134.編入生と恋人たち~君の周りは賑やかだね~
いつもありがとうございます。
(気がつくのが遅れましたが)朗報です!!
なんと、カクヨム様にて開催されている『第4回ドラゴンノベルス小説コンテスト』にて、応募総数2,645作品の中から中間選考結果として残った36作品の中に本作が入りました!!
これも応援してくださっている皆様のおかげです!
ぜひ今後ともよろしくお願いします!
――カランカラーン!
「……ぐすんっ。はい……では本日の座学の授業はここまでですっ……ぇぅっ……わからないことがあれば、何でも『先生に!』聞いてくださいね! ……うわぁぁんっ……!」
――バタンッ!
2限目の終わりを告げる鐘の音が響き渡ると同時に、半泣きで何とか耐えていたミミティ先生が本気で泣いてしまいながら教室をトテトテと走り去っていってしまった。
「「「…………」」」
クラスメイトたちはそれを同情が混じった生暖かい目で見送ると、次にその原因を作った人物に視線を送った。
「……ふむ? なにやら注目されているが、あの子供……いや先生だったか。彼女はなぜあのように泣き出してしまったのかね?」
「……ヒューっちが容赦なさすぎるからッスよ……」
「「「(うんうんっ!)」」」
「あはは……」
おとがいに手を当てて真面目な顔で考えているようなヒューエイアさんにミリリアさんがツッコミを入れると、クラスメイトたちは揃って肯いていた。
僕もミミティ先生に同情して……しかし相手が悪かったと苦笑するしかできなかった。
なぜなら、座学の授業の内容が『歴史』だったからだ。
ミミティ先生はいつもの先生らしく、教科書の内容を僕らにも分かりやすいように『光書板』を使って説明してくれていた。
だが……授業の元になっている教科書というのは、そもそも人が作っている。
数学であれば決まった答えを導くためのもので間違いが起きることはないが、その内容が歴史ともなれば、筆者の解釈や立場によっては微妙に『事実と異なる』場合や『一方の視点に寄った』『筆者の都合が含まれた』内容が記述されることもあるわけで……。
歴史において数百年の昔のことを知ろうとすれば、今を生きる僕たちにはその教科書の内容を信じるしかないし、別の筆者の歴史書を読み解きその違いを学ぶくらいしないと『歴史の真実』に気づく機会などそうそうあることではないだろう。
しかし、今日は歴史の生き証人ともいえるヒューエイアさんがいた。
ヒューエイアさんにとっては知識の収集が趣味や生きがいとも言えるものであるらしく、教科書に書かれた……ミミティ先生が話す内容に『事実と異なる』場所がある度に指摘が入り、しかもその指摘が理路整然としていて粗などないものであるから、僕ら生徒のほうもその説明に聞き入ってしまい、最終的には授業は完全に乗っ取られてしまっていた。
そういえば、学院は最初は先生として迎え入れるつもりだったんだっけ……?
結果的には僕たち生徒にとっては得難い機会となったのだけれど、ミミティ先生にとっては災難だったというわけだ……。
「さ、さて……まいりましょう」
「そ、そうですわね……」
そんな授業中のことを思い出している間に、クラスメイトたちは次々と席を立ち廊下に出ていく。
「ふむ……?」
その姿を不思議そうに見送っていたヒューエイアさんは、次に僕の方を見てきた。
いつの間にかお世話係のようになってしまっている僕は、問いかけるようなその視線に応えてこの後の授業が実技の授業だからみんなは更衣室に向かったということを説明した。
「なるほど、それはわかったが……はぁ……」
「どうかしたのですか……?」
「いやなに、学生というのは身体作りや術の実践も必要だというのは理解しているが……私も必要かね……? 術の理論を試すならこの制服でも良いはずだが、着替えるということはそれなりに身体も動かすのだろう?」
「それはもちろん、そうですが……」
眠そうな瞳をさらにげんなりとさせて言うヒューエイアさんの様子から、明らかに面倒くさそうな雰囲気が伝わってくる。
「この学院は輝光士を目指す者のための場所だもの。貴女もここを卒業して資格を得ることが必要なら、特に実技の授業はきちんと受けないとダメよ?」
「それは正論だね。……ええと、君は?」
身体の向きを僕の方に向けていたヒューエイアさんは、横から声をかけられて立ち上がったアイネさんを見上げた。
「そういえばルナさんとは違って私はまだ自己紹介していなかったわね。私はアイネシア・フォン・ロゼーリア。一応、今はまだ学年の主席ってことになってるわ」
