めになってもまだ治まっていない可能性がありますが気にしないで下さい!!」
「まずは目覚めた時に最初に目にされるのは姫様の姿が良いので膝枕して下さい。
目覚めたら優しく微笑みお名前の確認をしてキスをしましょう。」
「キッ?!」
な、なななななにを言っているのこの娘!!
アルフレッド様にキス?!私から?!
はしたないですわ!
「お待ち下さい。それは少々難しいのでお名前の確認と此方にサインを頂いてはどうでしょうか。」
キャロット!流石ですわ!!ってこの紙は婚姻の誓約書?!何故こんなもの持っていますの?!
え、え?皆で完璧みたいな顔をしてますけれど…本当に…?
そういえば王妃がチャンスを逃さないようにと…もしかして…。
いえ、もうなる様になります!
「ん…あれ…何して痛っ。」
「お目覚めになりましたか?」
「君は…。」
「ふふっ。まだ朦朧とされているのね。ご自分のお名前はお分かりになりますか?ここに書いてみて下さい。」
「ん…アルフレッド…ん?あれ、コレ婚姻の誓約書?!」
「はい、確かにサイン頂きましたわ。」
これで後は提出のみっ!
まずは陛下と王妃に承認していただいてからアニイドフの国王に承認をいただかなくては。
「君は一体何なんだ!返してくれっ!!」
「キャッサバ国の第二王女、レスタニーサ。貴方様の婚約者で今日から妻になります。」
パンパンと手を二回叩くと身を隠していたキャロットが現れたので誓約書を託します。
キャロットが先に動いてくれるので私達は即出国して先にアニイドフ国へ行ってキャッサバ国に戻るのが良いわね。
「さあ、陛下の元へ報告に参りましょう。」
「い、いやだ!こんな事許される訳が無い!!ローワン!!助けてくれっ!」
「この度はご結婚おめでとうございます。」
「ガーベラ!!」
「どうぞ末永くお幸せに。」
「キリン!!!」
「心よりお二人のご多幸をお祈り申し上げております。」
「な、なぜだ!!」
アルフレッド様のご乱心がは酷いわ。
何だか人攫いのようだわ。
なんて思っていれば顔のよく似た娘の一人が青色のボールをアルフレッド様目掛けて投げつけました。
なんて不敬な!!
「「ナイスコントロール!」」
あ、大人しくならましたわね。
今の内です!
さあ、私達の輝かしい未来へ行きましょう。




