132.編入生は自由人~賢者と呼ばれた少女~
いつもありがとうございます。
見た目と話し方のギャップがあるコっていいですよね。
そんな新キャラちゃん。
寮を出た僕たちは、ひとまずは機嫌が良さそうに歩くエルシーユさんを引き連れて教室棟に入る。
そしていつものように階段を登り、この二ヶ月で見慣れた教室の前までやってきたところで……見慣れない光景が繰り広げられているのを目にした。
「(あの方……誰ですの……?)」
「(わたくしは存じ上げませんわ……)」
なにやらクラスメイトたちが廊下に集まって、自分たちの教室だというのに入ろうとせず、こっそり中を覗き見るようにしていたのだ。
「ごきげんよう皆さん。どうかされたのですか?」
「あら、ホワイライトさん! ごきげんよう」
「ごきげんよう。それが……知らない方がわたくしたちの教室にいらっしゃって……」
「知らない人……?」
「それはいったい……?」
入口付近が塞がれてしまっていてどうしようもなかったので、とりあえず声をかけてみることにしたが……知らない人が居ると言われて思わず意味もなくアイネさんと顔を見合わせてしまった。
「あちらの……ココさんの席だったところですわ」
「わたくし、今日の日直でしたので早くに来たのですが……そのときにはもういらっしゃったんですの……。なぜだか近寄りがたい雰囲気で、ついこうして見ていることしか出来なくて……」
「ココさんの……」
女の子たちが隙間を開けてくれたので僕も中を覗き込んでみると、確かに見慣れない誰かが……って、あの髪の色と気配は……。
「(学院長室前で会ったあの娘だ……)」
窓際の一番うしろの僕の席の斜め前……つまりアイネさんの席の前のココさんの席だった場所には、ボサボサの白金色の髪を無造作に流して明らかに制服に着慣れていない様子の女の子……学院長室前で出会ったあの不思議な光樹族のあの娘がいた。
この前見たときと変わらず、なぜか制服の上からボロボロの白衣を羽織っている。
頬杖をついて片手で何かの書物のページを捲っているが、言われてみると確かにその容姿と独特な気配……雰囲気も相まって、その空間だけまるで神聖な空気でも流れているかのように見える。
エルシーユさんが明るく陽光のような空気を振りまくとすれば、あの娘が纏うのはどこか鋭い……存在感の重みがあるとでも言えるような静謐な空気だ。
「……おや? 君は……」
あ、目が合ってしまった……。
廊下の方では女の子たちが団子になって教室を覗いているという異様な光景が繰り広げられているにも関わらず、我関せずと読書にふけっていた白衣の女の子は、なぜか僕が覗き込んだ途端に何かに気づいたように本から目を上げると、僕に向かって声をかけてきた。
「ご、ごきげんよう……」
クラスメイトたちからの『お知り合いなんですの!?』というような視線を受けながら、僕も仕方なく教室の中に進みでた。
「ふむ。機嫌は悪くないが……いや、今のはここでの挨拶か何かかな? なら私も返さないと失礼か。ごきげんよう?」
「え、ええ……ご丁寧にどうも……」
僕は苦し紛れに挨拶をしただけだったのに、彼女はおとがいに手を当ててなにやら考察するかのように独り言を言うと、疑問形の挨拶が返ってきた。
「もしかして、編入生の方だったのですか?」
「まぁ、そんなところさ。ところでそこにいる彼女たちは、なぜ入ってこないんだい?」
「いえ、それは……貴女がいたからですよ。朝来たらいきなり見知らぬ人がいて、この席に座っていたら……腰が引けてしまったのだと思います」
「そうなのかい? まあ私は気にしないから、入ってくると良いのではないか?」
いや、貴女が気にしてくださいよ……飾ってあった花瓶と花の意味、察してくださいよ……。
「ん……? ああ、そういうことか。てっきり私を歓迎してコレが置いてあるのかと思っていたが……なにやら君が言う『この席』は訳ありのようだね」
「へ? え、ええ……」
と思っていたら、僕の顔やクラスメイトたちの様子を見た彼女は察してくれたようだった。
「学校なんて通うのは初めてだからな……ヒトの文化というものを忘れかけてたよ」
「はぁ……」
なんというか、頭の回転は早いようだけれどどこか掴みどころがない人だなぁ……。
「ルナさん……?」
「あ、いえ。何でもないですよ。編入生の方みたいです」
とりあえず僕は、廊下の方に向かって手招きをしてアイネさん達やクラスメイトたちに入ってくるように促した。
ホッとしたような顔をしたお嬢様たちが、遠巻きに目の前の彼女の様子を見ながら次々と教室に入ってくる。
「ふむ。君はこの集団においてなかなか立場が上のようだね」
「いえ、そんなことは……あ、自己紹介がまだでしたね。私はルナリアといいます。ルナリア・シール・ホワイライトです」
あの日に学院長室に来ていたのは、編入のための面談だったのかな?
