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022.輝光術実技の授業~編入生の実力~

日間PV1000突破。いつもありがとうございます。


*****

//アイネシア・フォン・ロゼーリア//


「次! 最後は新入りか。ホワイライト! 位置につけ!」


「はい! ……行ってきます」


 あ……ミリリアに『イチャイチャしてる』なんて言われて否定していたら、ルナさんが軽くお辞儀をしてテストを受けに行ってしまった。


 輝く白髪が揺れ、細く長い脚が歩を進める後ろ姿をつい目で追ってしまう。


 あれだけ完璧な容姿の女性を、私は見たことがない。『美人といえば?』と問われれば、今なら迷いなくルナさんの名前を挙げるだろう。

 所作の一つ一つが女性らしく、いつも柔らかな微笑みを浮かべていて言動は同い年とは思えないほど落ち着いている。それでいて同性にまで肌を見られるのが恥ずかしいとか、目立ちたくないから姿を変えるとか、喋る猫を連れているとか、世間ずれしている部分もある。そういえばお父様について旅をしていたと言っていたかしら。


 朝には辛く当たってしまったけれど、それも『規則違反を注意してもらっただけ』と受け止めてくれた。私が申し出たからか、私が世話係だからかは分からないけれど、何度か話しかけてきてくれたし、お友達として付き合おうとしてくれている……と思う。


 先程も口にしたけれど、私がテストで披露した【斬光波】を褒めてくれたのは、素直に嬉しかった。あれは――直接拝見することは叶わなかったけれど――あの方の技を必死に真似て会得したものだったから。


 私は友達が少ない。

 いくら学院では家柄も血筋も関係ないとしていても、侯爵家の娘で『薔薇銀の姫』である私に対してお友達として気軽に接してくれる人なんて、そうそういるものではない。

 輝光術の実力もクラスの子たちとはずいぶんと差ができてしまい、これまでずっと主席として対等な目線で話せる人もいなかった。


 中等部に入学した時に、たまたま寮で隣の部屋で、たまたまクラスも同じだったミリリアとは今ではこんな気安い関係だけど、他にミリリアのような関係になれる子はいなかった。


 そこにルナさんが加わってくれるとしたら、それは、とても嬉しい……。


 まだ出会って数時間しか経っていない相手のことなのに、私は彼女の背中を見ながらそう期待する心を抑えられなかった。


 それに、他のクラスメイトのテストの様子を見て心配そうにしていたルナさんなら、きっとこの後のテストで私が期待するような結果を出してくれそうな予感がする。


 ――そして私のその予感は、すぐに現実のものとなるのだった。



*****



「よし! 位置についたな! 始めッ!」


 ――【光線(レーザー)】。


「ッ!?」「ほう……?」


「はい」


「……ん? 返事はいい! 早くしろ!」


「いえ、もう終わったのですが……完了を宣言しないといけなかったでしょうか?」


 先生の合図でソレを使ったけど、どうやら気づいてもらえたのは……アイネさんと皇女殿下くらいのようだった。


「何を言っている? いいから早く――」


「セ、セルベリア先生!」


「なんだロゼーリアッ! 今はホワイライトのテスト中だ!」


「いえ先生、ルナさん……ホワイライトさんは、既に的を射抜いています……!」


「チッ。今のが分からぬとは、この国の輝光士は大丈夫なのか? 仮にも我らの教官であろう?」


「クラウディア皇女殿下。いくら皇女殿下でもこの学院で講師の方を侮辱するような発言はお控えください」


「ククッ、主席殿? 我は大丈夫かと心配しただけであるぞ? まるで主席殿も同じ考えのようではないか?」


「ッ! 揚げ足取りはお止めください! それに私達には『二星眼』があったから気づけただけで――」


「止めんか2人ともッ!! 2人が気づいたことに教官の私が気づかなかったのは事実だ、悪かった。いま確認する!」


 え、えーと……これは使う術の選択を間違えただろうか……?


 いや、術自体は【放出】でも単純な【光線】なんだけど、『実践的』という点を加味して()()()()()()()()()というだけで……。


 【アイコンタクト】は軍でも使われている光信号を用いた意思疎通手段だけど、これを『応用』して極短時間に極細高出力の光線を照射する、一点への貫通力を重視した輝光術。決して口には出来ないが、まさに【目からビーム】だ。


 目線を向けて発動すれば分厚い鉄の板だろうと針の先程度の細い穴を開けられる。実戦的といってもそれは視認性の低さと発動の速さにおいてのことで、小さな穴が空いた程度では消滅しない闇族に対しては、的確に急所を射抜かない限りは正直微妙な術だったりする。