「ふむ、その名前からするとこの国の貴族かな? よろしく、アイネシア君。一応、というのは?」
「アイネでいいわ。実家は侯爵家よ。主席って言っても学年が上がったときの結果だから……次の座学のテストの後にはルナさんが主席になっているでしょうからね」
「アイネさん……」
「くすっ、事実でしょう?」
「それは、その……ありがとうございます」
まるで自分のことのように、どこか誇らしげにも思える口調で微笑みかけてくるアイネさん。
自分で言うのはアレだけど、僕と結ばれて気負うことがなくなったからだろうか……主席という立場に固執することもなくなったようだ。
その優しげな微笑みに僕の心も暖かくなり、つい僕も同じように微笑み返してしまう。
「あら、何のお話かしら?」
そこにマリアナさんもやってきて、僕の後ろから両肩に手をおいて身を乗り出した。
後頭部に幸せな感触が当たっていて、雑談中だというのにちょっぴりドキッとしてしまう。
「ルナっちがアイねぇから主席の座を奪うかもしれないって話ッスよ。あの頃のザ・お嬢様なアイねぇはもういないんスね……すっかり骨抜きになっちゃってまぁって感じッス」
「い、いいじゃない別に。ルナさんが主席なら誰も文句は言わないでしょう?」
「ふふっ、そうね。ルナちゃんはすごいものね」
マリアナさんまで僕をヨイショするようなことを言いながら、上から僕の顔を覗き込むようにして微笑みかけてくれた。
「あ、ヒューエイアちゃん……さん?だったかしら。私はマリアナよ」
「ああ、ご丁寧にありがとう。呼び方は何でもかまわないよ」
「じゃあヒューちゃん、かしら? ふふっ、可愛らしさに歳なんて関係ないものね?」
「はっはっは。私を指して可愛いなんて言われたのは何十年ぶりだろうか。マリアナ君は……そうか、似た血を感じると思ったが……おっと、あえて口に出す必要もないな。……やはり面白いな君たちは」
僕、アイネさん、マリアナさん、ミリリアさんのやり取りを見て僅かに微笑んだヒューエイアさんは、そう言うと僕の方に目を向けてきた。
「それにしても、やはり今朝にも言った通りルナリア君はこの集団の中心人物のようじゃないか。君がここにいるだけでこんなにも賑やかになるなんてね。同輩の彼女もキミと一緒に居たようだし……」
チラリと金色の目線が送られた先には……こちらに向かってくるところだったらしいエルシーユさんがいた。
『ヒュー様……? 何かおっしゃいましたか?』
『いや、何でもないよ。ルナリア君と仲良くしておけば、この数年間は退屈せずに済みそうだなと言ったんだ』
その美人顔をキョトンとした表情にしながら小首をかしげるエルシーユさん。
……どうやらヒューエイアさんのことを『伝説の』と評していただけあって、彼女に対しては丁寧な口調を使うようだ。
『ヒュー様もルナリアさんとお友達になるのですかっ? それはステキです! ぜひ一緒にルナリアさんともっと『仲良く』なりましょう!』
そしてヒューエイアさんが口にした単語に反応して、今度はパーッとその表情を輝かせている。
『エルシーユ君はこう言っているが、良いのかい?』
『ええ、せっかくこうして同じクラスになったのですし、これもなにかの縁ですから……普通のお友達であれば私は構いませんよ』
『そうか。ならお言葉に甘えるとしよう。ふむ、久しく友達なんていなかったが……悪くないな』
そう言って眠たげな瞳を細めたヒューエイアさんの言葉には、どこか年月の重みが感じられる気がした。
「なんだか話が盛り上がってるっぽいところ悪いッスけど、そろそろ時間がヤバいッスよ?」
エルシーユさんが来たことで違う言語で話していたからか、内容についていけてない様子のミリリアさんだったが、そう言って立ち上がり教室にかかっている時計を指差した。
「そうね。ヒューエイアさんは初めてでしょうから、案内したほうが良さそうだし……行きましょうか」
「実技の授業も資格のために必要と言うならしかたないな……大人しく君たちについていくよ。友達を巻き込むわけにもいかないからね」
「ふふっ……」
仕方ないと言いつつ立ち上がったヒューエイアさんだったが、歩き出したその足取りはどこか軽く……最近では恒例となっているいつもの面々に加わることになったヒューエイアさんを連れて、僕らは更衣室に向かうのだった。
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