なんて思いつつ、とりあえず僕は初対面の人に対する礼儀として軽くカーテシーをしながら自分の名前を告げた。
「ああ、自己紹介だね、ありがとう。ふむ、ルナリア君か。私は――」
『あれ? もしかして、ヒューエイア様!?』
僕の自己紹介を真似しようとしたのか、席から立ち上がった白衣の彼女が名前を告げようとしたところで……その先を口にしたのはクラスメイトたちに続いて教室に入ってきたらしいエルシーユさんだった。
「おや……? 懐かしい言葉が聞こえたね……?」
「お知り合いだったのですか……?」
「いや、私に彼女と面識はないが……ふむ。『その耳と雰囲気は……今代の巫女か?』」
光樹族の中でも特別な輝光樹族だというエルシーユさんが『様』付けで呼ぶような白衣の彼女……ヒューエイアさんも、輝光樹族だということだろうか?
今の言葉も、後半はエルシーユさんが使っている言葉と同じものだった。
『はい! 今は私が『陽光姫』をしています。お会いできて光栄です!』
『エルシーユさんは、この方……ヒューエイアさん? をご存知なのですか?』
『ええ、そうよルナリアさん! 私たち輝光樹族の中ではヒューエイア様は『賢者』と呼ばれる伝説的なお方なのよっ! ただ、大昔に里を出てから行方不明になっているってお父さまが言っていたけど……』
『伝説的な賢者、ですか……』
確かに知的な印象はあるけれど、小柄でズボラっぽいヒューエイアさんのことを賢者と言われても、今のところはいまいちピンと来なかった。
ただ輝光樹族の感覚でも『大昔』となると……いったいどれだけの時を生きている人なのだろうか。
『おや、ルナリア君はこの言葉を使えるのか……興味深いね』
『へ? あ、いえ……まあ……そ、それで、その行方不明だったヒューエイアさんがなぜこの学院に?』
『はっはっは。まぁ色々あってね、ここの学生をすることになったんだ』
僕を観察するかのようなその金色の瞳に見つめられ、なぜか居心地が悪くなった僕が話題を変えると、ヒューエイアさんはそう言って笑った。
『最初は先生をしてくれとも言われたが、それは面倒そうだったから断ったんだ』
『そ、そうですか……』
それで学生の立場に収まってしまうというのもすごいけれど、どう『色々あった』らそんなことになるのだろうか……。
「ぅっ……えぅっ……ぐすんっ……あぁっ!?」
なんて思っていたら、なぜだか既に半泣きのミミティ先生が教室に入ってきて、ビシッとヒューエイアさんのほうを指さした。
そしてそのままパタパタと近寄ってくると、腰に手を当てて精一杯『怒ってますよ!』とアピールしていた。
「ヒューエイアさんっ! こんなところにいたんですねっ! 探したんですからっ! ぷんぷんっ!」
「おや? 私を探しに来たみたいだが……ルナリア君、この子供は誰だい?」
「こっ……先生は子供じゃありませんっ! 先生ですぅっ! それよりも、職員棟から勝手に居なくならないでくださいよぉ……!」
「ふむ……? 学生というのは教室で学ぶものなのではないのかい? 結果としてここに来るなら、問題ないのではないのか?」
「ぇぐっ……だ、だめですっ! 先生にも段取りっていうものがあるんですからねっ……ぐすんっ……!」
ヒューエイアさん、それで紹介もないのにここにいたのですね……。
「あぁ、なんだ……わかったよ。郷に入っては郷に従え、だな。子供に泣かれては敵わないからね。仕方ないから、案内してくれるかい?」
しゃがんで目線を合わせて頭を撫でるという、どう見ても泣く子をあやすお姉さんみたいな態度でミミティ先生に接するヒューエイアさん。
「な、泣いてないもんっ……! あと私は先生ですってばぁっ……ぐすんっ……ほ、ほらっ! 行きますよっ!」
「っとと、分かった。わかったから引っ張らないでくれ」
そのまま手を引かれて教室を出ていってしまい、教室には異国の言葉で話していた時から一連の騒動(?)についていけないクラスメイトたちのポカンとしたような顔が残されるのだった。
初見の時は『不思議な人』という印象だったが、どちらかというと『自由な人』なのかもしれない……。
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次回、「編入生は自由人~『色々』の内容~」