 擁護してくれるアイネさんに、僕はちょっと申し訳ない気持ちになる。

 そのままセルベリア先生が眼帯をしていない右目の前に両手で四角を作り、作り出した光の膜に遠くのものを拡大して映す【望遠鏡】で的の状態を確認し終わるのを待った。


「……確認した。数ミリ程度だが確実に的の中心を貫通している……キレイに抜かれているなこれは。周囲や穴の中に余計な傷一つない。鉄板を貫通するという結果を起こすために過不足無い威力の術が的確に放たれた証拠だ。しかも、『星眼』……それも『二星眼』の持ち主でないと知覚できない速度で術を構築し結果を出し終わるとは……恐ろしいやつだ」


 【望遠鏡】を解除して口元に手を当てて真剣な顔をするセルベリア先生。

 それとは逆に、今のやり取りを見ていたクラスメイトたちは不思議そうな顔をしている。


「どういうことですの?」


「ホワイライトさんが、先生でも分からないようなすごいことをなさったというのはわかりましたけれど……」


「ルナっちほどの美人になると、『目で殺す(物理)』になるってことッスよ! まぁ冗談ッスけど」


「教練中は静かにしろクーパー!」


「は、はいッス! ……なんでまたアタシだけ……」


「日頃の行いよ」


「ヒドイッス……」


 よよよ……と泣くような仕草をするミリリアさんは置いておいて、僕は改めて先生に向き直った。


「あの、よろしいでしょうか?」


「ん? ああ……よし! ホワイライトのテスト結果は確かだ! これにて【放出】適正のテストを終了する! 次は【付与】と【強化】だ! 【付与】の適正を持つものは左列に、【強化】の適正を持つものは右列に並べ! それぞれ席順だ! 順番が来たら左列の者が右列の者に【付与】を施し、右列のものは自らに【強化】を施して的を攻撃しろ! 両方に適正があるものは、左列に並んで順番が来たらその旨を申し出でろ!」


『はい!』


 なるほど、確かにこの適正テストは二人組が合理的だ。


 【付与】は他者や物に輝光力をまとわせて対象の性質を強化したり変更するものだ。『前の記憶』の小説などに出てきていた魔法に例えるなら、『自分自身にはかけられない強化魔法』といったところ。


 反対に【強化】は別名を【内輝活性】ともいい、心結晶に蓄えた輝光力を自らの身体に巡らせて身体能力を強化するもの。同じく魔法に例えるなら、『自分専用の強化魔法』といったところか。


 この世界の輝光術は回復魔法みたいに瞬時に傷や病気を癒してしまう、なんて便利なものはない。しかし、この【付与】と【強化】の適正を持つ者は、心結晶の輝光力を活性化させ体内に巡らせることで、治癒力を高めたり免疫力を高めることができる。


 他者に干渉できるという性質上、この世界の医療術者は【付与】適正を持つものがほとんどだ。その医者が【強化】適正も持っていないと、自分が怪我や病気をしたときに自分を直せないというのはなんとも悲しい話だけど……。


 つまり、この【付与】と【強化】の適正テストは、【付与】の適正を持つ人が単独で行っても、例えば『的を固くする』という一辺倒な結果しか見られない。だから、相方を作ってその相方が【強化】で的に攻撃を行い、その攻撃にどんな性質が【付与】されているかで適正の良し悪しを判断するようだ。多分だけど。


 先生の掛け声で列に並んだのは、先程の【放出】と比べると半分程度の人数だった。人数の割合的には【付与】が3割、【強化】が7割といったところ。

 僕が知っている子だと、【付与】の左列にはマリアナさんが、【強化】の右列にはクラウディア皇女殿下とミリリアさんが並んでいる。


「アイネさんも並ばれますか?」


「ええ、左列に。ちなみに適正は両方よ。ルナさんは?」


「私も左列です」


「もしかして、ルナさん()両方?」


「はい。一通りは使えますので」


「一通りということはつまり、この後の【顕在化】も適正があるってことなのね? ふふっ……期待通りだわ……」


「? ご期待に添えるように頑張ります」


「あっ、気にしないで。私達も行きましょ」


 なにやら嬉しそうにしているアイネさんについて、僕も左列に並んだ。


 「よし! では前の者から始め!」


 また先生の合図でテストが開始されるが……【放出】と同じように始めの数組は僕の目にはパッとしない結果だった。

 そうしてテストは順調に進んでいたが、左列に並ぶとある女の子の順番が来たところで、その子はセルベリア先生に向かって手を挙げて言った。


「あの……席順で【付与】の適正だと、わたくしの前にはチェンクリットさんがいらっしゃるはずなのですが……」


「あぁ……またチェンクリットか……。おーい! チェンクリット! チェンクリット、こっちだ! エルシーユ・チェンクリット!」


 ハキハキとしたセルベリア先生にしては珍しく困ったような顔で呟いた後、グラウンドを見渡してお目当ての人物を見つけたのか、大きく手を振りながら大音量で名前を叫んだ。


 耳をキーンとさせながらも先生が手を振る方を見てみれば、グラウンドの片隅に、どうして今まで気づかなかったんだと思うほど特徴的な容姿と雰囲気を持った女の子が座っていた。


