136.月の悩み事~両腕いっぱいの想いを~
いつもありがとうございます。
最終選考結果を震えて待つ日々……(
オラにパワーを分けてくれ……!
遅くなりましたが、今話もお楽しみいただけると幸いです。
「どうぞ、主様。アイネ様とマリアナ様も」
「ありがとうございます。……ふぅ……」
メイド服姿のツバキさんから差し出されたカップを受け取り礼を言うと、数日前からホットではなくアイスになった紅茶を口に含んで一息ついた。
ベッドに並んで座るアイネさんとマリアナさんも、同じように風呂上がりで火照った身体を冷ましているようだ。
時刻は夜。
最近、個別に『そういうこと』をしない日の寝る前には、こうして僕の部屋に集まってのんびりと過ごすことが多くなっていた。
「……そういえばヒューエイアさん、すごかったわね」
「うんうん、ユエくんとはまた違ったすごさだったよね」
僕を挟んで今日のことを話し始めた二人につられて、僕も今日のこと……実技の授業でのヒューエイアさんのことを思い出す。
『体を動かすのが苦手』みたいなことを言っていたけれど、実際に見てみるとそんなことはなさそうだった。
どちらかというと……ただ『運動はめんどくさい』と思っているだけのようで、準備体操後のグラウンド走では何やら理屈をこねて嫌そうにしていた。
僕は本気でうんざりしてそうなヒューエイアさんを見て『大丈夫だろうかこの人』と思ったのだけれど、いざ授業の本番になると……アイネさんたちが言う通りそれはもうすごかった。
セルベリア先生の提案で実力を見るためといって僕と模擬戦をすることになったのだけれども、彼女の輝光術は独特で――自分で言うのも何だけど――僕が相手じゃなかったら不味かったくらいのものだった。
ヒューエイアさんの輝光術は、分類的には【顕在化】になるのだろうか。
どこからともなく取り出した薬品を触媒として、『前』の記憶で例えるなら物語の『召喚術』のように光で出来た犬のような四足歩行の獣や鳥のような飛行生物を創り出しては、絶妙な連携で上下左右からそれらをけしかけてくるのだ。
その連携や戦術の組み立てがまた厄介で、相手をする僕も何度か冷や汗をかいたほどに洗練されていて……さすがはウン百年を生きのび世界を渡り歩いてきただけあると納得できるくらいの実力だった。
今すぐ輝光士の試験を受けても余裕で合格できるのではないだろうか。
はっきり言って学生のレベルを超えている……まぁ、その実力と知識も相まって最初は『先生を』と打診されたのだろうけれど。
とは言っても輝光士の資格試験は毎年3月に行われているから、すぐに受けることは出来ないのか……。
学生をすることを学院側が了解したのは、資格云々というよりも後にこの国に根付いてくれることを見据えて『集団生活に慣れさせ協調性を学ばせるべし』というもっと上の方の意思でもあったのかもしれない。
帝国での『やらかし』の内容を聞くと、案外この考えは間違っていないのではないだろうかと僕は思った。
「(……あ、そういえば……)」
両隣から聞こえてくる好きな人の声をBGMに紅茶をすすりながら今日一日のヒューエイアさんのことを思い出していた僕は、彼女にエルシーユさんのことを聞きそびれてしまったことも思い出した。
まぁ、今思い出してもどうにもならないし、クラスメイトになったのだからいつでも聞く機会はあるだろう……と、心のメモに書き記しておくに留めておく。
心のメモといえば……思い返せば今の僕にとってエルシーユさんのことよりも考えるべき重要なことがまだ残っている。
帝国の第一皇女がこの国に来る件だ。
いや、学院長室でクレアさんに話した通り、僕が知っていることもほとんどないし、今ここで考えても仕方がないかもしれないけれど……なんだか嫌な予感がするんだよなぁ。
先方の意図が不明というのが不安の原因ならいいのだけれど、遺憾ながら僕の『嫌な予感』は結構な確率で当たってしまう。
「(うーん……)」
大事にならなければいいけれど……なんて思いつつ、僕はいつの間にか空になっていたカップをソーサーの上に戻した。
「――それでユエさんが切り込むと、彼女、驚いた顔をしていて……って、ユエさん……? どうかしたのかしら……?」
「へっ……? ああいえ、何か言いましたか……?」
アイネさんとマリアナさんの話は実技の授業の模擬戦で僕がヒューエイアさんにどうやって勝利したのかというところまで進んでいたようだったが、急に声をかけられて考え事をしていた僕はすぐに反応できずに間の抜けた声を出してしまった。
「ユエくん、何をそんなに考え込んでるのかなって、アイネちゃんはそう言ってるのよ?」
「ええ……何か悩み事があるなら、相談してほしいわ。その、恋人、なのだし……」
「ふふっ、そうよー? 私たち、ユエくんの恋人なんだからっ」
「……わ、私もでございます……」
「あ、ありがとうございます……そうですね……」
左側からは恥ずかしそうに、右側からは嬉しそうに見上げられ、僕は一瞬迷ったけれど、考えていた『帝国の第一皇女が来るらしい』ということをツバキさんも含めて話すことにした。
僕の事情を知っているここの3人なら問題ないだろう。
……ツバキさんが知ると『忍華衆』のみんなに余計な仕事が出来てしまうかもしれないけれど。
「……たしかに、一国の、それも大国と言っても過言ではない帝国の第一皇女が、通例も礼節も無視して一方的に来訪するなんて……不自然ね……」
