002.王都センツステル~平和と復興~
「おや珍しい、旅の方かい? 女の子の一人旅は大変だっただろう? ようこそセンツステルへ」
「……ありがとうございます」
のんびりとした様子の門兵に身分証を見せて、王都の東門に入った。
『いくつかある』身分証のうちどれを見せるか悩んだが、当たり障りのない王都の平民としてのものを使った。
流石にフードを目深に被ったままでは怪しすぎるので、輝光術で光の屈折をいじって顔と髪色が平凡な女性に見えるようにしてから、だ。
身分証には本人の顔が分かる絵姿などはついていないし、輝光術の変装も『滅多な眼では』見破られる心配もないからこそ使える手段だけど……改めて考えると身分証を偽造し放題だし、悪意がある人間でも簡単に王都に入れてしまうよね、これ。
「(まあ、ツバキさんたち『忍華衆』を勝手に潜り込ませてる僕が言えることではないかもしれないけど……)」
2年前までは人類同士で争っている余裕なんてなかったけど、これからもそうとは限らないし、そうなるとよからぬことを考える者がいないとも限らない。
落ち着いたら、個人認証ができる輝光具でも『創って』みようかな。
そうして身分証の事を考えているわずかなうちに分厚い光結晶でできた城壁をくぐり抜けると、王都の東区の大通りに差しかかる。
「らっしゃいらっしゃい! 今日もとれたて新鮮な光魚、入ってるぜっ!」
「今朝収穫したばかりの果物はどうだい! 甘くて美味しいアプルの実が今なら3つで銅貨5枚だよ!」
「大人気の『月猫商会』から輝光具を入荷したよ! 来月の王都店の開店前に手に入る大チャンスだよ! この箱に冷めちまったスープを入れてここを押せば……ホラ! アツアツさ! そこのご主人! これを買って帰れば冷めちまった夫婦仲も、たった銀貨50枚でまたアツアツになるかもしれないぜ!」
「余計なお世話だっ! でもひとつくれ!」
その賑わいを見て、大通りの入り口だというのに僕は思わず立ち止まってしまった。
「これは……すごいね……2年前とは大違いだ」
馬車が3台は同時に通れそうな幅がある大通りの両脇には、隙間なく様々な商店が軒を連ね、朝市が終わったであろう時間帯にも関わらず元気に呼び込みの声を上げている。
店に並べられる商品の種類も豊富で、それを吟味する客たちの格好も小綺麗で、特に若い女性たちの服装はバリエーション豊かで「おしゃれしてます!」というアピールが見て取れるようだ。
その表情は大通りの中央に立ち並ぶ輝光灯よりも輝いているように見える。
「(モノが豊富で、物価も安定している。あのおじさんは平民みたいだけど、銀貨50枚なんてすぐ出せてるし、生活が安定してるのかな……平和になったんだなぁ)」
僕はお上りさんのようにキョロキョロと周りを見てしまいながら、再び大通りを歩き出した。
王都の東区は、商業区・生産区・繁華街で構成されている。
今、僕がいる商業区は大通りに面した地域で、中央区に近い方は王城や貴族街に近いこともあって大手商会の高級店が並び、東門に近づくに連れて平民向けの安価な商品を並べる個人商店が多くなっていく。
そのことは2年前から変わらないけど、僕が今見ている光景は、記憶にあるものと比べると「別の街なんじゃないか」と思えるほどに活気に溢れていた。
活気の原因は「平和になったから」「陛下を始めとした行政側が努力したから」などがすぐに思いつくし、それは嬉しいことのはずなのだけれど……瞼の裏に焼き付いている光景とのギャップに、違和感が止まらなかった。
――大通りの石畳はボロボロで、道ゆく人は武器を身につけた暗い顔の兵士ばかりだった。
――今は花屋があるあの角は、闇族の攻撃で大きく破壊され、物乞いの孤児たちが住み着く廃墟になっていた。
――振り返った先にある東門は、一度闇族に突破されていて、光結晶ではなく急造の鉄の門が取り付けられていた。
こんな明るい光景の中で、旅で汚れたボロボロのローブを着て、そんな暗いことを考えて……憶えているのは、僕だけなのだろうか。
「……王城に、行かなきゃ……」
見上げた王城の外壁が、塗り替えられて輝いてることに気づき、自分だけがあの頃に置いて行かれているようで、少し、寂しい気がした。
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次回、「騎士団長との再会~星導者、職質される~」
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