 エルシーユ・チェンクリットと呼ばれた女の子は、背の低い草が生えた斜面に足を崩して斜めに座っている。

 癖1つ無いなめらかな淡く明るい金色の長髪。訓練着姿なので素肌が眩しい膝上に置いた本に向けられる穏やかな金色の瞳。風に揺れた横髪をかき上げ引っ掛けたのは、『光樹族』よりもさらに長く尖った耳。


 昼間のグラウンドにいるはずなのに彼女の周囲だけ、まるで森の木漏れ日に照らされ優しい金色の光で満たされているように『僕の目』には映った。『光樹の妖精』というものがいるとすれば、彼女のような存在だろうと思えるほど、それは幻想的とさえ言える。


 余談だけど、ミリリアさんの言葉を借りるなら『並以上大盛り未満』だ。何がとは言わないけれど。


「…………?」


 グラウンドの端まで届くような先生の声でようやく本から視線を上げた彼女は、風になびく髪を抑えながら……右を見て、左を見て、さらには後ろを見てから、首を傾げてその綺麗な顔を指差した。そう、呼ばれているのは貴女ですよ。


 セルベリア先生が大きく頷き『こっちにこい』というように手招きをすると、ようやく立ち上がってこちらに歩き始めた。


「なんというか、ずいぶんマイペースな方ですね……あれだけ名前を呼ばれていたのに」


「そうね……でも仕方ないわ。彼女、私達の言葉がわからないみたいなのよ」


 両耳から手を離して隣に話しかけると、同じように耳から手を離したアイネさんがそう答えてくれた。


「言葉がわからない?」


「ええ。彼女……チェンクリットさんは高等部から留学生として編入してきた子なの。それも、大戦終盤の生存圏の奪還で北上した際に、初めて中央東部で生存が確認されたっていう、王城の文献でも少ししか残っていないくらいの国……というか集落の珍しい種族らしいわ。周囲を闇族に支配されながら生き残っていたっていうのも驚きだけど、長年他の国や地域との交流がなかったせいか、話す言葉が違うのよ」


「そッスねぇ……簡単な単語を紙に書いたり、身振り手振りでなんとかお話しようとしても、ほとんど伝わってない感じッス。エルっちも本で勉強はしてるみたいッスけど、今でも共通語はほんのちょっとだけしか話せないみたいッス。最初はエルっちも色々と話しかけてきてくれたッスけど、誰もエルっちが話してることがわからないし、アタシらも何度か話しかけたりとチャレンジはしたッスけど、結果はイマイチで……結局エルっちはいつも1人で大人しーくしてるようになっちゃったッス……」


「彼女が使う輝光術もちょっと特殊なのよね。使った術の効果から便宜上【付与】の適性があるってことになっているの。効果はすごいからSクラスに在籍するだけの実力は確かなのだけれど……」


「そうだったんですね……」


 自分で言うのも何だけど、なかなか苦労している子のようだ。どういう経緯でこの国に留学生としてやってきたのかは分からないけど、言葉も何もわからない異国の地で1人……ということであれば、アイネさんとミリリアさんが言うように孤独の中で静かに過ごすようになってしまったのも無理はない。


 2人の話から受ける彼女のイメージは、言葉を失ってしまった深窓の令嬢といった感じだろうか。


 ……でも、その、なんと言いますか。


『もうっ、そんな森の小鳥みたいにチェンチェン連呼しないでよっ。チェンクリットっていうのは部族名なのよ? 私はエルシーユなんだからちゃんとそっちで呼んでもらわないと分からないわよっ。失礼しちゃうわ』


 こちらに向かいながら『どうせわからないだろうから』とでも言いたげに顔色はそのままで、何やらつぶやくのが聞こえてしまった。

 どんな言語であろうと、僕なら解ってしまうので、彼女が言っていることも分かる。


 とても珍しすぎる言語なのは確かだけど、2人の話から想像する人物像と見た目の雰囲気に合わないほど砕けた口調なのですが……。



お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも「性癖に刺さった(刺さりそう)」「おもしろかった」「続きはよ」と思っていただけたのでしたら、画面下より『ブックマークに追加』『ポイント評価★5』をよろしくお願いいたします。


次回、「留学生の陽光姫~言語チートは勇者標準装備?~」

主人公くんの活躍が続きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 目からレーザーがいけるなら口からビームもいけるはず ご令嬢が使うにはアレだけど
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