クレアさんから聞いた話をざっと伝え終わると、アイネさんがカップの縁をなぞりながらそう言って僕の考えに同意を示した。
「うーん……お話が上の方すぎて、私にはよくわからないけれど……非常識だっていうのはわかったわ」
「ええ、そうですね……」
マリアナさんも貴族とは言え、国同士レベルの話になるとその辺りの通例とか常識というところまでの知識は無いようだ。
それでも自分なりに解釈して話の主旨は分かってくれたみたいで、アイネさんと一緒に肯いている。
「でも、そうね……これもユエさんが言う通りだけれど、先方にどんな意図があるかわからない以上は、相手の出方を見るしか無いわね……まさか公式には療養中になってる王太子様としてユエさんが出向くわけにもいかないでしょうし……」
「やはりそうですよね……」
1人で悩んでいても仕方がないけれど、こうやって話してもやはりアイネさんも同じ意見のようだ。
しかし、考え込んでしまったアイネさんとは対照的に、マリアナさんはどこかおかしそうに自分の意見を口にする。
「ふふっ……もしかするとその皇女さま、案外本当にユエくんに……王太子様に会いたいだけだったりして」
「えっ……いやいや、それはないと思いますよ……? 接点があると言っても、少しだけでしたし……どうしてそう思ったんですか?」
「それは……だって、ユエくんだもの」
「………?」
「あぁ……そうね、ユエさんだものね……」
「……??」
あ、あの……なんでそれでアイネさんまで納得したみたいに肯いているのでしょうか……?
『僕だから』といわれても、当の本人は何も思い当たるところはないのですが……?
「ユエくん、きっとその皇女さまにもいつも通り……優しくしてあげたんじゃないの?」
「え……? いえその、マリアナさんが言いたいことはなんとなく分かりますが……お会いした時は戦時で僕も王太子としての立場でお会いしているのですから、振る舞いも言葉遣いも気をつけていたはずですし……。『優しくしたか』なんていわれても……覚えてないですよ……」
「くすっ……本当かしら? 誰かさんったら、その王太子様なときでも私に優しくしてくれた気がするのよね……? あれって、本当の王太子様……アポロニウス様でもそうしてくれたのかしら……?」
「ふふっ、やっぱり。ユエくんは昔からそうだもんね……?」
「うぐっ……そ、そんなことは……」
アポロなら……あのときのアイネさんのような女の子には、何か励ますようなことは言うだろうけれど、その励まし方はちょっと強引になりそうだな……。
今思うと、ずいぶんと王太子らしくないことをしてしまっていた気がする……。
間で冷や汗を流す僕に身を寄せてくる2人は、からかうような笑みを向けてきていて……。
「ほ、本当ですよっ……。あの頃の……特に戦時中の僕は、色々といっぱいいっぱいで……こんなに人を好きになったり、好いてもらったりなんて考えることすらなかったのですから」
2人にそんな意図はないだろうけれど、なんだか『その皇女様にもコナかけてたの?』と問われている気がして……きっぱりと無実を証明したくなった僕は、そう言って両隣に居るアイネさんとマリアナさんの腰を引き寄せて抱きしめた。
「ぁぅ……」
「ユエくん……」
ポスっと僕の胸に顔を寄せることになった2人が、顔を赤くして瞳を潤ませながら僕を見上げてくる。
こ、これは……自分でやっておいてだけれども、そういう雰囲気になってしまったのだろうか……?
いやいや、この部屋にはクロもいるし、確実に面倒なことになるからせめてアイネさんの部屋かマリアナさんの部屋に場所を移してからっ……!
「……あ、主様……その、私も……」
「つ、ツバキさんっ……!?」
そうこうしていると、モジモジとしながら頬を染めるツバキさんが、遠慮がちにベッドの端に座る僕の前に立った。
「え、あの、その……」
僕の腕は二本しかないのですが……。
それにクロはどうする……あれ?
いつものカゴに、いない……?
「クロ様でしたら、窓の外で少し『涼んで』いただいております」
ア、ハイ。
妙な位置で気配がすると思ったら……いつの間にか吊るされてるのですね、これ……。
視線を追って僕が懸念することに気づいたツバキさんはそう言うと、僕の前でそっと膝を折った。
……どうやらクロのことも含めて、僕の知らないところで準備万端だったらしい。
「……で、ですから主様……その、失礼いたします……」
観念して――決して嫌な訳では無いけど――体の力を抜くと、ツバキさんは両腕がふさがっている僕の腰に抱きつくようにして身を寄せてきた。
「うふふっ……今夜も、いっぱい……ね♡」
「ぅぅっ……ユエさん、ごめんなさい……でも……」
ペロリと唇を舐めたマリアナさんと、より顔を赤くしたアイネさんの手によって……もう待ちきれないとばかりにあっという間に僕のパジャマは取り去られて行く。
……ほんと、あの頃の僕にこんな関係になれる恋人ができるなんて、思いもしなかったのだけれども。
色々と考えることや問題があるといっても、愛する人達との触れ合いに勝るものでもないよね……。
そんな誰に言うでもない言い訳を思い浮かべながら、僕らは熱くなってきた夜よりも熱い時間を過ごすのだった……。
お読みいただき、ありがとうございます。
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